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一章34話 目的地蒼竜の住処「人数も結構増えたな」

 結局と言うか案の定と言うか、幼ドラゴンのアオは千夏と離れると暴れるとまでは行かないが機嫌が悪くなるようで、これでは千夏を同行させないと幼ドラゴンを親の元に帰すことは不可能だろうという結論になった。

 千夏のステータスで従魔扱いになっているからそうなるとは思っていたが……一緒に連れて行っても大丈夫か?

 俺と同じ異世界人と言ってもレベルは低いし、俺がこの世界に来たばかりの頃と一緒で魔物との戦いになんて慣れてはいないだろう。それにステータスやアイテムのメニューは使えるようだが、フラッシュタスクや命中予測、戦闘マップ等が千夏には無いようだった。


「でも~、チナちゃんに懐いているからって~このままここに置いておくわけにもいかないのよ~」


 まぁ、幼ドラゴンアオの親はドラゴンだからな。取り返しに来られたら街が酷い事になる。

 アオの卵が盗まれたことが原因でミネラルレが襲撃されたんじゃないかって話も出ているみたいだけど、ミネラルレとアオの親ドラゴンの生息地の場所が離れ過ぎているからそれは無いんじゃないかな?

 

「でも、ミネラルレの襲撃は別件だよな?」

「そうね~、真実は分からないけどぉ、ミネラルレを襲ったのは翠竜ティフォーネ、確認されている中で一番若いドラゴンね~」


 つまりは一番弱いドラゴンだと? 撃退するのに結構苦労したんだけどな……。


「ネージュが暴れたと言う話は過去に一度も無い。だから刺激しなければ無害なドラゴンだと言われているな」


 卵盗んでおもいっきり刺激してるけどな。

 それが分かっているからかクラッドの表情は卵を見つけた時からずっと硬いままだ。

 まぁ、親ドラゴンに早めに帰してやるに越した事は無いか。


「今回も移動は馬車か?」


 出発の段階になってから確認と言うのもあれだし、目の前に大きめの馬車が用意されているのだから効くまでも無いんだが……。


「ふふ~ん、今回は馬車は馬車でも高速馬車よ~!」


 あぁ、あるある、魔法とか特別な馬を育てたとかでめっちゃ早い馬車な。


「は~い、乗って乗って~」


 結構重要な任務に行くってのに相変わらずのノリだな。

 で、今回のメンバーは国から正式に卵の……もう孵ってるけど、返還の依頼を受けている俺とリエルにクラッド。


「ギャウ!」

「しっ、まだ動いちゃ駄目よ」


 千夏の腕の中で人形の振りが出来ていないアオとアオの仮保護者にされた千夏。アオを連れて行くのは当然で、千夏が居ないとアオが暴れそうなので千夏も同行。

 屋敷の前なので人目は少ないが、千夏はアオの事が一般人に見つからないように急いで馬車に乗り込んでいく。

 因みに、千夏はリエルが用意した魔法使い用のローブを制服の上に羽織っているので、怪しい行動をとらなければ回りから変に疑われる事も無いだろう。アオさえ大人しく人形の振りをしていればな……。

