一章29話 パーティステータス「まぁ、使えない事は無い」
監視砦の建築は無事に終わった。
まぁ、完成する頃にはそっちの見学者なんて誰も居なかったが……。
兵士たちは砦の建築魔法よりもアルト対弟子共の模擬戦の方が興味が有るようだ。
俺たち、主にアルトと弟子共はそのまま砦の常駐となる兵士たちに見送られて帰路につき、漸く王都フォルリオに戻って来た。
「で~、また一人増えたの~?」
「何処かへ出かける度に弟子を増やしてくるのはどうなんだ?」
ミネラルレに行った時の二人は俺のせいじゃない、アルトが臭いを辿って俺目指して移動して来たのは認めるが……。
「で、ここで面倒見ても良いのか?」
駄目なら駄目で構わないが……ソウマたちと一緒に鍛えるなら一緒に住まわせた方がやり易い。
「良いわよ~、今更一人ぐらい増えても問題無いわ~」
「リエルには必要も無いだろうが、フォスとミリルを住まわせる対価も国から多めに出ているからな、後二人ぐらいは余裕だろう? だからって無暗に増やされても困るけど……」
分かってるよ、もうこれ以上増える心当たりも無いし大丈……言いきっちまうとフラグになるか?
「確かに~今後も増やされるようだと使用人も増やさないといけなくなるわね~、問題無いけど~」
今のリエル邸の使用人は……アサシンメイドのリュイン、リュイン以外はあまり見ないが見習いのメイ、執事長ジョルド、他にメイド長とファイターメイドってリュインの亜種みたいのが居る。
これだけの数で屋敷を切り盛りしている訳だが……俺は普通の一般家庭で育ったから多いのか少ないのか判断材料が無い。
ここの主人であるリエルがそう判断しているならそうなんだろう。
大丈夫だとは思うが、増えないように注意しておこう……ゲームみたいにステータスで管理できないから増えすぎると面倒見切れないしな。
「今だって自分のレベルがカンストしてるから代わりにソウマたちのレベルを上げている様な物だしな……」
「ん~?」
「まぁ、ここで面倒見て貰っても良いんだな?」
鍛える事は俺でもできるけど……ソウマたちに関しても生活の面倒はリエル任せだ。
「いいよ~、そのアルト君もぉルイみたいに何か立場を得てくれると助かるけどぉ」
アルトは済んでいた場所から出てからは野生で暮らして居たんだよな……。
魔王の器君と一緒に過ごしていた期間やティリアスが面倒を見ていた時期が有るとはいえ、常識が足りてない。
異世界人の俺がこの世界の常識をどうこう言うのはどうかと思うが、アルトに関しては普通の一般常識が足りていない感じがするんだよな。
「それはおいおい考えて行くとして、明日早速全員連れて討伐訓練に言って来る」
「帰って来て早々だな」
まぁ、一回パワーレベリングできるか試したいんだよ。
前に魔物を倒しに行った時はソウマたちで倒せるレベルの奴や、規格外の弟子共なら倒せると判断した少し格上しか相手にしていないからな。
俺も一緒に戦ってはるかに各上を倒すって言うのをやってみたい。
ドラゴンの時は結局逃げられたからソウマたちに経験値が入ったか分からないんだ。
俺の方には結構な数値が入っていたが……逃げられても経験値って入って来るんだな。
ゲームで敵が逃げる事は無かったし、こっちでは逃げる前に倒していたから知らなかった。
「任せるわ~」
「僕は一度同行しよう。人数が増えているからマインが何かやらかした時に対応する者が足りないだろう」
一回は監視しておかないと心配になるか、性格はともかく能力的にはアルトが纏め役を……無理か、あいつも基本馬鹿だしな。それならアルトとの模擬戦の時に司令塔になっていたソウマに任せる方が安心だ。フォス? 弟子共の中では最年長だが、マインと張り合って同類に成り下がるので任せられない。
「全員が魔力暴走出も起こさない限り俺一人でも抑えるぐらいは出来るが……ついでだクラッドのレベルも上げよう」
こいつ等、あまりレベルが高くないんだよな……まだ辛うじてソウマたちよりも上って程度だ。
魔創術師だから戦う機会が少ないんだろうか? マインたちを見ていれば、強さはレベルだけで測れるものじゃないのは分かるが、レベルが上がるとステータスが上がるのは俺と一緒だろう。
