一章31話 卵「よし、食うか?」
みんなでっかい卵を見て固まっている。
まぁ、俺は構わず行動するんだが……。
「今は大人しくしててくれ、落ち着いたら色々話すから、な?」
千夏にそう言ってから俺はクラッドたちを置き去りにして馬車の外に出て、自分たちの乗って来た馬車に移動する。
「暫く待っててくれ。それと、ここって人を襲う生き物が居るから、現状が理解できていないなら一人では何処かに行かない方が良い」
異世界人の千夏の事をどうするかも考えた方が良いが、卵を見たクラッドたちのさっきの反応からしてあれ絶対面倒なものの卵だよな?
千夏を馬車に残して急ぎ気味に戻る。
「まだ固まってるのか? で、結局それ何の卵なんだ?」
男たちの馬車に戻ったが、馬車内に簀巻きにされた男が一人転がっている以外は前と同じ状態なのに呆れながらクラッドに声をかける。
「おそらく、ドラゴンの、卵だ」
おぉぅ……なんか厄介なのの卵たとは思ってたけど、魔物じゃなくてドラゴンか。
先日戦ったドラゴンを思い出すが……。
「あれの卵だとしたら、小さくないか?」
あのドラゴン、地上に降り立つだけで家数件潰せるサイズだぞ。
そう考えると一抱え程のサイズは小さく感じる。
「十分大きいっすよ、この国でドラゴン以外にそのサイズの卵を産む魔物や動物は居ないっす」
もう一人、縛った男を運んで来たリュインが、今回は落ち着いた様子で教えてくれる。
残りの男共はソウマとフォスが縛って運んで来るようだ。
「ドラゴンだってのに落ち着いてるな……」
「卵ですし、今はドラゴンでもルイ様がぶっ飛ばせるって分かってるっすから」
そんな単純な話でも無いと思うんだが……まぁ、面倒が無くていいか。
「どうする? 食うか?」
ドラゴン肉もだが、ドラゴンの卵とかもファンタジー食材だ。食べてみたい気もする。
これだけでかければ食いでも有りそうだが……。
「そんな事できるか! 既に魔力の鼓動を感じる、ある程度成長しているとみていいだろうし、親ドラゴンの報復が怖い」
つまりは食える段階じゃないと……いや、生まれたてのドラゴン肉とかは柔らかいかもしれないからいけるかも? まぁ、親ドラゴンの心配をするならパクって来ている時点でアウトだろう。
「結局どうするんだ? 多分どっかから盗んで来た物だろうけど……」
「事が大きすぎて僕だけじゃ判断できない、どのみちこの卵は捨て置けない」
男共の犯行の証拠だし食う選択は駄目か。
でも、マインとリュインにやられるこの男共にドラゴンの卵を盗めるとは思えないんだが……。
縛り終えた男共を男共が乗っていた馬車に全員乗せて御者台にはクラッドが乗り込む。
男共の見張りと卵の監視に俺が一緒に馬車に乗り、千夏と他の奴等は俺たちが乗って来た馬車に乗り、リュインが操縦する。
「これだけ縛られていれば見張りなんて要らないと思うんだが……」
蓑虫って表現も生ぬるい、何処にこれだけのロープが有ったんだって思うが、顔まで万遍無くロープを巻き視界を奪うぐらい厳重に拘束された男たちは哀れとしか言えない。
そんな状態だから男たちが目を覚まそうとも何事も無く王都まで戻る事が出来た。
一度魔物が襲って来たが弟子共、特にマインが張り切ってがあっさりと片付けたのはもう何も言うまい。
因みに、1ぐらいなら俺のプールしている経験値でレベルを上げてもそれほど違和感は無く動けるみたいだが、まだしばらく様子を見て大丈夫そうなら少しづつ上げて行くことにしよう。
男共は卵や千夏について詳しく話を聞く為にあの姿のまま連行されて行った。
千夏に関しては目が覚めたら俺たちが居たって状況で何も分かっていなかったので、そのままリエルが預かって面倒を見る事になった。
何か分かれば報告しろとの命令付きなので千夏も少々怪しまれているみたいだが、千夏にチートはまだ確認できていないので俺程怪しまれてはいないだろう。
