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誰のためでもないラブソング  作者: 満点花丸
第三幕:文学少女との一日
18/43

文学少女は意外と子供。

 俺たちが動物園に着くころには、入園するよりも退園し始めている人の方が多かった。それはそうだろう、入場の最終受付の時間も近づいてきている。

 結構に立派な門構えであるが、昔来た記憶ではもっと大きかった記憶がある。いや、自分が大きくなったから小さく見えるだけであろう。動物園なんてそれこそ小さいときに行ったきりだからまったく記憶にない。

「私、動物園に来たのなんて10年ぶりくらいかもしれません……」

「俺もだ。遠足みたいなので行ったきりだな。とりあえず、チケット売り場でチケット買ってくるからここで待っててくれ」

 ゲートのすぐ横にあるチケット売り場で2枚チケットを入手し、急いで二人で入園する。

 園内に入ると、確かに見覚えのある光景が映し出された。園内の奥に向かって小さな傾斜、坂道になっている。そもそもこの動物園自体が高地、山の麓にあるイメージだ。もちろん、そんな高い山ではないが。動物園の園内はもちろん、その周りも原生林が隣接しているためか緑豊かな光景が広がる。

「なんだか懐かしいですね。この感じはなんとなく見覚えがあります」

「だよな。園内マップ見たらたぶん相当に変わっているみたいだけど、雰囲気自体は変わってない」

「そういえば、動物園の中に遊園地がありましたよね」

「あー、あったあった。まだあるんかなぁ。まぁ、周ってたらわかるか」

 その後は、冬菜と相談して、時間もそこまでないため、ある程度ピックアップしてそこだけを時間をかけてみる、ということにした。

 特に、かなり最近に新規オープンしたゾウ舎やホッキョクグマ舎、アジアゾーンなんかが見どころだろう。

 俺らは最初にゾウ舎へと向かうことにした。

 が、途中にこども動物園と書かれたところが目に入る。

「冬菜、動物と触れ合ってみるか?」

 と少し子ども扱いしたような茶化した風な口調で言ってみる。

「確かに触れ合いたくはありますけど、制服にニオイとか汚れが付いたら後が少し億劫です」

 冬菜は俺のいたずらめいたフリをまじめに返してくる。いや、まぁ、いいんだ。何というかイメージにはあってる。それこそ、あんまり人と話すタイプではないのであればなおさらだ。昨日、沙由菜と話してて思ったが、根本的に人はなかなか変わらない。普段からそこまで人と話さないなら、ボケ殺しとかも得意なのだろう、きっと。もちろん、性格とか考え方、価値観なんかは成長を通して成熟していくものなんだろうが。