「そう何人も魔力暴走する者が居てたまるか」
「なら大丈夫だ、そんな事よりも実力で弟子共に抜かれないかを心配しておけ」
「だ、大丈夫だ! 多分……」
おいおい、ちょとつついただけなのに自信無さげじゃないか、強がってはいるが……。
「誰が訓練してると思ってるんだ?」
「…………」
黙るなよ、ちゃんと抜かれない様にレベル上げてやるから……戦闘のセンスとかはどうにもならないが、レベルが高いって事は、まだ弟子共よりもこいつらの方が戦闘経験は有るって事だろう。
今回ついて来るクラッドはちょい重点的に扱いてレベルで追いつかれないようにしておこう、こいつも弟子共の師匠だからな。特にマインに舐められないように……。
「あ、あはは~」
「笑ってるけど、リエルもやるからな」
クラッドと一緒だ、マインやらフォスは何故かリエルの事を尊敬しているが、それもリエルだけ追い抜かれたらどうなるか……弟子共の事は予想がつかないから厄介だ。
「え~~」
ちょっとは危機感持とうな。
翌日、俺とクラッドは弟子共を連れてリエルの屋敷を出発した。
移動は馬車で御者はクラッドだが担当するが交代要員にリュインが同行する。実際は殆どリュインが担当するんだろうな……都合が良いが。
最近馬車移動ばっかりだな、楽だが……ハインライトじゃ移動は全部徒歩だったから温く感じる。
だが、目的地が遠い為徒歩だと行って帰って来るだけで今日が終わる場所だ。
「到着っす~」
休憩をはさみつつ街道を進み、殆どリュインが御者を務めて何事も無く目的地に到着した。
魔物に出会わないのは珍しいな。俺が移動する時って大概魔物か盗賊に出くわすんだが……。
「街道を進んでいればそうそう魔物にも出くわさないっすよ」
ミネラルレに行った時の遭遇率は?
「あの時が異常だたんっす。普通有り得ないっすよ」
「そんな事より! ルイ! どういう事だ!」
馬車を降りたクラッドが周囲を見て怒り出す。
「ここはこの街道で不帰の森に一番近い場所だ! まさか不帰の森に行くつもりじゃないだろうな!」
リュインにしか目的地を言ってないからな。
強い魔物が出る場所に行ってくれとしか言ってないから何処に着くかは知らなかったが、不帰の森か名前からして不吉だな……。
「リュイン?」
「ご要望の強い魔物が出る場所っす! ここは騎士団を率いて何とか進めると言った難易度っすね」
そいつはまた、加減せずに場所を選んだな。
完全に丸投げしたのは俺なんだが……。
「俺無しだと厳しいか?」
「そうっすね入り口付近の魔物一体だけなら何とか逃げられると思うっすよ」
「どうしてお前たちは落ち着いて話しているんだ!!」
強い魔物が出る場所に案内させたのは俺だし、まだその不帰の森の入り口にも着いてないんだぞ、今から緊張しても仕方ないだろ。
「ドラゴンと対峙して思ったんだ……急に格上の相手が現れて、いつも通りの戦いができるのかってな」
「何を……」
「いきなりドラゴンみたいな強敵に出会っても対抗、最悪逃げられるように凶悪なのと遣り合うのに慣れておく必要があるだろ!」
「そこは徐々に慣らして行けばいいだろ!」
今言ったのは建前だからな、本当はパワーレベリング出来るか試したかっただけだ。
「危険はこっちが慣れるまで待っててくれないんだよ……」
「だからって自分から飛び込んで行かなくてもいいだろ!」
弟子も一緒なんだからと、俺だけだったらいいみたいなことを付け加えてくる。
「まぁまぁ、入り口付近でちょこっと戦うだけだから、なぁ?」
そう言ってマインに視線を向ける。いつもの馬鹿で押し切れ。
「そうそう、見るだけ見るだけ~」
そう言いながら大剣槍を手入れしている。やる気満々だな。
「ソウマとマイン、フォスもか。三人はドラゴンを近くで見ているんだろ?」
「ミリルもな……」
「だったら余計に必要ないだろ!」
建前に反論されても困るんだが……。
「怖いならリュインと一緒にここで待ってろ、引率ならソウマも居るから俺だけでもできる」
「怖くて言ってる訳じゃない!」
ならもう黙ってついて来い、俺は余程の事が無いと止めない。