「増やすなとは言ってないけど~さすがにもううちのメイドたちだけじゃお世話が追い付かないわよ~」
リエル邸に戻り、千夏の面倒を見るようにとのリエルへの命令とまとめて報告をすると、クラッド共々愚痴を言われた。
が、俺は悪くない、ドラゴンとか、誘拐ナンパ盗人野郎共とか、こっちの奴らが頭おかしいのが悪い。
「ルイが来てから、うちもどんどん賑やかになって行くわね~」
だからって俺のせいじゃない、最初の切っ掛けのソウマが暴走したのだってソウマを誘拐して連れていた奴らが悪いんだし……そう考えると、この世界碌な奴が居ねぇな。
まぁ、まだまともな奴もいるのは分かってるけど……。
「しょうがないわねぇ、ジョルド新しく使用人を一人手配しておいて~」
「畏まりました」
優秀なリエル邸の執事は即行動に移り部屋を出て行った。
「後は~、ドラゴンの卵~? 間違いないのぉ?」
「あぁ、あれがドラゴンの卵でなくても厄介な魔物の卵であることは間違いない」
間違いなくドラゴンの卵だろうけどな、と断言するクラッドだが、どうやって判断しているんだか……。
俺には分からない判断法で断言するクラッドの言葉を聞いてリエルが大きくため息を吐く。
「その対処もこっちに回ってきそうね~」
それは流石に仕事回し過ぎじゃないか? リエルもクラッドも普段事務的な仕事をこなしているし、マインは元々こいつらの弟子だから別にしてもソウマや俺、加えてミリルとフォス、果ては千夏の面倒まで見ることになったんだぞ。
「大丈夫なのか?」
諦めムードのリエルとクラッドだが、一応聞いてみる。
「人手が足りないのよ~」
「ミネラルレの復興に人員を割かれているし、先日の見張り砦に向かっている兵士たちの殆どがまだ戻って来ていないからな」
「王都に卵を放置してミネラルレの二の舞になっても困るから仕方ないのよ~」
「僕たちは君たちの面倒を見ている事を除けば手が空いている扱いになるからな……」
世知辛い……。
「うん、まぁ、何か有るなら手伝うからな」
「君も他人事ではない、嘱託騎士なんてこんな時の為の戦力だろう」
あぁ、俺の方へ依頼が来るならそれでも構わない。
内容にもよるがソウマたちの経験にもなるだろう。
ドラゴン関係となると依頼の内容によっては連れて行けないだろうけど……ソウマとマイン大丈夫か、一回戦っているからな。
逆に為す術無く目の前でドラゴンを見たミリルはトラウマになってそうだ。
「だから~、その積りはしておいてね~」
ほいほい、了解っと。
俺は報告を終えて直ぐに千夏の所へ向かう。
ドラゴンの卵関係で面倒事がありそうだから千夏の方は早急に片づけておきたいからな。
「お~い、居るか?」
千夏にあてがわれた部屋の扉をノックして声をかける。
「はいは~い、あ、師匠!」
元気のいい返事が有り、騒がしく扉が開かれたと思ったらマインが出て来た。
「なんか騒がしいと思ったらマインか……何やってるんだ?」
まぁ、千夏を保護した状況があれだったから様子を見に来てたんだろうが……部屋には他にもソウマとミリルが居るな。
ソウマ、女の子ばかりの中に一人平然と混ざっているが、そう言えばソウマは記憶喪失だった。
そう言った考えにいたらないんだろう。
「まぁいいか、ちょっと千夏と二人で話をしたいからお前等出て行ってくれないか?」
「え~、師匠やらしい~」
そう言うんじゃねぇから、異世界人云々についてはこっちの奴らに話してないからな、一緒に居られると今更説明するのも面倒なんだよ。
俺一人だったら最初から隠さなくても良かったんだが、どうせ理解できないだろうなと思ってなんとなく言わないまま今まで来たけど、他にも異世界人が居るなら説明するにしても相談してからの方が良いかと思っただけだ。
