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一章28話 アルト「比較対象が悪い」

 見張り塔の建築も最後の塔が半分ぐらいまで出来上がった。もう少しで今回の任務も終わるだろう。


「貴方、ハインライトから来ましたの?」


 今日の訓練をアルト対他の弟子とルキラという形にして俺はシアンにアルトについて話している。その流れで俺の事も少し話しているが、さすがに魔王を倒したとかの話はしていない。


「リエルに聞いてないのか? 俺の教えた魔創刻印は全部ハインライト産の刻印だぞ」

「そう言われれば、そうでしたわね」


 俺の事はまぁ良い、今話しているのはアルトの事だ。

 アルトは勇者召喚なんてものが残っているハインライトで魔王の手下と思われている獣人族。その中で四神の白虎をモデルにしているんじゃないかって虎の獣人だ。

 って言っても、ゲームではそんなこと説明されていないから、ただ単にホワイトタイガーがモデルってだけかもしれないと憶測は出ていたが、まぁ、どうでも良いだろう。

 そんな白い虎獣人の中で黒い体毛をもって生まれたアルトは、。同族に仲間と認められずに両親の死後、育った村を追い出されることになった。

 その後アルトは野生で生活を続けていたが魔王の出現をきっかけに狂暴になった多数の魔物に囲まれ窮地に陥っていた所を魔王の器君に助けられる。

 この時点での器君はまだ自分の中に魔王が潜んでいるとは気が付いていないが……。

 その後、異世界人故にハインライトでは獣人が人にとって敵だという事を知らない魔王の器君は元来の性格故に、人も獣人も魔物も等しく敵のアルトは助けられた恩故に行動を共にするようになる。

 二人の相性は良く、暫くは旅をしながら穏やかな時間が過ぎて行った。

 だが、その時間は魔王の器君の中の魔王が力をつけて復活の時が近くなったことで終わりを迎える。

 自身の中に魔王が眠っている事に気付いてしまった魔王の器君はアルトに自身諸共魔王を倒すことを望む。

 まぁ、中の魔王がそれを許さないんだが……自力で魔王にも器君にも及ばないアルトは、あの古城に魔王の器君を残し旅に出る、魔王の器君の望みを叶える力を得るために。

 普通にゲーム通りならなんだかんだと勇者君に関わりながら最後に勇者に魔王の器君を託すんだが……。

 勇者君の位置に居る俺がアルトに出会わないまま魔王を撃破したから、アルトは自分を鍛え続けている内にいつの間にか魔王が倒されていたって状態になり俺に恨みを持った。

 俺が向こうを発った後、ティリアスと過ごして落ち着いたようで何よりだが……俺は向こうの舞台を放り出し過ぎだな。


「まぁ、そんな訳でアルトは元魔王の仲間って言っても、立ち位置は魔王を止める側だったからな、心配は要らねぇよ」

「今はそれを信じておきますわ……」


 魔王云々は言わなくてもよかったか? まぁ、こっちでは魔王よりもドラゴンの方が脅威とみられているみたいだから大丈夫かと思ったんだが、失敗したか?

 まぁいい、なんでか俺を頼って来たみたいだし面倒は見る。ソウマたちのついでだが……。


「む~~~~~!!」


 アルトと模擬戦をしていたマインが吹っ飛ばされてくる。慣れた物で空中でくるりと回り態勢を整えて足から着地する。

 そう慣れた物だ……。

 アルトがここに来てからまだ一日しかたっていないが、マインがアルトに挑む事数十回、その回数の数だけこうして吹っ飛ばされている。

 ハインライトで俺に挑んで来たアルトは、俺に猪突猛進に突っ込んで来るマイン側だったが、あれは俺が相手だったからだ。

 魔王の器君と出会った時は危なかったとは言え、元々一人野生で生きて来たんだからそれなりの地力は有る。加えて魔王の器君と過ごした日々の中でも成長しているのでレベルだけなら35とかなり高い。

 まぁ、魔法の適性があまり無くスキルも代償なく強力な物が無いのでレベルだけでどうこう言えないが……兎に角、ここに居る兵士やマインたち相手になら余裕であしらえる位の力は持っているという事だ。


「ここの兵士たちを余裕であしらうだけの力が有るのですもの、放って置くには惜しい人材ですわ」

「魔法使われると弱いけどな……」


 物理近接キャラだしな。

 シアンもアルトが魔法に弱い事を見抜いているんだろうか? まぁ、それで何か有っても自分が抑えられると考えて受け入れてくれるなら儲けもんだ。

 多分魔法でどうにかする前に制圧されると思うけど……何かあった時は俺が何とかすれば問題無いだろう。


「師匠~、カザキリ使っちゃダメ~?」


 フォスがアルトに挑んでいる間にマインがこっちにやって来た。人相手の時には禁止している大剣槍の魔剣の能力、切れ味が良くなるだけだが、それにいつの間にか名前を付けているのにはスルーして……。


「駄目に決まってるだろ、殺されるぞ」


 魔剣の能力を使用したとしても、マインがアルトを殺してしまうとは言わない。

 寧ろ殺傷力の高い攻撃をされたとあれば、アルトも本気で殺りに来るだろう。

 今はマインたちや兵士に怪我させないようにぶっ飛ばしているアルトも自分に非の無い状況で命を脅かされて黙っているほど甘い育ち方はしていない。

 あれ? ソウマは魔力暴走(オーバードライブ)経験者だしマインは普通に暴走する危険人物、アルトは元魔王(の器君)の仲間でミリルは魔剣作成スキル持ちの疑惑あり……フォスだけはまともに見えるけど、よく考えなくても俺身内に爆弾抱えすぎだな、まぁ、望んで抱えた部分も有るには有るが……。


