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誰のためでもないラブソング  作者: 満点花丸
第三幕:文学少女との一日
20/43

神様神様。

 動物園の閉園時間が過ぎ、とりあえず園内から出た俺らはまず、冬菜の提案するハンバーグ屋に電話をして空席があるかの確認の電話をした。閉園時間の16時30分にはまだ店も開いていないらしく、オープンの18時に席を予約という形で手を打った。

「というわけで、それまでの時間が暇だな」

 と、俺が言うと冬菜が何かを思いついたように、

「それでは、近くの神社に行きませんか? 私はまだ歩けるので、当初の目的のお散歩の続きということで」

 と言う。

 冬菜の提案がなければ目的もなく駅の近くをぶらぶらするか、カフェに行くくらいしか思いつかなかったので願ってもいない提案だ。目的のない旅に出ることほど無駄なことはない。これは沙由菜とフラフラしたときにも言った通りだ。

 俺と冬菜は目の前にある大きな公園と隣接している、というかほぼ内部にある神社へ向かう。動物園の目の前には高校野球の甲子園選抜の予選が行われるほどの大きな野球場がある。さらに昔はここでプロ野球の試合も行われていた、らしい。俺らが生まれたころにはすでに立派なドームがあって、今では地元に根付いた球団もあるくらいだ。

 野球自体には特に興味はないのだが、たまにあゆみが野球見に行こうぜと言ってくる。あゆみは野球を見に行っているわけではないのだが。

 無言で歩いているのも何なので、冬菜に一つ質問をしてみる。

「冬菜はさっきスポーツとか全くしないって言ってたけど、部活とかもずっと入ってないのか?」

「そうですね、家とか図書室で本を読んでる方が好きなので、特に部活とかに入ろうって思ったことないです」

「文学部とかでも入ればよかったんじゃないか?」

 と俺が聞くと、冬菜は少し間をおいてから、

「その選択肢もあるにはあったんですけど、やっぱり一人で静かに読んでいたいので……」

 と答えてくれる。

「まぁ、そんなもんか」

 ここで、なんでそんなに一人で行動をしたがるのか、を聞いてみてもよかったのだが、まだ時期尚早な気がする。だいぶ冬菜も心を許してくれていそうな感じもするが、冬菜が合わせてくれているだけかもしれない。

「壮馬くんは何か部活やってるんですか?」

 そう思っていると、逆に冬菜から質問が飛んでくる。例のテレビでやってたモテテク的なので、女性から質問が飛んでくると興味を持たれている証拠だと言っていた。なるほど、確かにうれしいし、距離が縮まったであろうことがわかる。

「俺もやってない。中学の時から帰宅部だった。部活をやってる暇もなかったしな」

「中学生が部活もやれないほど忙しいって悪いことでもしてたんですか?」

 いや、冬菜、確かに中学生はたいていが部活をやっていて、帰宅部の不良たちがみんなでいつも遊んで悪さをしてるっていうのはよくある話だが、いくらなんでもそりゃひどいぞ。

 球場を通り過ぎ、雑木林はさすがに言い過ぎだが、木々が生い茂るところを整備して道を作ったかのような方へ入っていく。この公園は動物園でもないのにたまにリスとかもぶらぶら歩いているくらい自然が豊かだ。その道を突き進んでいけば神社がある。

「いやまぁ、不良ではないけど、見た目だけはワイルドな先輩とかとつるんでたって意味ではそうだな」

 俺は5歳ほど年上のギタリストの顔をぼやぼやと思い出す。確かに、あの人は俺らがバンドを結成する理由を作った時にはもう高校を卒業して髪の毛を染めて、はたから見たら不良にも見えなくもない。

「壮馬くんにもグレていたときがあったんですね……」

「いや?! ちょっと馬鹿な事をしてたときもあるけど、反社会的な行動を取ったことなんて一度もないぞ?!」

「へぇ、そうなんですねぇ」

 冬菜はわざと片言で話すようにそういう。いや、こいつ実は様々な俺のボケをボケ殺したんじゃなくてスルーしてたんじゃないだろうか、とさえ思うくらいにはそういう素養を見せてくる。

「ほんとだよ、その先輩だってバンドのメンバーだし、逆に言えば俺を変えてくれた内の一人なんだよ、本当に感謝してる先輩だ」

「壮馬くんが昔はもっと悪かったってことですか?」

「いや、だからなんで俺は常に悪人である前提なんだ?!」

「胸に手を当てて考えてみてください」

 は、もしかして……。

「まさか、さっきお返しはこの辺で、っていったくせにまだちょっと根に持ってるな?」

「なんのことですかー、わかりませんー」

 と白々しくもさっぱりわからない、という態度を取ってくる。なんかむかつく。

 ってか、こいつ全然天使なんかじゃねー。むしろ、動物園の終盤あたりから小悪魔感が出てるぞ。この場合なんだろう、色欲怠惰憤怒と来たら、嫉妬でもない暴食でも強欲でもない、し傲慢でもないだろう……。広義にいって憤怒だろうか。沙由菜と被ってしまうが。いや、マウントを取ってくる感を考えると、傲慢だろうか。まぁ、いいか。

