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一章26話 野営地「面倒な手順を……」

 ミネラルレに行った時と同様に道中あれやこれや話したり、弟子共とルキラに魔物の相手をさせたりしながら進み、先に出発していた兵士たちが野営をしている場所へと辿り着いた。

 いくつものテントが張られ、思い思いの方法で休息をとっている兵士たちは……。


「見覚えのある装備……」


 装備している者や近くに置いている者と様々だが、俺たちが運んだ装備で武装していて、完全には周囲への警戒を解いていない。よく訓練されていると見ていいか?


「うちの工房で作った装備ですね。依頼で指示の有ったフェヴリエの紋様以外にも目立たない所に親方の工房のマークが彫られてますよ」


 言われてからフラッシュタスクを利用してじっくり見てみたが、鎧や剣の本当に目立たない所にハンマーに三日月髭の生えたようなマークを見つける事が出来た。


「ミリル、目ぇ良いな」

「彫ってある場所が分かっているので見つけるのは簡単ですよ?」

「…………そりゃそうか」


 俺たちが運んだ装備、早速使われているんだな。


「で、俺らもここで野営か?」


 王都から出発してここに至るまで俺たちのリーダー役に収まっている縦ロール、シアンに聞いてみる。


「何言ってますの? ここが目的地ですわよ」


 もう目的地に着いているのか? てっきり先行した兵士たちに追い付いたから、ここからは一緒に目的地に向かうのかと思ってたんだが、違ったか。


「なら早速建築に取り掛かるのか?」

「そうしたいのですが、先ずは責任者に話を聞いてまいりますわ」


 貴方も着いて来なさいと言うシアンはさっさと野営地で一番大きなテントへ向かって歩いて行く。


「はいはい、ちょい行って来るから、フォス……いや、ソウマ、こっちは任せた」

「ちょ! どうして言い直すんですか!」


 ガキ共のお守が最年少ってのは納得がいかないか? だが、普段の行いからソウマが一番マシだと思っただけだ。

 ガキ共の中で最年長だとフォス、性格的な信用だとミリルになるが、付き合いが短い分のマイナス補正が入りソウマに軍配が上がった。

 当然マインは問題外。


「賑やかですわね。危険の少ない任務とは言え、気を抜き過ぎなのではなくって?」

「そっちの弟子も一緒になって馬鹿やってるけどな……」


 シアンの弟子ルキラは、最初は大人し目の子かと思っていたが、こっちの弟子に引きずられたのか、道中で一緒に騒いでいるのをよく見かけた。

 年相応と言えばそうなのだろう……まぁ、こっちの弟子共を見ていたら、ひとりで気を張るのも馬鹿らしいだろうから俺としては問題無いんだがな。


「ルキラは後でお仕置きですわ……」

「今のところ周りに迷惑はかけて無いんだ、余程の馬鹿やらない限り大目に見てやれよ」


 まだ子供だぞ……いや、この世界じゃもう子供って認識じゃないのか?


「貴方は、弟子たちに構い過ぎではなくって? 道中の戦闘も全て弟子たちに任せておきながらいつでも手助けができるようにしていましたわよね」


 師匠ってそういうもんじゃないのか?

 リエルやクラッドが居る時なら本気で放置しても良いが、今年長者は俺とシアンだけだから……って、俺も少し前まで学生じゃねぇか。こっちの成人年齢的にはもう大人かもしれないが……。

 あれ? 何真面目にやってんだ俺、適当で良いんだよ適当で……。


「そこの貴方、私は今回監視砦の建築術式を任された魔創術師、シアン・リュアマリンですわ。今すぐこの場の責任者に話を通しなさい」


 俺が今後の行動指針を改めていると、シアンがこの野営地で一番大きなテントから出て来た兵士に声をかけていた。

 シアンの名前を聞いた途端慌てた兵士がテントに戻ってすぐに周りの兵士よりも上等な装備のおっさんが出て来た。

 こっちのおっさんも慌てた様子だな。


「国家魔創術師のシアン様ですね。お待ちしていました」


 おっさん、低姿勢過ぎないか? やたらシアンに頭下げている。

 シアンもリエルと同じ貴族って立場らしいが……そんなに慌てる程か?


