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誰のためでもないラブソング  作者: 満点花丸
第二幕:狼少女との一日
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ただのデート回③

 俺と沙由菜は近くのスーパーに来ていた。

 門限まであと40分もないため、急いで買い物をしなくてはならない。そんな時だ。

 沙由菜がなに食べたい? 割と何でも作れるよというが、逆に嫌いな物を伝えた方が早いと思い、俺はきゅうりが嫌いだと沙由菜に伝えた、その瞬間のことである。

「あんた、子供じゃないんだからキュウリくらい食べなさい!!」

 と沙由菜はわざわざ野菜コーナーまで俺を連れてきては、ひたすらキュウリを買い物かごの中へと入れまくる。

「あほか!! いくらなんでも10本も買うことはないだろ!!」

「好き嫌いなんて恥ずかしくないの?! アレルギーなら仕方ないけどさ!!」

 と沙由菜は少しむーっとしてそういう。がしかし、本当にキュウリだけはだめなんだ。青臭さというか独特の香りがふわーっと水分と共にじゅわっとやってくる。キュウリ農家の方々にはとても申し訳ないが、俺は本当にきゅうりが食べられない。

「頼む、俺の好き嫌いはきゅうりだけなんだ。いや、もっと言えばパクチーとかも苦手だけど、普段から口に入るようなものでは本当に、きゅうりだけは絶対に……。せめて、1本だけにしてくれ、頼む」

「はぁー。仕方ないわね。確かに10本は多いし、1本で許してあげるわ」

 よし、引っかかった。なんだかんだ沙由菜もちょろい。どうせ、俺が荷物を持つことになる。一本くらいならどこかへ隠して、あとであゆみにでも食わせればいい。

 あたかも食べるかのようにそういうことで、沙由菜の気を許させるこの手腕だ。翠あたりがそういうことを言っていた気がする。

「まぁ、胃袋つかむなら好きな食べ物である方がもちろんいいものね」「これでキュウリ回避だ」

 沙由菜の方からボソボソと何か聞こえてくるが、俺は俺でいっぱいいっぱいなせいでよく聞こえなかった。

 ともあれ、俺はきゅうり地獄を回避できそうだ。

「そんなにきゅうりが嫌なのはわかったけど、それなら好きなものをいってよねー」

「そうだなぁ、今日は魚の気分かもしれない」

「じゃあ、そうだなぁ、さっき見た感じではタラの切り身が安かったし、アクアパッツァにでもしてみますか!」

 アクアパッツァ。あまり耳なじみのない料理名だ。とりあえず、後でのお楽しみということにしておこう。

「あとは、砂だしするの面倒だからムール貝とかかなぁ」

 沙由菜は珍しく気合が入っているのか、一人でぼそぼそとつぶやきながら料理を考えてくれる。なんというか、これはあれだ。

「なんか、新婚夫婦って感じだな」

 と俺がぼんやり思ったことをつぶやいていると、沙由菜は何か辛い物で急に食わされたかのように目を見開き顔を真っ赤にしている。

「ば、ばばば、ばか! んんん、変なこと言ってないで、ジュース、好きなの持ってきて!!!」

 沙由菜はそんなことを叫んで、俺を押しのけてすたすたと歩いて行ってしまう。

「まったく、いくらなんでも意識しすぎじゃないか……」

 小さくため息をつき、沙由菜に言われた通り飲み物を選びに足を運ぶ。飲み物に関しては何かしらのお茶とかでいいだろう。

 俺は飲み物コーナーへ向かい、緑茶の2リットルペットボトルを手に取り、沙由菜と再び合流した。

 ある程度、メニューが決まったようで、買い物かごの中にもはある程度まとまった食材が早くもそろっていた。そのまま、お会計を済ませ、俺らはスーパーを後にした。

 スーパーはそこそこ大きい道路に面していて、道路を向かって左手に学校があり、右手が寮の方向である。少しそのまま道なりに歩き路地に入って割とすぐくらいのところに寮の門がある。

 そのため、この大きい道路は必然的に寮生が通る通学路になる。そう、俺らはうかつだった。いや、その当人は知ってるのか?

「あれ、沙由菜に高峰君じゃん、今帰り?」

 と俺らがスーパーを出て、その道路に沿って歩き始めようとしたあたりで声を掛けられた。

 そいつは少し着崩した制服、ちらりと見える胸元のエロスが薄明りに見える。

「あ、え、佳乃」

 沙由菜は驚愕しすぎて、目が白黒したようにうろたえた反応をしている。

 そいつは沙由菜の親友その1の佐藤佳乃ギャルだ。

「佐藤こそこんな遅くまで、不良してたのか?」

 その反応に見かねた俺が対応をする。

「あー、いや不良はしてないけど。それより、二人してスーパーで何してたのー? デートするって聞いたけど、あれあれ、まさかー?」

「おう、外で飯食ったら門限に間に合わなさそうだし、遅いけど家で食おうぜって話してな」

 と俺が言うと、佐藤はとてつもなく大げさにニマニマする。

「高峰君、沙由菜をよろしくね。あ、するときはちゃんと着けるんだよ?? もし持ってなければ私のあげるよ?」

 笑いを押し殺せておらず、クスクス笑いながら佐藤はそういう。

 というか、佐藤の言いたいことがまったく俺には伝わってこない。

「は、つけるって何を?」

「そりゃ、あれだよ、あれ。ゴ・ム」

 と佐藤がそういった瞬間、ボンという効果音の直後佐藤の胸倉をつかむ沙由菜がすぐに現れた。

 ボンは、別に照れる漫画的表現ではなく、沙由菜の本日の戦利品が入った買い物袋が落ちる音であることにすぐ気づく。いや、当たり前だ。咄嗟に俺はその買い物袋を空いた手で回収する。

「あ、あああ、あんた佳乃、なになにいってるの」

「そうだそうだ、もっとやれー、沙由菜―」

 自分で佐藤を語るときは不良かビッチというが、すぐにそうやってそういう風に結びつけるのだからある国では差別用語ではあっても、ビッチといって差し支えないだろう。

 ってか、女子高生がマイ避妊具を携帯してるだけでなんというか、あれな感じがするぞ……。

「もう、二人とも初心だよねー。冗談だよ、冗談」

 観念したという様子の佐藤がそういうと、沙由菜は佐藤をつかんだ手を放す。佐藤は少し乱れた、いや元々乱れてはいるが、胸元を直し俺の方を見てくる。

「ちょっと高峰君、わたし沙由菜と話したいことあるから、先行ってて?」

「ん? なんだ??」「え、何、佳乃」

 と俺らはハモるが、その様子を見てさらに佐藤は笑い、俺にむかってしっしっと手払ってくる。

「ほら、それは乙女だけの話だから、ほら行った行った!」

 まぁ、いいか。

 俺は特にそんなのを邪魔する気もないので、言われた通り先に歩く。少し歩いて振り返ると、二人は立ち話をするわけでもなく、俺と少し距離を取ったように歩き始める。

 どうせ後で話せるのに、いったい何の話なのやら……。


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