一章27話 馬鹿来襲「ティリアスは何やってんだ?」
砦建築は順調に進んでいるようだ。
初日で俺たちの魔力を把握したシアンが上手い事やっているからか、予定より早いペースで建築は進んでいるらしい。
「しかしあの魔法、何処から建材を引っ張って来ているんだ?」
地壁だと、地面を隆起させた物じゃない魔力で作った壁は時間経過で消える。
だが、この砦は消えない。それは、どこかから建材を引っ張って来ているからなんだろうか? そうなるとこの魔法って転移になるのか? ゲームに無いやつはよく分からないな。
「刻まれている刻印もおかしいし……」
複数の魔法の刻印が一つの魔法石の中に詰め込まれている。
俺たちに渡される魔力供給用の魔法石とリンクしている仕組みも全く分からん。
ゲームでそんな事が出来るという設定は無かったと思うが……まぁ、出来ているんだからそういうものだと思って受け入れるしかない。ここは俺の知っている範囲を外れた世界だ。
よく分からない技術を使いながら各居住部屋、会議室、訓練場と砦の建築は続く。
砦って何が必要なのか分からないし俺が口出しする問題じゃないんだが、噴水やら花壇などがある庭園って要るのか? 完全にシアンの趣味じゃないか?
魔法の建築場面はミリルの鍛冶の参考にはならなかったようだが、あのやり方じゃ仕方がない。
魔力の関係で建築作業は午前中に二回、いくらか魔力の回復した夕方に一回と回数が少なく、完成には何日も必要だ。
空いた時間は自由にしていていいと言うが、元々魔物たちの生息域であるこの場所には何もない。
時折襲撃して来る魔物も、先にここに来て場所を確保していた兵士たちによってあっさりと倒されるので俺たちの出る幕は無い。
偶にマインやフォスがその兵士たちと模擬戦の雰囲気じゃない勝負しているが、もう放置することにしている。兵士も弟子共も怪我は自己責任でどうにかしろ。
その点ソウマは大人しい、シアンにあのおかしな建築用の魔法石や他の魔創術に関しての事を聞いたり、シアンとキルラのお茶会に混ざっている姿を見かける。
ミリルが暫く鉄を叩いていないから落ち着かないと禁断症状を訴えてきたので、作れるなら建築ついでに炉と金床でも作って貰おうかと思ったが、火種は魔法で何とかなるとしても鉱石が、材料が無いだろ?
諦めさせるために空いている時間は全て訓練漬けにしてやった。
そうして十数日後、砦の大半が完成して見張り塔部分の建築にかかっている。
四角い砦の角の四カ所に高めの見張り塔を設置する作業は現在三塔目、終わりが見えてきたな。
ミリルの訓練はマインやフォスが混じって来たこともあり、周りの兵士が引くぐらい厳しさを増していた。
「お兄さん、もう、無理です……」
「無理だって言えてるうちはまだ大丈夫だよ~」
「マインちゃん!?」
マインの無慈悲な発言に悲鳴を上げているが、まだ抗議出来るようだから、マインの言う様に大丈夫だな。
「だいたい、姿が見えず気配も感じないお兄さんをどうやって攻撃するんですか!」
ティリアスの騎士の直感みたいなスキルが生えて来ないかとちょこちょこ隠密を使って死角から攻撃を仕掛けているからな。
ミリルじゃなくマインに生えて来そうな気配が有るからあいつのスペックが怖いが……。
「師匠の仕掛けて来そうな瞬間を見計らってぇ、自分の死角に武器を振るんだよ~」
なんだ、マインのは俺の勘違いか……あいつは唯の勘で的確な行動をとっているだけみたいだなって……そっちのが厄介じゃないか? 戦闘センスとでもいうんだろうか? マインのレベルが上がれば俺じゃ勝てなくなる日が来るんじゃないだろうか?
とりあえず先の不安は置いておいて……。
「なんか騒がしいんだが?」
未完成とは言え砦内の訓練所にまで騒がしさが伝わって来る。
「ドラゴンでも出たか?」
「縁起でもない事言わないでください!」
いや、この砦ってドラゴン生息域を監視する為に建てているんだろ? ドラゴンが襲撃して来るってのも無いとは言えないんじゃないか?
「な~んだか面白そ~うな予感!」
「あ、マインちゃん!」
何かを察知したのかマインが訓練所を飛び出して行った。それにミリルも続く……ミリル、やっぱり余裕あるじゃねぇか、明日からもっと追い込んでも良さそうだな。
「俺も行くか……」
砦の外に出ると砦の警備に当たっている筈の兵士たちが宙を舞っていた。
「うわあああああ!」
叫んでないで受け身を取れ。こっち来んな。
俺の方に飛んで来た兵士を無慈悲に避けて放置し、兵士の飛んできた方向を見るとマインがどこかで見たことが有る獣人に斬りかかっていた。
あいつは手が早いな、様子見って言葉を知らないのか?
