一章33話 幼竜と千夏「孵してんじゃねぇよ」
色々有って混乱していた千夏が楽しそうに笑顔を浮かべている。
千夏が笑っている事に関しては何ら問題は無いが、その千夏が無邪気に抱きしめている羽根の生えたでっかい蜥蜴……はっきり言うとドラゴンの卵から生まれて来た幼ドラゴンであるという事が問題だ。
千夏に抱かれソウマたち弟子共に囲まれて機嫌良さそうにしている幼ドラゴンの周囲には、割れた卵の殻が卵が爆発でもしたんじゃないかって範囲に広がり散らばっている。
散らばった卵の殻の量、殻の表面の模様、うん、間違いなくあの卵だ。
幼ドラゴンは小学生ぐらいの大きさの二足歩行蜥蜴に羽が生えたような姿で、額や肘に当たる部分が角のように少しだけ伸びている。
全身の青い鱗はまだ柔らかそうなのだが氷のような質感を感じさせ、抱きしめている千夏は冷たくて気持ちよさそうだ。
羽は形としては鳥とか天使の翼のような形だが羽根一つ一つが鱗と同じような印象を受ける。氷の翼って感じだろうか? 見た目だけなら青の属性で氷竜って感じなんだが……。
「なんで、生まれてるんだ?」
邸に運び込んだ時は生まれる兆候なんて全くなかった筈だ。
「嘘でしょ……」
一緒に卵の様子を見に来たリエルも唖然としている。
「マイン~説明して~」
焦っているのか知らないが人選を間違えるな。
「いや、マインは来なくていい、ステイステイ! ソウマ、状況説明」
卵の安置されていた部屋に居た全員が俺たちに気付いたが、ちょっと本気で威圧してやったから近付いて来るのは威圧をかけていないソウマだけだ。
幼ドラゴンが俺を睨んで唸っているが千夏が震えながらもきつく抱きしめて宥めている様なので放置で。
「えっと、師匠、すみません……」
いや状況が知りたいだけで責めてる訳じゃない、責めるならまだまだ生まれる段階じゃないと判断したクラッドの方だ。
「チナさんを元気づけるのと気分転換に邸の案内をしようってマインが言い出して……」
それで、騒ぎ切って疲れてやっと眠った千夏の所に突撃したと?
「だから、止められなかったことを謝っているんですよ」
ああ、そういう意図か。
それでも、暴走するマインが悪いから、止められなかっただけのソウマが謝る必要はないんだがな。
「マインも悪気は無いので……」
まぁこうして千夏がこの場だけでも笑っているんだから功は奏しているんだろうけどな。
俺が威圧をばらまいたせいで今はガタガタ震えているが……俺を睨んで千夏の腕から逃れようともがいている幼ドラゴンを平然と抑え込んでいるので案外大丈夫なのかもしれない。
「で、来たら生まれてたのか?」
「いえ、俺たちが来た時はまだ生まれて無かったんですけど、チナさんが触った途端に卵が爆散してあの子が飛び出して来ました」
爆散って……あ、ソウマの額が赤くなってる、飛んだ殻にでも当たったか?
「それで、暴れるんじゃないかって警戒したんですけど、何故かチナさんに懐いているみたいで……」
何故か千夏に懐いてる? それって……。
「刷り込みか?」
この場合は生まれて最初に見た動く生き物を親だと思い込んでいるとかかな。
「ドラゴンにそんな習性は無い筈だけど~?」
思いついた理由を適当に言っただけだ。
この世界のドラゴンの習性なんて知らねぇよ。
いや、知っているゲームの設定でもなきゃドラゴンの事なんて分からないけど……。
「他の可能性は……」
千夏が異世界人だって事だな。俺みたいに変なスキルを持っているかもしれない。
それだと、早めに千夏のステータスを確認しておきたいな。
「大人しくしててくれるなぁ、らどうだっていいのよ~」
よくはないだろ……原因不明とか怖すぎる。
「ギャウ!」
ほらみろ、吠えてるじゃねぇか。
俺が未だに威圧しているからだろうが……試に威圧を解いてみる。
「ギャウ?」
幼ドラゴンが首を傾げてきゃろきょろするのでもっかい威圧する。
「ガアア!」
また威嚇して来る。
解除。
「ギャウ?」
あっはっは、ドラゴンの子供だからどうかと思ってたが可愛いもんじゃないか。
「こ~ら、遊ばないの~」
遊んでねぇよ、からかってるんだ。
「てか、さっきまで焦ってたくせに余裕が出来てるじゃねぇか……」
「やる事は変わらないもの~」
生まれても親ドラゴンの所へ帰すのは変わらないってか。
幼ドラゴンが素直について来るかって所だが……あの懐き様を見ると、千夏を同行させないといけなそうな気がするなぁ。
「それに~、ドラゴンの姿が分かったから目的地が一気に絞り込めたわ~」
「どういう事だ?」
あの草原に帰しに行くんじゃないのか?