 そして、アイテムボックスには昨日のうちに用意された大量のアオの食料が放り込まれている。

 戦い方なんて分からないと言っていたが、一応武器としてリエルから鞭を譲られていて、それもアイテムボックスに放り込まれている。装備しろよ。


「お子ちゃまは落ち着きが無いよね~」

「師匠、一番落ち着きの無い奴が何か言ってますよ」


 ソウマとマイン弟子二人、依頼内容が依頼内容だから弟子共を連れて行くのは危険かもしれないんだが、千夏が同行する時点でマインは聞き分けなくなった。


「いいからさっさと乗り込め」


 まぁ、ドラゴンがやばかったら俺が何とかしよう。


「お兄さん、一応武器は作ったけど、この程度の練鍛じゃドラゴンには通用しないですよ」

「素手よりはマシだろ」


 昨日のうちにミリルに作って貰った剣を受け取りアイテムボックスにしまう。昨日頼んで今日受け取りなので素材も大したものを用意できていなかったが、素手よりは良い。

 欲を言えばマインが持っている魔剣レベルが欲しいがそう簡単に出来る物でもないみたいだ。

 ミリルのステータスを確認できるようになって判明したスキルの中に魔工技術って魔剣や魔法のアイテムを作れるスキルが有ったが、練度が低いのか成功率が3%も無かった。

 弓に関しても、ミリルに近距離武器の作成が得意で遠距離武器の作成が苦手ってスキルで補正がかかっていたのでまだ先になりそうだ。

 まぁ、でも、色々刺激になるだろうとついでだからミリルも連れて行く。


「トラウマにならないと良いけどな」


 ミリルに続いて馬車に乗り込むのは竜騎士見習のフォス、何かこいつ口調が安定しないけど、ドラゴンに単身で挑める俺の存在とか志の低い先輩竜騎士だとか今回のドラゴンを帰しに行く事とかに色々思うところが有るんだろう。

 俺には少しずつレベルを上げて行ってやるぐらいしかできないが……まぁ、その内落ち着くだろう。


「早速ドラゴンぶっ倒しに行くのか?」


 幼ドラゴンを帰しに行くんだと話を聞いている筈なのに寝ぼけた事をほざくアルト。


「アオを帰しに行くって聞いただろ? 話聞かないなら留守番してるか?」


 今回、同行しなくてもいい奴を何人か連れて行くからそのうち一人ぐらい減らしても構わないんだぞ?

 冗談だと笑って馬車に乗り込むアルト……ホントに冗談だろうな? ついた先でドラゴンにいきなり殴りかかるなよ。


「もう皆乗ったっすか~?」


 最後にリュインが確認して来るが、今回もリュインが同行するのか? ほら最初ここに来るときはリエルとクラッドの二人で馬車の操作はやってただろ、下手すると危ないから待ってろって。


「あ、ルイ様はこの子と会うの初めてだったっすよね?」


 俺がリュインに対して要らない心配をしていると、リュインの影からメイド服の少女が出て来る。

 見ない顔だ。リエルの邸の見習いのメイドの子とは別の子だな……。


「人数が増えて来たんで新しく入ったセルンっす。今回はこの子も同行するっすけど……イジメちゃ駄目っすよ」


 リュインも来ない方が良いと思ってるのに新人まで連れて行くなよ。


「セルンと言います。よろしくお願いします!」

「ああ、よろしくって、せっかく増やしたメイドを連れて行くのか?」


 思わず返事しちゃったけど、邸の仕事させておけよ。


「世話する対象がみんな出てるのにっすか? これもメイドの仕事の研修っすよ」


 確かにそうだが、邸にも仕事は有るだろう? ついて来るならこの子じゃなくても称号がファイターメイドって奴が居ただろ。そいつに……。

 あ、戦闘マップで確認した新人メイドセルンの称号がリュインと一緒だ。


「大丈夫っすよ、足手まといにはならないっすから」


 まぁ、リュインぐらい動けるなら問題は無いかもしれないが……。


「私、頑張ります!」


 うん、守らなきゃ……。



 とまぁ、気合は入れて出発したが、高速馬車速い速い、戦闘マップで確認していたが敵が近寄ってくる前に通り過ぎているんだよな……そんな訳で魔物との戦闘も無く順調に進んでいた。