「いや、冬菜は本当に意外すぎる一面を持ってて、俺はそれに一喜一憂して疲れるよ……」

「壮馬くんが私を揶揄おうとしてくるからですよ」

 と冬菜は笑いながらそういう。ほら、なんだこいつ。たぶん、この冬菜がからかってくるのはそもそも最初に動物園に入った時の、動物と触れ合ってみるか? をからかっていることを理解したうえで虎視眈々とからかい返す瞬間を狙っていたに違いない。なんて狡猾な女なのだ。

 それに、俺の思い描いていた冬菜の像はかなり信ぴょう性がない。もはや、俺が主観的にそう捉えてしまっているだけなのかもしれない。きっと、冬菜は何か心理的に問題を抱えていたとしても、どこにでもいるいたって普通なちょっといたずら好きな女の子なのだろう。

 逆に言えば、こういう行動も俺に少しずつ心を開いてくれているのだと前向きにとらえる他ない。

 そして、そうこうしているうちに神社の敷地内に足を踏みいれていた。

 参道のあたりはしっかりと整備されており、参道に沿って桜の木が立ち並ぶ。もう少し時期が遅いと花見のスポットとしても有名な場所だ。

 次第に辺りの建物が夕焼けの照り返しで少し赤を帯びてほんの少し優しい印象を覚える。

 それから、本殿が見えるところまでたどり着き、そのまま俺は本殿へ向かおうとする。

「あ、待ってください、壮馬くん。しっかりお清めしてからいかないと罰が当たっちゃいますよ?」

「確かにその通りだが、それを言ったらその前に無意識に鳥居くぐってたぞ、冬菜はちゃんと一礼したのか?」

「私はちゃんとしましたよ? そのとき壮馬くん、ちょっと怖い顔してて呼びにくかったんです。さすがに怒らせてしまったかなって……」

「ん? そうか? いや、それなら悪かった。別に怒ってない、考え事をしてた」

「そうですか……。あ、でも、ちゃんと敬う気持ちを持っていればきっと大丈夫です!」

 ずいぶんガバガバな理論だな……。ま、でも、そこまできっちりやるやつも今日日、数少ないのは間違いない。熱心な人には怒られそうだが、俺も別に神様を信じているわけではないのだし。

 冬菜はその辺はしっかりマナーととらえているのだろうか、ここは冬菜に合わせておいた方が無難だろう。

 冬菜と共に手水舎で書かれた通りの作法で手を洗い、口を濯いだ。その後、本殿に向かいながら、なんの願いをすればよいのやらと一案する。

 特に今すぐ叶えたい願いはない。いや、強いて言えば沙由菜が隠していそうな何かを知りたいし、冬菜のことももっと知りたい。だが、それは願いなどではないわけだ。困った。

 手水舎から本殿までの距離などないに等しく、そう考えていると、賽銭箱の前に立ってしまっていた。

 ええい、ままよ。と適当な硬貨を取り出し、賽銭箱に入れる。そして、作法の通り、二拝二拍手をする。

 今は沙由菜のことはひとまずいい。沙由菜が何かを隠していても隠していなくても、何かあればきっと沙由菜なら言ってくれる。だから、今は隣にいる冬菜だ。冬菜のことをもっと知りたい。そして、もし叶うなら、俺に対して小春がしてくれたように、冬菜の問題を解決してやれますように。

 俺はそう願掛けをした後、最後に一拝する。その行動を終えて、少しほっとした気分で本殿を後にする。

 少々気が抜けて、へたりそうになりながら、俺は隣の冬菜の様子を見る。

 冬菜は特に変わった様子もなく、ってそれはそうだろうが、まぁ、なんだ至って普通だ。

「冬菜は何の願い事をしたんだ?」

 と特に話題も思いつかず、とりあえず定番のそれを聞いてみることにした。

 冬菜は特に顔の向きを変えずまっすぐ見たまま、

「そういうのを聞くのはマナー違反ですよ。特に乙女の願い事を聞くなんて、壮馬くんはやっぱりちょっぴり変態さんですね」

「そういうもんか?」

「そうですよ、会社の上司が女の子に恋人がいるのか? って聞くくらいデリカシーないです」

「いや、会社員になったことないから全然わからないんだが……。高校生が吐く言葉なのか? 丸の内OLが女子会であの上司まじセクハラひどくない? って言ってるノリだぞ、それ」

「私も丸の内のOLさんになったことないからわからないですけど……」

「それくらいにわからない、ということだ。確かにマナー違反といえばマナー違反かもしれないが」

 とにかく、冬菜は何を願ったのかを聞かれたくはないらしい。

 ちなみに、俺は聞かれたとしても言えない。要約すれば冬菜と仲良くなりたい、だからな。つまりは冬菜のことを狙っていると捉えられかねない。それは間違っている。

 俺らがそうやって話していると、神社の職員の人が17時には門を閉める決まりになっているので急いで出てくれと言われ、俺らはそそくさと駅の方へ向かう参道から神社を後にした。


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