「マイン、行くよ。すみません師匠、お願いします」
食い下がってきそうなマインをソウマが止めて、ミリルと共にマインを引き連れて部屋を出て行く。
部屋には俺と千夏の二人だけが残された。
「いい子たちだろ?」
「そう、だね。私を心配して来てくれた。私はどう話したらいいのか分からなかったけど……ここの事とか、色々教えてくれたよ」
あいつらにしてみたら攫われて知らない場所に連れて来られた女の子を心配しての事なんだろうが……。
「自分がどういう状況か分かってる範囲で教えてくれるか?」
「どういうも何も、さっき迄学校に居たのに気が付いたら知らない場所に居るんだもの、何も分からないわ。ここが私の全く知らない名前の場所だって事はあの子たちと話していてわかったけど……外国だとしても言葉が通じているし、何か騙されているにしても私にこんな大掛かりな事をする理由が分からないわ」
ドッキリのように感じてもおかしくは無いな。千夏の言う様に一般人にそんなことする理由が無いからドッキリや詐欺の可能性は無いんだが……。
「俺も説明する。ここが日本じゃない、千夏からしたら異世界って呼ばれる場所なのは最初にチラッと言ったよな? とあるゲームによく似た世界なんだが……」
「私ピコピコには全然触った事無くて……」
ピコピコって……まぁ良いけど。
「まぁ、そこは良いんだ。兎に角、ここが元々いたのとは別の世界だって理解してくれればいい」
「うん」
「言葉が通じているのは、俺の場合はシステム、勝手に自動翻訳されているんだが、これは読めるか?」
アイテムボックスから適当な本を取り出して表紙を見せる。
当然こっちの世界の本でこっちの文字で書かれている。
「フェヴリエ魔物図鑑?」
「正解」
以前、リュインに解体時に回収する魔物の素材について教わった後、こっちに戻ってから渡された物だ。
「こっちの文字なんだけど、何故かなんて書いてあるか理解できるなら千夏にも俺と同じ機能が働いているな」
「そう、なんだ……」
「気が付いたら今の状態って事は、千夏はこっちに来たばかりか?」
「多分そうだと思う」
それだと運が悪いな……転移の際に気を失って目が覚める前にあの男共に捕まったんだろ?
「無事で何よりだ」
「無事、なのかな?」
ん? まぁ、異世界に飛ばされたこと自体が大事だな。
「帰る方法が無いから無事とは言えねぇか……」
「あ、無いんだ……」
「少なくとも俺は知らないな」
知っている方法も空振ったからな。
探す気も無いが、千夏が帰りたいと言うなら本腰を入れて方法を探しても良い。
「ちょっとお母さんたちの事は心配だけど、帰れないのは別に良いの……」
ん、そうか? ならまぁ、帰る方法については機会が有ったらッて感じで良いか。
「なら、こっちの世界についていろいろ話すか、ちょっと相談したい事も有るからな」
異世界人だって事を話すかどうかとかな。それによって千夏が自分の事をどう説明するかも変わって来るからな。
「うん、よろしく」
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瑠衣たちが去った後、森の中から白いフード付きのローブを纏った男が馬に乗って現れる。
「今のは、アクセル……なぜこんな所に? いや、どうやら向こうは失敗したようだな……」
この男は瑠衣の戦闘マップに赤アイコンで表示されていたが、色々あった事と魔物の蔓延る不帰の森の近くという事で、瑠衣がその詳細を確認していなかった為に見つからなかったとは気づかずに、フードで隠れる表情に微笑を浮かべる。
「金で働かせた屑共は案の定だったが、あいつ等が目的は果たしてくれるようだな……暫し様子見か」
男は、既に見えなくなった瑠衣たちを追うように、だがゆっくりとその場を去って行った。