「直ぐにでも作業に取り掛かりたいのだけど、現状を説明してくださいます?」


 おっさんの態度を当然のように平然と話を進めるシアン。道中の態度で分かってはいたがリエルとは違いちゃんと貴族ぽい貴族のようだ。


「周囲の魔物は掃討済みで監視砦の予定地の確保は完了しています!」

「よろしい、直ぐに始めますわ。案内しなさい」


 あ、勝手に一人で進みだした。ソウマたちも手伝う手筈なんだが……呼んで来よう。シアンは戦闘マップで追跡してと……。


「ソウマ、マイン、仕事だってよ、シアンは先に行っちまったから急ぐぞって、何やってんだ?」


 元の場所に戻ると、マインが近くで野営していた兵士たちと戦っていた。


「まぁ、やりそうではあったが……ソウマ、状況説明」

「マインが喧嘩を売って戦闘になって、今フォスが参戦しかけてたところですね」


 フォスもかよ……未遂で終わってるから見逃してやるが、目立ってないからって無理に個性出さなくて良いんだぞ。


「とりあえずマインを止めるか……」


 マインと相手の兵士の間に地壁(アースウォール)で壁を作ってやる。

 お互いの武器が地壁(アースウォール)に防がれて止まった所で声をかける。


「マインは帰ったらクラッドの説教な、あんたも子供相手に何やってるんだ」


 挑発されたにしても相手は子供だろうが……あ、この世界だともうソウマたちでも子供の範囲に入って無いのか? まぁ、どうでも良い。

 煽ったマインは完全に説教コースだが、簡単に挑発に乗る奴も悪いので両者の言い分を無視してマインを引きずって行く。


「アタシたちはどうしましょうか?」


 砦づくりの手伝いができる適性が有るのは俺以外にソウマとマインだけで、残ったフォスとミリルはやる事が無い。

 ルキラはシアンの管轄だからそっちに聞けばいい。


「とりあえず着いて来い。ミリルは何かを作る工程を見るのは多少なりと刺激になるだろ、多分。見学しておけ、そのために連れてきたようなもんだしな。フォスは一応だが作業中の護衛だ。周りは兵士だらけだから大丈夫だろうけど、マインの挑発に乗る様なのが混ざってる兵士たちだからな……まぁ、フォスでも不安っちゃ不安なんだが」


 何カ所か小声で言って、弟子共全員を連れシアンの居る場所へ向かう。


「と言う訳で、ここを起点に監視砦を建てていただくことになっています」


 シアンの所に戻ると、丁度おっさんの説明が終わった所のようだ。


「ルイ、遅いですわよ」

「お前が手伝い共をほったらかすから呼んで来たんだろうが……」


 あら、そう言えばって顔してんじゃねぇよ……。


「ご苦労様。早速始めますわよ」


 俺らはどうやるのか説明されてないんだが?


「これを持っていて下さるかしら、そっちのリエルの弟子二人もですわ」


 そう言って取り出した黄色い魔法石を丁寧に渡してくる。なんか生暖かいんだが……何処にしまってた?


