ドキドキお部屋デート!
沙由菜を待たずに俺は寮の門をくぐり、男子寮の方へと向かう。男子寮は二棟存在し、およそ150人ほどが住んでいる、らしい。
これはやはりかなり多く、全校男子の3分の1がこの寮に住んでいるわけだ。そのため、結構に人の出入りも激しい。女づれの奴もいる。こればかりは風紀の乱れがどうとかでかなりこそこそと密会しているやつらばかりだ。
まさか俺がそのようなことをすることになるとは、と予想もしていなかったのでまったくどうすればよいかわからなかったりもする。
まぁ、なんとかなるだろう。
男子寮にたどり着くと、ほどなくして、沙由菜も俺に追いついてきた。
沙由菜は若干緊張感を感じているのか、強張った顔をしている。まぁ、確かに冷静に考えてみると、佐藤の言うように若い男女が二人きりでどちらかの家にいる、という状況はそういう状況にかなり近いだろう。それに、男子寮に入っていく姿を見られると、そういうことだと他の生徒たちに教えることに他ならない。
そう思えば、冷静に俺も結構うかつな判断をしてしまったのかもしれない。いや、まぁそもそも俺らが仲がいいことは今のクラスの連中や周りの奴らならば知っている。そういう関係ではないことはわかられているはず、誤解はされない。
よし。
「こんなところを沙由菜を狙うイケメン超人たちに見つかりでもしたら、俺明日からいじめられちまうかもなぁ」
と少し茶化したように言う。
「大丈夫よ、そんなことしてるやつらがいたら正座させて、一日説教してやるんだから。イケメンでも超人でもそんなくだらないことしてる人なんて好きになるわけないし」
「お、おう。男前だな」
しかし、俺らの懸念はまったくの杞憂で、誰にも会うことなく俺の部屋へとたどり着いた。
玄関の電気をつけ、居間の方へと沙由菜を導く。
「おじゃましまーす。へぇ、結構綺麗にしてるじゃない」
沙由菜は居間に入るや否やきょろきょろ俺の部屋を観察しだす。沙由菜は3人部屋と言っていたので、これよりも大きいだろうが、寮のこの部屋もそこそこ大きい。
構造的には1DKで、居間に入るとすぐ右にカウンターキッチンがある。左には風呂、トイレ、洗面所があり、居間と隔たるように寝室があるという感じだ。
「そんなにじろじろ見るなよ……」
「べつにー、減るもんじゃないでしょ?」
「そりゃ、裸を見られたときのセリフだ」
俺は沙由菜の荷物を食卓のテーブルに置き、スーパーで買った荷物と共にキッチンへ向かい、荷物を置く。
そのまま、シンクの水道から水を勢いよく出し、バシャバシャと手を洗う。俺のその様子を見てか、沙由菜もちょこちょこと俺の方に寄ってきて、肩が触れるか触れないかくらいの距離まで来て、手を伸ばしてくる。
「近い……」
「あのギターさ、」
俺の言葉は無視し、さらに、俺の手をも無視して、その上から手を洗い始める沙由菜。
「あのギター、いつから弾いてないの?」
あのギターとは居間に置いてあるインテリアのことだろうか。いや、そうなんだろうけど。
「さぁな、覚えてない。それにしても、お前の手洗った水が掛かって手洗った意味なくなった気がするんだが?」
「わざとよ。そうでもしないと無視されると思って」
「あのなぁ……。まぁ、でも、あれから弾いてないから二年近くは弾いてない気がするな」
沙由菜が俺のギターに関して気になる理由も聞かなくてもわかる。俺自身がそれを一番知っているわけだし。それに今日よくわかった。
「二年前って、あんたまだこの学校じゃなかったじゃん」
沙由菜はそういうと、俺の顔を見つめてくる。少し涙を滲ませたような、そんな瞳が俺の目に映る。何を察しているのかはまったく俺にも読めないが。
「ごめん、私、そーまのこと本当はあんまりわかってないのかも。変なこと聞いてごめんね……」
と、少しの沈黙が訪れる。俺自体は別に気にしていない。あの時のことを忘れたいわけではない。忘れたいのは、そのときの彼女のことだ。俺の心にずっと居座り続けるあの子が忘れたいのに忘れられない。
我ながら女々しいが……。
「じゃあ、別に打算的に教えたわけじゃないけど、教えた代わりに一つだけ。佐藤と何の話をしてたのか教えてくれ」
わざわざ俺と離れてまですぐに聞かなきゃいけない内容が何なのか気になるところではある。別に何か迷惑をこうむったとかそんなのではないけど、隠し事をされているみたいで何か気持ち悪い。
沙由菜は、少し顔を伏せ、
「あー、」
と少し考えるように声をあげた。
「佳乃ね、今日ずっと図書室で勉強してて疲れたから、明日の朝ごはんの準備とか代わってって」
そんなの俺がいても話せたんじゃないだろうか……。何かを疑ってるわけでもなんでもないし、そういわれたら確かに沙由菜はこれから俺とご飯食べるっていうので帰りがもう少し遅くなる可能性がある。
疲れたなら風呂に入ってすぐに寝る。朝ごはんの仕込み、例えばご飯を研いだり水につけて置いたり、朝早く起きなくてもいいようにある程度の仕込みをしておくとかをやるなら、代わってもらいたいと思うかもしれない。
だが、そんなのは俺が横にいたって話せたわけだし、わざわざ少し離れてまで話すことだろうか。もはやメールでもいいはずだ。
俺が少し疑ったような表情をしていたせいか、沙由菜は慌てたように顔を上げて、付け加えたように、
「ほ、ほら、あとは佳乃っぽいことよ。あいつは絶対に手を出してこないから、私が押し倒せーとかなんとかかんとか……」
という。やっぱり何かを隠していそうな感じはする。
沙由菜にとっては言いたくないことなのかもしれない。だが、俺は沙由菜と仲はいいと思っているし、去年はなんだかんだ沙由菜のおかげでこうしてある程度の元気を取り戻せているので、悩みとかがあれば聞いてやりたい気持ちがある。
だから、隠し事のようなことをされると少し、心がざわついてしまう。しかし、ここでこれ以上追及する意味もないし、俺は観念する。
「まぁ、それならいいんだが。沙由菜、何かあったらなんでも言ってくれ。俺はお前に結構感謝してるんだ。悩みとかあったら、力になりたいって思ってるからな」
そう、たぶん俺が知っている沙由菜であれば、物事をはっきりさせるタイプだから、嘘をついたり隠し事をするということは、何か心配させたくないとか、そんな気持ちを持ってるのかもしれない。
沙由菜が隠し事をしているということ前提になってしまっているが、もしそうであればそうだと思う。
「うん、ありがとう。もし、話すこととか相談したいことあったらすぐに言うよ」
沙由菜は照れ臭そうな表情をしつつも、やはりどこかぎこちない笑顔でそういう。
そうだ、もし沙由菜が何か話してくれることがあれば、俺がちゃんと信頼してもらえるようにしっかりしなきゃならない。
「もし、そーまも何か悩みとかあったら、私たくさん聞くし」
沙由菜のその一言に、俺は沙由菜にすべてを打ち明けてもよいかもしれない。そうすれば沙由菜も何かしらもっと話してくれるかもしれない。そう、思った。