「まぁ、良いか……」

「良いの!」

「違げぇよ! そっちの話しじゃねぇ! ったく、アルトへ挑むのに人数制限はしてないだろ、ソウマと協力すれば何とかなりそうなもんだけど……」


 ソウマが魔法で足止め撹乱、そこをマインが攻める、タイミングや隙を見極める必要が有るが、ソウマの思考は俺のフラッシュタスクに迫る勢いで早くなってるしマインはその目と勘を持っているって俺は思っているんだがな。


「むう、ソウマ~、一回だけだからね!」

「え?」


 フォスが吹っ飛ばされた後に単独で挑んで同様に吹っ飛ばされてきたソウマが風の魔法で空中で態勢を整え着地すると同時にマインが宣言するが、急に言われたソウマは分かっていない。


「やるわよソウマ!」


 そう言ってミリルが吹っ飛ばされると同時にアルトに向かって駆け出すマイン。


「ちょっと! ああもう! そう言う事……協力して欲しいならそうとはっきり言ってくれないと!」


 続いてマインの意図を理解したソウマが魔法の準備を始める。

 てか、ソウマは今のでよくマインの考えを理解できたな。


「マイン! とりあえず前やったやつ! 地壁(アースウォール)!」


 マインの進行方向に地壁(アースウォール)が出現する。

 マインを隠して何処から攻めて来るか判断を難しくさせる算段か? でもアルトなら何処から飛び出したかを見た後でも回避できる筈だぞ。


「えぇい!」


 何処から仕掛けるのかと様子を見ていたが、マインは地壁(アースウォール)に蹴りをかました。

 地壁(アースウォール)は脆く設定していたようで簡単に砕けてアルトに向かって吹っ飛んで行く。


「なに!」

「行っくよ~!!」


 地壁(アースウォール)の砕けた破片を追いかけて、破片がアルトに届くのと同時にマインがアルトに仕掛ける。

 だが、アルトは破片を拳で粉砕しマインの攻撃も裁いてみせる。


「マインの相手をする時でも動きの阻害は基本! 地壁(アースウォール)! 氷壁(アイスウォール)!」


 マインの援護をするようにソウマがアルトの背後や動きの邪魔になる場所に地壁(アースウォール)の壁を乱立し足元に氷の壁を出現させる。

 これで漸くアルトが体勢を崩す。


「まだだ!」


 だが、アルトは氷を蹴り砕き、足を氷面にめり込ませ固定してマインの攻撃を凌ぐ。


「これで終わりな訳が無いんだけどね……」


 アルトの背後の地壁(アースウォール)が粉砕されてアルトに襲い掛かる。


「ご、ごめんなさい!」


 ミリルだ。いつの間にかソウマの指示が有ったのだろう、アルトの背後の脆く設定された地壁(アースウォール)をハンマーでたたき砕いたようだ。

 まぁ、人数制限してないんだから更にミリルが加わっても反則って訳じゃない。


「ぐ! あが! くっそ!」


 何発か破片を受けたようだが直ぐに態勢を整えてミリルとマインを弾き飛ばし周囲の地壁(アースウォール)も粉砕してしまおうと回し蹴りを放つ。

 が、アルトの蹴りが地壁(アースウォール)に当たる前にソウマが地壁(アースウォール)を消してしまったのでアルトはその勢いのまま体勢を崩す。

 そこに地壁(アースウォール)の側に屈んで隠れていたフォスが剣を突き付ける。


「お見事」


 勝負ありだな。全員参加すれば何とか勝てるか……。

 まぁ、今回は良く協力したと褒めておこう、マインやフォスは個の強さにを求めているから協力しないかと思っていたが……。


「師匠~以外に何度も負けるのは~気に入らない! 気に入らないな~!」

「ボクだけ参加しない訳にもいかない……それに、一人だけ強くても全部は守れないから」


 との事。

 まぁ、それぞれ思うところが有るんだろう。

 今回の模擬戦の意図は果たせたしよしとしよう。

 ドラゴンを相手にしたときもあのまま俺だけだったら多分切り札を切っていただろうからな。

 仲間が居るなら協力することは大事だ。


「それにしても、ソウマはどれだけ魔力を持っていますの?」


 既に建築魔法をいつも通りに使用した後だから、それであれだけポンポン魔法を使われればそう思うよな。


「あれでも節約して使ってるぞ、十全のソウマなら上級・最上級の魔法まで使って一人でも勝ちに行くからな」


 マインも使ってないだけで魔力は高い方だが……。


「みんな4属性(クオット)ですのよね?」

「フォスとマインは違うぞ、アルトもな」

4属性(クオット)が三人集まるだけで異常ですわ、何か起こる前兆なのでは?」


 何かならもう起こったじゃねぇか。

 ドラゴンの襲撃……聞いた話しじゃ前にドラゴンが街を襲撃下のは十数年も前だって話だ。

 大きな事件がそう何度も起こってたまるかって考えは、知ってるゲームに似た世界には通用しないかねぇ? ゲームだと、どんどん事件が連鎖していくからな……あれが始まりって事は無いか? いや、始りって言ったらソウマの魔力暴走(オーバードライブ)がそうか? あれも実際なら相当な被害になった筈だ。


「いやな予感がするな……」


 と言っても、もう俺の知っているシナリオは無いなるようになるしかないんだよな。

 とりあえず、砦の建築が終わったら本格的にソウマたちのレベル上げをしていこう……。

 今できる対策は戦力を増やす事ぐらいか……杞憂に終わるに越した事は無いんだがな。


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