「師匠~早く行こ~」
リュインに行き先を聞きマインたちが先行し始める。
クラッドが止めようと声を上げるが誰も聞く耳を持っていないな。
ミリルだけはオロオロしているが、それでもマインについて行く。
フォスも勝手に先に行くな、とマインを追いかけてアルトもやれやれと言った感じでそれに続く。
「クラッド先生、諦めてください」
弟子共の中で最後に残っていたソウマがクラッドの肩を叩いて慰めるが、結局他の弟子共に続いて移動し始める。
「皆、僕の扱い酷くないか!?」
「今更だと思うが?」
クラッドは結局ぶつぶつ言いながら付いて来た。
扱いはあれだが、クラッドも弟子共の保護者だからな、ここで放り出したりはしないだろう。
「結局こうなるのか!!」
そして三十分後、森の深い所に踏み入り魔物に囲まれた状態でクラッドが叫んだ。
最初は入り口付近で戦闘マップを利用して単体の魔物を狩っていたんだが、前の時にやらせたように全員に一撃当てさせてから仕留める方法をとり、俺が最後に仕留める役をやっていたらマインが暴走した。
パワーレベリングを試すためとは言えマインたちにとっては退屈な作業が続いたからな。
魔物を求めて森の奥に突っ込んで行ったマインを追いかけて、だいぶ奥の方に入り込んでしまった。
最初に見つけた魔物を魔剣の能力を使い一刀両断したことには驚いたが、気が付けばその時点で既に俺たちは他の複数の魔物に囲まれていた。
「言ってる場合か、お前名目上はマインを抑える役で付いて来たんだろうが……全然抑えられてねぇ、っと! 来るぞ!」
包囲から飛び出して来た魔物を殴り飛ばす。もう全員が一撃与えてからなんて言ってられない。
「入り口側を後方として、右マイン、左アルト、後方フォス、ミリルもフォスの援護を、前は俺がやる!」
俺とマインとフォスとアルトがそれぞれの方向に前に出る。
「クラッド、右翼から後方の状況判断と援護! ソウマは左翼から後方、分かってると思うが森を燃やすなよ!」
後方は手薄、撤退できるほどじゃないが……フォスが足止めすればクラッドかソウマが魔法で仕留められる。
アルトはこの森の魔物でもそこそこ戦えるだろう、マインも魔剣の能力が効いたからいける、多分。
ソウマとクラッドが全体を把握して指示出しと援護をすれば十分に戦える。
俺は前に集中しよう、当然戦闘マップで全体を確認しながらだが、こっちが一番数が多いからな。
「地壁!」
こっちも複数では有るが魔物の方が数が多い為かソウマが地壁を設置して魔物が一斉にかかって来れないようにする。
「それじゃぁ僕も、風天障壁!」
クラッドが続いて頭上に荒れ狂う風を集めて何円状の障壁にする。
これなら、風に巻き込まれて落とされるか飛ばされるだろうから飛行系の魔物が空から攻撃してこれないのか?
「来るよ~」
ほいほい、同時にかかって来た魔物を殴り飛ばして後方の魔物も纏めて薙ぎ払う。
続いて吹っ飛んで行った魔物を追い囲いの中に飛び込み手あたり次第に魔物をぶん殴っていく。
入り口付近の魔物も俺のステータスだと一撃だったからな、本気で動けば魔物たちに迎撃される前にぶっ飛ばせる。こっちは案外早く片付きそうだ。
アルトは問題無く魔物どもを一体一体仕留めているな。
俺を除けばこの中で一番レベルが高いから心配はしていないが……。
マインは実力は足りないが武器に助けられているな。
マインの攻撃力じゃ攻撃が通らない敵に対して魔剣の効果で普通に攻撃が通っている。
これはマインじゃなく魔剣を作ったミリルの方が恐ろしいな。
そのミリルは、かかって来た魔物を盾で受け止めるフォスを後ろから支えたり、受け止めた魔物を横から槌でぶん殴っって弾き飛ばしている。
フォスは状況が状況だからか、攻撃はミリルや援護二人の魔法に任せて襲い掛かって来た魔物を止める事に集中しているようだ。
後方は一番魔物が手薄だからなんとかなっているが、魔物を倒しているのはクラッドやソウマの魔法で、フォスとミリルの撃破数はゼロ、どちらも攻撃力が足りないみたいだ。
けど、何とかなってる。優秀な弟子共だ。性格面ではちょい問題のある奴が多いけどな!
