全ての罪は私ひとりのものです
シャルロが村に帰って来たのは、まだ雪が少しだけ残る頃でした。明日にも春がやって来るでしょう。
家に戻ったシャルロは、フローラに氷の花の花びらを食べさせました。すると、フローラの病は見る見るうちに治ってしまいました。翌日には庭を散歩する事も出来るようになりました。庭には春の花たちが咲き始めています。
兵によって連行された冬の女王とシャルロは、王宮の広間に座らされています。
王様がふたりの前に立ち、威厳を込めた声音で言いました。
「シャルロ。冬の女王が宮殿の塔を明け渡さなかったのはおまえの所為なのは明白だ! おまえも冬の女王と共に罰を受けなくてはならない」
シャルロは王様の目をまっすぐに見ながら言いました。
「わかっています。ボクはどんな罰でも受ける覚悟です。ただ……、冬の女王様はボクと妹を助けてくれただけです。冬の女王には責任はありません。だから全ての罰はボクに与えて下さい」
冬の女王が話しに割って入ります。
「シャルロはただ、妹のフローラを救おうとしただけです。塔を明け渡さなかったのは、私が勝手にやった事です。シャルロには罪はありません。全ての罪は私ひとりのものです。だから……、罰は私だけが受けるべきものです」
王様は困りました。どちらに罪があるのか? どちらに罰を与えるべきなのか?
それまで王様の隣で黙っていた王妃様が立ち上がり、慈悲に満ちた笑みでシャルロと冬の王女を見た後、王様の目をまっすぐに見つめながら言いました。
「王様。王様は『おふれ』をお出しになりましたよね。確か『冬の女王を春の女王と交替させた者には好きな褒美を取らせよう』と……」
「確かに出したが……、それがどうした?」
「今回の一件で一番活躍したのは誰でしょう? 私の目にはシャルロの様に見えるのですが……。シャルロが無事に戻って来たから、冬の女王は塔の扉を開いたのですよね」
「しかし、それはシャルロの個人的な目的のためであって……、そもそもシャルロの為に冬の女王があんな事をしたわけだから……」
王妃様は王様の言葉を遮りました。
「おふれには『冬の女王を春の女王と交替させた者』としか書いてありませんでした。『冬の女王が塔に立てこもる原因を作った者』などと言う言葉は無かったように思いますが……」
「…………」
王様は何も言い返せません。
「では、王様。シャルロが冬の女王の立てこもりを止めさせたと言う事でよろしいですね」
王妃様に睨まれ、王様は首をすくめるように頷きました。
「それでは褒美はシャルロに与えるという事でよろしいですね」
王妃様は王様を睨みつけながら念押しをしました。
「わ、わかった。シャルロよ、何なりと望むがいい。お前の望みは叶えられることだろう」
シャルロは「ちょっとだけ時間を下さい」そう言って冬の女王と何やら小声で話しをしています。何故かシャルロも冬の女王も頬を紅く染めています。
「冬の女王。ボクは……、ずっとアイラの事が好きでした。でも、アイラは冬の女王だし……、ボクなんかが好きになって良い人じゃないと思っていました」
「そんなことありませんわ。冬の女王と言ったって、私もただの女子です。まわりの女の子達と何も変わりません。それに……」
「それに?」
冬の女王の顔がますます真っ赤になってしまいました。
「それに……、私もシャルロ、あなたの事が好きです。ずっと……、ずっと前から……」
シャルロの顔も真っ赤です。
「冬の女王、ボクと結婚してもらえませんか?」
冬の女王はうつむきながら、消え入りそうな声で言いました。シャルロに聴こえるか聴こえないかと言う微妙な声量でしたが、全神経を女王の返答に傾けていたシャルロが、その声を聞き逃す事はありませんでした。
「よろしく……お願い……します」
シャルロは王様の方に向き直ると言いました。
「ボクと……、ボクと冬の女王の結婚を許して下さい」
冬の女王は真っ赤になって下を向いたままです。王様はそんな冬の女王に聞きました。
「冬の女王もそれを望むのか?」
冬の女王はうつむいたまま、恥ずかしそうに小さく頷きました。
「わかった、シャルロと冬の女王の結婚を許そう。さあ、婚礼の準備じゃ!」
国中がシャルロと冬の女王の結婚を祝福しました。
王様の命令で、北の湖に浮かぶ小島までの道が造られました。新しい道にはドーム型の屋根も造られました。冬の間、いくら雪が降っても氷の花を取りに行く事が出来るようになりました。もう、フローラと同じ病にかかっても大丈夫です。
そして、シャルロと冬の女王は幸せに暮らしています。王様と季節の精霊たちのはからいで、季節の塔に家族で入ることが許されました。
二人は、春から秋の季節を山の中腹にある小屋ですごしました。シャルロが狩りに行っている間、冬の女王は料理やその他の家事にいそしんでいます。
冬になると、シャルロは街を見下ろす山の頂にある、季節の宮殿から狩りに出かけます。冬の女王は宮殿の塔でシャルロの帰りを待ちます。
ふたりの平和で愛に満ちた生活は、いつまでも、いつまでも続きました。
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