 冬菜はどうだったんだろうか。小さい頃から大人しい方だったんだろうか。俺はそんな疑問を感じながら、こども動物園はスルーしてゾウ舎へ足を運ぶ。

 ゾウ舎の周りはゾウが暮らすのに十分なスペースが設けられ、遊び場や水浴びが出来る場所も確保されているようだ。

「ゾウさんは今、中にいるみたいですね」

 冬菜がそういわずとも、ゾウが外には出ていないことが見て取れる。

「とりあえず、中に入ってみるか」

 そう提案し、俺らはゾウの広場と隣接しつながっているゾウ舎へと入っていく。

 中に入ってみるとすぐ右手にゾウがぶらぶらと歩いている姿が目に映る。

 冬菜はゾウをより近距離でみるために舎とこちらを隔てるガラス窓へと近づいた。

「昔よりよっぽど身長も伸びましたけど、それでもゾウさんってすごく大きいですね」

 と少し興奮したように上ずった声でそういう。

 冬菜はのそのそと歩くゾウをじーっと見つめていると、何かに気付いたのか、こちらに振り返る。

「見てください、壮馬君。あのゾウさんお尻に星のマークがついてます!」

 俺もガラス窓に近づき、冬菜の指を差す方に目を向ける。

「お、ほんとだ。どんな意味があるんだろうなぁ」

「どうでしょう。個体を識別するため、とかですかね。やっぱり、完全に見た目で判断するのは私たちも飼育員さんにも難しいでしょうし」

 完全に見た目で判断する、ね。さすがに飼育員さんだったらわかるような気もしなくもないが。人間が人間を判断する上では、見た目もだが話せばまったく違うのはわかる。一方で人間からすれば、同じ種類のゾウであれば、大小の違いくらいでしか判断ができないようにも思う。そういう意味ではゾウの健康管理などを完全に見間違うことなく行う上では必要なのかもしれない。

「時間も少ないですし、行きましょうか」

 満足したのか、冬菜は先に進んで行ってしまう。だが、冬菜はそのすぐ左手側にゾウとの背比べの絵が描かれた壁に目をつける。

 この時間帯だからか子供の姿もそこまで多くないが、そういうのと背を比べ始めるのは子供のやることだろう。ここで背を比べ始めたら子ども扱いをしてやろう。そう画策しながら、俺もその壁面に近づく。

 俺の予想は悲しきかな、当たってしまう。

 冬菜は背筋をぴんっと伸ばし、およその自分の頭の位置を手でマークしながら壁面の方に振り返る。

「だいたい、162、3センチくらいですかね……」

 俺は冬菜のその様子を見ながらクスクスと笑ってしまう。

「え、どうして笑うんですか?」

 と冬菜はきょとんとして俺を見る。

「いや、そんなことするのは小学生までだろ、普通。くっくっく」

「えー、やりませんか? 私、小さい頃はよくやってましたよ」

「いや、だからそれ小さい頃の話じゃんか!」

 なんだ、こいつは意外と天然ボケなんだろうかと思ってしまう。俺が冬菜に抱いていたイメージはやはりあの日のが強すぎて、儚げで物静かそうなイメージだったが、思った以上に子供っぽいところもあるのかもしれない。

 俺はつい、冬菜の頭を撫でてしまいたい衝動に駆られてしまう、これが父性か、と思っていたら、俺の理性はどっかへ行ってしまっていて、気付いたら冬菜の頭を撫でていた。

「え、まってください。子ども扱いしないでください、それに髪の毛触るの禁止です!」

 と冬菜は頭をぶんぶん振って俺の手を振りほどいたと思ったら、二、三歩後ずさる。

「壮馬君、これ以上近づいたらだめですからね……!」

 さらにはそういいながら、両手を前に出してこれ以上近づくなと身体までつかって意思表示される。さすがに、そこまでやられると傷つくが……。

「悪い、悪い」

 冬菜は少し乱れた後頭部のあたりを手櫛で直し始める。その様子を見ながら、なにか、どこかで見た様な光景であることに気付く。噂に言う既視感、デジャヴというやつで、大体は勘違いないし、よく見る光景だからそういう既視感を感じるというものだ。

 そもそも冬菜と行動を共にするのはこれが初めてだし、勘違いだろう。

「よし、じゃあ先に進むか!」

 そういって、菜を追いぬいて先に進む。それを見た冬菜はとてとてと俺の後ろについてくる。

 悪くない、昨日の沙由菜とのギスギスというか、どこかぎこちない感じで遊びにいくのと違い、デートっぽい。いや、なんだろう、屑っぽくも感じるが、心に残る相手がいても女の子とデートするというのは年相応に楽しめてしまうものだろう。

 俺らはそこまで時間を掛けずにゾウ舎を一通り見て、ゾウ舎を後にする。

 途中、寄り道などをせずに、そのままホッキョクグマ舎へ向かい、冬菜はさらにホッキョクグマ可愛い、アザラシ可愛いと最初は動物は可愛いですよね、程度だったのにはしゃぐように見て回っている姿がやはりギャップというかなんというか、そういうのを感じてしまう。


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