見える範囲の魔物たちを殲滅し終えてこっちの被害は軽い怪我程度。
回復薬をぶっかけておけば大丈夫だろう。
「はぁ、何とかなった……」
気が抜けたのかクラッドがその場で座り込む。マインは後で説教だろうな。
「あまり油断するなよ、まだ遠目にこっちを窺ってる奴も居るからな」
戦闘マップで確認、今すぐに襲って来そうな魔物は居ないが遠目からこちらを窺っている感じの赤アイコンがちらほらと存在する。
「さっさと剥ぎ取って戻るぞ」
魔物の素材を剥ぎ取る指示を弟子共に出して周囲を警戒しながら戦闘マップに表示された味方の各レベルを確認。
戦闘前と比べて弟子共は軒並み3レベルが上がってクラッドは2上がっている。
クラッドと弟子共の上りの差は経験値の必要量の違いか? 全員が同じ数を倒していたわけじゃないが、上がったレベルの数から推測される獲得経験値と俺の方にプールされている経験値との差を見ると……今のメンバーでパーティ認識されていて、経験値は各レベルに合った割合で分配されている感じか? 各々が一回攻撃する必要はなかったのは乱戦だったからだろうか? 基準が分からないな、明確な基準が有るのかも怪しいが……。
「ん?」
視界の端にメニューNEWと文字が浮かんでいるのに気が付いた。
何なのか確認するためにメニューを開くと、今度はステータスの項目にNEWの文字が浮かんでいる。
何だこれ? 今までこんな事一度も無かったんだが……。
「見れば分かるか」
そのまま考えていても何も分からないのでとりあえずメニューからステータスを選択する。
そして、表示される項目は……
ステータス
瑠衣
ソウマ NEW
マイン NEW
ミリル NEW
フォス NEW
クラッド NEW
マジか? なぜか他の奴らのステータスが表示されている。これって俺のシステムでパーティとして認識されているって事か?
これならもしかして……。
ステータスは一旦置いておいて、レベルアップの項目を開く。
「おお……」
ソウマたちも追加されている。これならプールされている経験値を割り振れるんじゃないか?
とりあえずやってみよう。
ソウマのレベルを五つ程上げる為に経験値をぶち込む。
うん表記的には上がったな。
「痛った!」
ん?
「あ~あ、ソウマ何やってるのよ~」
「だ、大丈夫?」
ソウマが剥ぎ取り中に誤って手を切ったようだ。
「う、うん、治癒」
魔法で治さないといけないぐらいか……それって結構拙いんじゃないか?
「ソウマ、大丈夫か?」
「はい、魔法ですぐに……あれ? 思ったよりも治りが早い?」
切った手に治癒をかけながら首を傾げるソウマ。
「手を切ったのもいきなり剥ぎ取りナイフが良く切れるようになったからだし……」
あ、もしかして俺がレベルアップさせたせいか? 急に能力が成長したからそれまでやっていた行動がいきなり勢い余った?
「いや、まぁ、気をつけろよ」
「はい、すみません」
と、治療を終えて立ち上がろうとしたソウマがそのままダイブしそうになる。
再度怪我する前に受け止めたが……これは、急に成長した身体能力に感覚が追い付いていないな。
一気にレベルを上げ過ぎたか? とは言え、これだけ動きに支障が出るようだと下手に実験できないし、とりあえず様子を見ながら全員少しずつ上げて行くか……。
ソウマは今のレベルに慣れてから同じように少しづつだな。
なんか面白くなって来た。
でも、どうして今頃こいつらの項目が追加されたんだろう? 分からないと今メニューに表示されていないリエルだけレベルが低いままになるぞ……。
まぁ、その時はリエルだけ連れてレベル上げしに行くか……。