 結構な速度が出ている筈なのに馬車内の揺れが今まで乗って来た馬車より少ないんだ。どういう構造何だろうか? どうせ魔法がどうとかって説明になるんだろうけどな。

 魔物との戦闘も無い、馬車が速すぎて日暮れには目的地の途中にある街に到着しているので野営も無い。


「暇って事を除けば順調過ぎる道中だな、もうずっとこの馬車使えば良いんじゃねぇか?」


 宿に着き、リュインとセルンの手で運悪く進行方向に出現するかもしれない魔物を轢き殺すための刺々しい鎧を脱がされている馬たちを眺めながらそんな事を口にする。


「あ~、高速馬車は国の所有物っすよ~。今回は事が急を要する重大事項って事で使用許可が出ただけっす。リエル様も乗るのは今回が初めてじゃないっすかね~」

「途中で壊れたって事にしてパクるとか」

「駄目っすよ~」


 まぁ、その程度の言い訳じゃ通用しないよな。

 別に馬車に揺られてのんびり行くのも歩いて旅するのも嫌いじゃないから良いんだけどな。


「ギャウ?」


 お? アオ?


「どうしたアオ、千夏は一緒じゃないのか?」


 千夏もアオも先に宿の方に行ってた筈だが、お前一人で歩いてたら騒ぎになるじゃないか……。


「ギャ~ウゥ」


 何言ってるか分からん。えっと、千夏は……こっちに向かって来てるな。

 戦闘マップで千夏の位置を確認すると、真っ直ぐにこっちに向かって来ていた。


「ギャ~ウギャ~ウ」


 アオが鎧を外して貰い寛ぐ馬の足元にじゃれだした。

 この馬は胆が据わっている様だ。幼いとは言えドラゴンを前にしても動じていない。

 ミネラルレの時の馬は結構離れた頭上をドラゴンが通っただけでめっちゃ暴れたんだがな、さすがと言ったところか?

 暫くアオと馬たちやり取りを眺めていると千夏がやって来た。


「やっぱりここに居た。アオ、勝手に行っちゃ駄目でしょ」

「ギャウギャウ!」


 千夏がアオを叱っているが、叱られているアオは千夏が来たことで上機嫌になり全く堪えていない。


「そう言や千夏、やっぱりって言ってたが、アオがここに居るって分かってたのか?」

「え、うん。これもスキルなのかな? 離れててもアオの居る場所がなんとなくわかるの」


 盟友の契約か従魔か……どのスキルの影響か分からないが、突然アオが居なくなっても千夏が居ればすぐに見つけられるって事か。


「それは便利だな……あまりアオを人目に触れさせたくないし、とりあえず宿に入るか」

「あ、そうだね、アオ、行くよ」

「ギャウ~」


 千夏が呼びかけるとアオは馬たちに一声鳴いてから千夏の腕の中に納まった。

 その背に馬たちが一つ優しく鳴いたのが、アオにまた遊びに来いとでも言っているようだった。


「『またおいで』だって、アオ良かったね」


 当たってた? てか、アオと意思疎通できているみたいだけど他の動物とも可能なのか?

 俺のシステムスキルもステータスのスキルに表示はされていないが、千夏にも色々とそう言うのがありそうだな。


「まぁいいか、千夏、部屋割りはどうなったんだ?」

「大部屋二部屋借りて男女で分かれるみたいよ」


 俺、クラッド、ソウマ、フォス、アルト。

 リエル、マイン、ミリル、千夏、リュイン、セルン……アオは雄みたいだが千夏とセットだからアオも女子組に含めるが、あのサイズなら場所は取らないだろう。

 いっそマインはこっちでも良いんじゃないか? あいつ普段の言動からしてこっちに交じっていても問題無いと思う、基本アホだし。


「それはマインに失礼だよ」


 な! 俺の考えを! まさか意思疎通の応用で心まで読めるとか!?


「先輩、分かり易いって言われたことない?」

「……知らん」

「有るんだ、ふふ……」


 ……一時は取り乱していた千夏だが、アオの保護者的な立場になってからは良く笑顔を見せるようになった。アオが結構奔放だから落ち込んだりしている暇が無いって言うのも有るんだろうが良い事だ。

 俺と違い身体まで変わっている千夏は元の世界に戻るのは俺よりも困難だろう。

 簡単には帰れないんだからこそ、この世界を楽しんでほしいよな……。


 まぁ、色々頑張ろう。

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