「この大陸でぇ確認されているドラゴンは5体居るのよ~。その中で~青い体色のドラゴンは深雪山シュツアルトの蒼竜ネージュだけなのよ~」
あんなのが他に四匹も居るのかよ……。
今後の展開によっては全部と戦う事になるんじゃねぇか? ミネラルレでの一戦で安易に切り札を使わなくて良かったな……。
「ソウマ、ちゃんと世話するんだぞ……」
「俺がですか!?」
ここに居る奴で他に任せられそうなのは居ない気がする。
「いやいや、勝手に子供に丸投げしな~い! 相手は生まれたばかりとは言えドラゴンなのよ~!」
そうは言っても、威圧も解除しているから幼ドラゴンは千夏の腕の中で機嫌よく寛いでいる。
威圧されていたことをすぐに忘れるとかどう見てもアホだ。
戦闘マップで確認したアイコンは白でレベルも初期状態の1だ。そう脅威でもないと思うんだが……これは俺のレベルだからそう感じるだけだろうか?
「生まれちまった訳だが、予定通り明日出発で良いんだよな?」
「そうね~、今の段階でミネラルレ以外が襲撃を受けたって報告は無いけど~、急いだ方が良いのは間違いないわ~」
あぁ、もしかしてミネラルレのドラゴン襲撃って卵を奪われた報復か?
「シアンで良くな~い?」
「駄目だよ、それルキラの師匠さんの名前だよね……」
リエルと明日の確認を行っている間に弟子共は幼ドラゴンの名前を相談し始めている。
金髪ロールの名前は色的に幼ドラゴンにぴったりの名前なんだが……流石に知り合いの名前をそのまま付けるのは躊躇われるな。
「師匠は何かないですか」
俺に振るなよ、お前の名前で俺のセンスなんてお察しだ。ただ安直に魔創術の魔創の二文字を入れ替えて創魔で、ソウマだぞ。
「ポチで」
完全に犬の名前だから採用されないだろう。
ほら、皆うわぁマジかぁって目で見てる……ちょと居心地が悪い。
「冗談だ……青いし蒼也で」
「俺と被る!?」
お前のは創で今のは青の蒼だから字は違うんだけどな……こっちの奴らに漢字が違うとか言っても無駄だろう。
「蒼で良いならアオでも……え?」
千夏がアオと言った途端幼ドラゴンの身体が眩く光った。光は直ぐに幼ドラゴンの身体に溶け込むようにして消えたが……ちょっと待て、今のは?
千夏は驚いた顔をしているが他の奴は変わらず幼ドラゴンの名前を考えている。今の光には気が付いていないみたいだ。
さっきの光、幼ドラゴンに溶け込むように消えたよな? 戦闘マップで幼ドラゴンを確認、ステータスに異常は出ていないか?
アオ レベル1 幼竜♂ HP86/86 MP53/53
状態異常は無いな……なんだったんだ今のは?
「先輩、今のって……」
「分からんが、アオに状態異常はないみたいだから悪い物では……アオ?」
ちょっと待て、さっきまで幼ドラゴンの名前は表示されていなかったぞ! それが今はアオと千夏の呼んだ名前で表示されている……これってシステム的に名前が決まってしまったって事か?
懐いている千夏の言った名前だから幼ドラゴンが受け入れた?
「そのドラゴンの名前、アオになってる」
「えぇっ!?」
千夏も適当に言っただけなのにって顔になってる。
「それって決定なの?」
システムでそう表示されてるって事は幼ドラゴンが認めているって事だよな? 前例なんて無い、いや、ソウマの時は俺が適当に名前つけた後からソウマに変わったか。
「ステータス画面が見せられれば説明も楽なんだが……ん~、幼ドラゴンはアオって名前を認めてるみたいなんだよなぁ」
「ステータス? あ!」
千夏が急に虚空を見つめだした。これって……。
「アイテム、ステータス、装備、従魔、命名?」
千夏の視界にメニュー画面が出てる?