「僕は師匠の弟子ですよ」

「リエルの師事も受けていますわよね? ま、どちらでも構いませんわ」


 シアンは興味無いと言った様子でソウマの抗議を流し、砦を建てる魔法の説明を始める。

 魔法の制御はシアンの持つ魔法石で行うので俺たちは渡された魔法石に魔力を込めるだけで良いらしい。


「始めますわよ!」


 シアンの合図で渡された魔法石に魔力を込め始める。

 魔法石の刻印が何故か読める俺でも、この魔法石は刻印が複雑に刻まれているからか内容が正確に読み取れないんだが、ちらっと見えたシアンの持っている魔法石は更に酷い。

 あっちは完全に何が何だか分からないからな。


「ちょっと、送られて来る魔力が多過ぎますわよ! もう少し加減してくださらない!」


 え~、普通に魔力込めているだけなんだが……。

 ソウマはキョトンとしてるな。


「アタシまだ魔力込めて無いんだけど~?」


 マインはさぼるな、とっとと込めろ。

 俺とソウマはとりあえず込める魔力を半分ぐらいに加減してみた。


「良いですわ、今度こそ始めますわよ!」


 ほいほい、とっととやってくれ。


夢想製図(セットデザイン)


 シアンの持つ魔法石の中の刻印の一部が光る。

 そして、地面に黄色い魔法陣が出現してそれが解けて地面に光る設計図を描いて行く。

 砦の一部だろうか? 数部屋分の設計図が完成した。


幻影建築(ファントムビルド)


 次の呪文でシアンの持つ魔法石の別の刻印が光り出す。

 設計図の三メートルぐらい上に魔法陣が出現して、そこから柱とか扉とか壁や床が落ちて来る。

 それらは光を放っていて向こう側が見える事から実物じゃない事が分かる。


幻現変化(リアライズシフト)


 幻の建材によって数部屋が出来上がった所でシアンが次の呪文を唱える。

 魔法石の光らずに残っていた刻印が光り幻の部屋の上に浮かんだままの魔法陣が光を増す。

 更に幻の下側からも光が立ち上り徐々に上へと上がって行く。

 下からの光が通り過ぎた部分は向こう側が見えなくなって光も消えているが……これって、思い描いた設計図を幻で作り出してその後で具現化するって手順の魔法か? 面倒じゃね?


具現建築(ビルドクリエイション)!」


 最後の呪文と共に魔法陣が弾け、出来上がった数個の部屋が現実感を持ってそこに建っていた。

 今は数部屋だけなので四角い建物が個繋がって出来上がっただけだが、これを何度も繰り返せば砦が完成するのだろう。

 まぁ、完成した時点で魔力が三分の一ほど持って行かれているんだが……。

 ソウマやマインも同じぐらい減っているな。

 この魔法、レベル相当の魔力の俺や異常な魔力持ちのソウマが居なかったら使えない魔法なんじゃないか?


「こんなものですわね。あなたたちご苦労様。とりあえずの休める場所は用意できましたわ。今日はゆっくり休み魔力を回復させなさい」


 ん? もうやらないのか?


「え~まだ余裕だよ~? ねぇ、ソウマ~」

「そうだね、これ位の魔力消費で良いなら後二回は大丈夫かな」


 シアンが信じられないと、縋る様な感じでこっちを見る。


「悪いが、俺もソウマと同意見だ」

「そんな……私ならとっくに枯渇している量の魔力を引っ張ってきたはずですわ。それなのにまだ余裕……この子たち、何なんですの……」


 なんか落ち込んでる? 魔創術師としてはソウマやマインの才能は羨ましいだろうな。俺の方はレベルが高いだけだから気にしない方が良いぞ、と言ったとしても訳が分らないだろうな……。


「私の消費する魔力を制御だけに限定すれば……分かりましたわ! まだ余裕だというならもう少し進めますわよ! ほら、魔法石に魔力を込めなさい!」


 なんかぶつぶつ言っていたシアンが急に立ち上がると、こちらに指を突き付けて宣言し、砦建築の続きを始める。

 同様に作業を一度だけ行い、他に数部屋と外壁の一部を作成して今日は終了となった。

 俺たちは食事やらを済ませて、出来上がった砦の部屋を使い休む……。

 砦の規模を聞かされていないから何日かかるか想像がつかないが、この感じだと数日じゃ終わりそうにないな。魔力回復薬を放出するか? まぁ、別に急いでないから良いか……のんびり行こう。


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