「ハッ! 甘ぇよ!」
さすがの実力差か……マインがあっさり吹っ飛ばされた。
「マインちゃん、大丈夫?」
「大、じょーぶ! でも、何あいつ、師匠並みの理不尽さ……」
相手は一応ゲームでのメインキャラでこのエンディング後の世界だとレベルも相応に高い。勇者みたいな素質を持ってるっぽいマインでも殺す気でやってもレベル差が大きすぎてまだ相手にならないだろうな。
「気は済んだか? いい加減勇者を出しやがれ!」
相変わらずだなぁ……ちょっと暴れてテンションが上がっているのか、砦から出て来た俺に気が付いていない。
「勇者だって? そんな奴がここに居る訳ないだろう」
お、フォス居たんだ。
相手と対峙しているが、他の兵士やマインが敵わなかった為手を出しあぐねている様だ。
まぁ、そのまま大人しくしておけ。
「いや、ドラゴンを退けた彼が勇者と言えなくも……」
そこは考えるな。
フォスが余計な事を考えつく前に飛び出し、この騒ぎの中心に居る相手、元魔王軍所属、黒い毛並みを持つ虎の獣人のアルトに殴りかかる。
「う! おおおおお!」
げ、腹を狙った一撃が防がれた。
殺さないように加減していたから吹き飛びもしていない。
「出て来たな勇者……」
俺の拳を交差させた腕で防いだ態勢で睨みつけて来るが、その額には誤魔化しきれない汗がにじんでいる。心なしか声にも少し力が籠っていない。もしかしてその腕逝ってないか?
「よく防いだな、腕大丈夫か?」
「うるせぇ! 狙いが前と一緒なんだよ!」
前の時はあっさり気絶したくせに、生意気にも学んでやがるな。
「後、俺は勇者なんて名乗ってないから、勇者を出せって言っても周りには何のことか伝わらないぞっと」
当てる気の無かった二撃目は後ろに飛んで避けられた。
「ちっ、相変わらず出鱈目な力してやがる……」
あ、やっぱり片腕逝ってるな。残った方の手で懐を漁り出したので警戒していたら、なんか封筒にしか見えない物を取り出した。
そのまま俺の方に突き出してくる。
「ティリアスからだ」
手紙か? それもティリアスから? どうやら、アルトは逃げて来たって訳じゃなさそうだな。
手紙の中身は……。
なになに、俺の冤罪は対応されたか、まぁ、暫くは戻らないだろうが……。
代わりに王共の標的が魔王が居ない現状で迫害しやすい獣人に向いて、ティリアス預かりのアルトが何度か命を狙われたと……ほんと、どうしようもないなあの国。
ティリアスが忙しくなってアルトを守り切れなさそうだから国外に逃がす。どうせなら俺の居るところにって事で今に至るんだな。
「また、ガキが増えた……」
「誰がガキだ!!」
お前だ、見た目は獣人故に弟子共よりも年上に見えるが、お前の実年齢ソウマの見た目年齢より下じゃねぇか。まぁ、その比較対象にしたソウマは年齢不詳なんだが……。
「まぁいいか、とにかく俺に面倒を見ろって事だな……お前はそれでいいのか?」
一応、アルトの慕っていた魔王の器君を魔王諸共ぶっ殺したのは俺なんだが……。
「あの結果は、あの人の望んだものだった。最初にその望みを託されたオレがそれを果たせなかった事にやりきれない思いをアンタにぶつけてしまっただけだ……すまない」
おお、唯の馬鹿かと思ってたが、うちの弟子共よりも大人じゃねぇか。
別に自由にしても良いんだが、アルトの方がそれで納得しているなら俺は別に構わないな、既に弟子共がこれだけ居るんだから今更一人増えてもな……。
リエルたちには……まぁ、大丈夫だろう。最悪脅してでも黙らせたらいいか。
「なら、弟子共諸共鍛えてやる、ドラゴンを倒せるぐらいにな」
「ドラゴンか、いいな! それならあの人の願いを果たせるだけの強さになれたって認めても良いか……」
アルトの基準は魔王の器君の願いに有るみたいだ。
もう終わったことだから好きにしても良いとは思うんだが、アルトの中ではまだ消化できていないと。
「ドラゴンの次はお前だからな! 覚悟しておけ勇者!」
それだと倒す対象の手を借りて強くなろうとしているって事だが、それは良いのか?
「勇者って呼ぶのは止めろ、俺は本来の勇者の代わりに自分の都合であいつを倒しただけだ。本来の勇者は別に居るんだから俺の事は瑠衣って呼べ」
「? よく分からないが分かった。ルイって呼べばいいんだな!」
大丈夫か? まぁ大丈夫か。
「もう、私が休んでいますのに何の騒ぎですの!」
だいぶ遅れてシアンが出て来た。ソウマやルキラも一緒のようだ。
「えっと、師匠、その人は?」
うん、まぁ、騒ぎも起こしているし……当然説明は要るよな。