「なんか見えるか?」
「見えるけど、これって……」
異世界人ならメニューが見れるんだろうか?
「意識したら操作できる筈だから上から全部確認して気になるとこを教えてくれ」
訳が分らないだろうが、とりあえず俺の言葉に従って確認を始める。
「アイテムは何もない」
「ん~じゃあこれを箱にしまうようにイメージしてみてくれ」
そう言って適当に回復薬を各種取り出して千夏に渡す。
「わ、何もない所から沢山出て来た」
ん? 千夏には俺がおかしな量の荷物を取り出しても不自然に思わない補正が働かないのか?
「アイテムボックスってゲームなんかで馬鹿みたいな量の道具を持ち運べるあれだけど、分かるか?」
「このアイテムって項目がそうなの? わ、消えた。でも、アイテムの所に今消えた薬の表示が出てる」
千夏のメニュー画面のアイテムって項目が俺と同じ機能ならそう言う事になるな。
「ステータスは、速水姫咲、やっぱり名前が私じゃない……」
ん? 俺の方の戦闘マップでの表示は風呂での一件以降中野千夏に変わっているんだが……?
「認識したんだからその内変わるんじゃないか?」
「ううぅ、今はそう思っておくことにするね……後は数字がいっぱい、それと魔法適性? スキル?」
何らかのゲームやってないと分からないか、細かい所はおいおい説明していくとして……。
「スキルって覧に何が有る?」
「えっと、意思疎通、盟友の契約、使役、従魔支援、騎乗、命名」
ほとんど知らないスキルだ……なんとなく予想は出来るけど。
「意思疎通はどっちだろ? 俺以外の人間と言葉が通じるって意味か、それよりも広い範囲の……その幼ドラゴンとかとも意思疎通が出来るってところか」
「ギャウ~」
「……アオ、お腹空いたって」
後者か、適当にアイテムボックスに残していた燻製肉をアオの鼻先に放り投げてやる。
「ギュム~」
上手い事食いついて美味そうに咀嚼している。生まれたばっかでも肉食えるんだな……どうでも良いが。
「盟友契約、使役、従魔支援、騎乗、命名、全部魔獣使いって感じのスキルだな。そう考えると意思疎通もか……多分普通の会話はデフォルトで翻訳されて聞こえているんだろうな」
多分この命名が働いて幼ドラゴンの名前がアオに決まっちまったんだな。
千夏の称号は異世界人だけど、スキルを見た感じだと能力は魔獣使いなんだろうな。
そう言えば俺の能力って何系なんだろ? 最初、スキルは何も無くてレベルが上がる毎に増えたり増えなかったりだったが、系統はばらばらだ。溜めなんかは戦士系、必中は狩人系、隠密は盗賊系、レベルが上がるまでに取っていた行動によって取得スキルが変わった感じではあるが……分からんな。
「装備は……里樹学園の女子制服(夏)、里樹ってどこ?」
その身体の元の持ち主が通っていた学校だろうな、多分架空の学園だろ……いや、どこかで聞いた事が有ると思ったら勇者君や魔王の器君の通っていた学校だ。どのみち架空の学園には違いないが……。
勇者君の男子制服姿は出て来たけど、女子の制服は出て来なかったから気が付かなかったな。
「まぁいっか、装備は今着てるものが表示されているのね」
「多分着替えれば自動で切り替わるしメニューの方で操作しても現実に服が変わると思う」
「メニューで装備を外すなんてしたら……」
いきなり下着姿になるな。
因みに、俺の方のメニューに表示されているソウマたちの装備は変更不可になっている。
多分、今ソウマたちの装備、着ている物が俺の所有物って判定になっていないから操作できないんだろう。
「従魔は、アオが表示されてる」
さっきの光で命名と盟友の契約が働いたのか?
「アオに何か指示してみたら?」
「うん、アオお座り」
「ギャウ!」
座ったな、千夏の膝の上に。
「し、指示通りには動いてるから!」
「でもお座りって、犬かよ」
あ~でも、これは、アオを穏便に連れて行くには千夏も同行させないといけないと確定したな。




