一章22話 竜騎士「竜を倒すための騎士?」
「いいから貸せ!」
渋るマインから無理矢理大剣槍を奪い取る。
ぐずぐずしてるとドラゴンの次の攻撃が来るんだよ!
「や~ん、師匠のスケベ、変態~」
人聞きの悪い事を言うな! まぁ、今は聞いて誤解するような奴は居ないが……。
えっと、大剣槍に魔力を込めるんだったか? 数度の魔石懐放によってあまり残ってない魔力でも効力が発動するところまでは魔力を込められたが、魔力の残量と今減った魔力から計算すると何度も使えない事が分かる。
「さっさと決めちまわねぇとな」
ドラゴンが突っ込んで来ようとしているので先にこっちから突っ込む。
「ん?」
思った以上に早くドラゴンの側に来れたと思ったら俺の身体を薄い緑の光が包み込んでいる。
ちらりと弟子共の方を見るとマインが緑色の魔法石を掲げて居るのが見えた。
疾風走駆か? フェヴリエの方の疾風走駆かも知れないが、どっちでもいいか。
武器を取られて文句言いながらもちゃんとサポートしてくれるのは有難い。
マインも街の惨状を見れば拗ねていられる状況じゃないってことぐらいは分かっているか……。
一癖二癖所か色々有るが、弟子共は優秀だな。
俺も一応師匠なんだし、良い所を見せておかないとな。
「て訳で、いい加減やられろ!」
大剣槍を両手で振るいドラゴンを前方から袈裟斬りにする。
ライフがごっそりと減ったのを確認しつつ突っ込んで来るドラゴンを避ける為に横に飛ぶ。
強者の余裕なんだか分からないが、これだけダメージを与えているのにいつまでも同じように突っ込んで来てんじゃねぇよ。
てか、攻撃に対して迎撃はするみたいだが、俺らの事ほとんど目に入ってねぇだろ? 今更真剣になろうとも遅いけどな。
「尻尾いただき」
今の一撃でマインが振るよりもダメージが通る事が分かったので、避けるついでに防御貫通攻撃スキル貫通を乗せてドラゴンの尾に大剣槍を振るう。
「GYEEEANEEEEE!?」
根元からとはいかなかったが、ドラゴンの尾が半ばから断ち切れる。
部位欠損のステータス異常が付いたな……。
欠損による攻撃力低下と出血によるダメージって所か?
「GEEAAAAAA!」
方向転換したドラゴンがこれまでにない咆哮を上げて睨みつけて来る。
今更危機感や敵意を持っても遅いんだがな。
もう一発斬りかかろうと駆け出す直前にブレスが来る。
炎弾じゃなく広範囲に広がるタイプのやつで避けようと思えば遠ざかる位しか今は方法が無い。
でも、もう少しなら行ける。
「地壁!」
背後から聞こえるソウマの呪文を聞いた瞬間に駆け出した。
ブレスと俺の間、前方に出現した黄色い魔法陣の後に出現した壁の上に飛び乗り、壁に阻まれているドラゴンのブレスを跳び越える。
「師匠! 今ので最後です!」
「あ、ちょっとソウマ!!」
背後に聞こえるソウマの魔力切れの知らせとマインの焦った声、ソウマが魔力切れで気絶したんだろう。
これで仕留めないと危険だな。
「とりあえず口閉じろ」
頭を踏んで口を閉じさせる。
途中で止められた炎が牙の間から漏れているがドラゴンに炎によるダメージは無いみたいだ。
空かさずドラゴンの上を頭から尻尾に駆け下りながら大剣槍を突き立て背中を斬り裂く。
俺の方もそろそろ魔力が限界だな。
「GUGYAAAAAAA!」
チッ、痛みで暴れやがる。
振り落とされる前に自分から飛び降りる。
尻尾の方に居たから地面まではそう高さは無いが、振り落とされるのは勘弁願いたい。
「てか、仕留めきれなかったか……」
ドラゴンのライフはまだ一割ほど残っているが、これなら後一発で削れるな。
ドラゴンが降りて来さえすればだが……。
「普通ここで逃げるか?」
残りライフ一割のドラゴンは、背中から血を吹き出してはいるが、無事だった羽根で既に空に居た。
「あ、ヤバイ」
そのまま逃げてくれれば色々ギリギリのこっちは助かるのに、ドラゴンはブレスでこちらに狙いを定めている。
投擲は風の守りで効かない、魔法も今の魔力で使える物じゃ多分効かない、更に使えば魔力切れで気絶して後が無くなる。
魔力の回復薬は有るが、あれはゲームと違って効果がじわじわと出て来るので今の状況を覆すには足りない。
ソウマは気絶中、まだ元気なマインは……魔法も物理も攻撃力不足。
残る手段は大剣槍を投擲するぐらいだが、使用者から離れても効力が出るのか? 奥の手を切った方が確実か……。
「各自一斉に撃てぇ!!」
「「「「「「流星剣!!」」」」」」
ドラゴンのブレスが放たれる直前、ドラゴンの更に頭上に黄色の魔法陣が複数展開されそこからドラゴンに目掛けて無数の剣が降り注ぐ。
「まだだ! 手を緩めるな!!」
降り注ぐ剣が止まない内に背後、ソウマの設置した地壁の方から大量の矢がドラゴンに向かって射かけられる。
あの位置まで届くのか……、ゲームの射程範囲なんてここじゃあまり関係無いな。
「「大岩砲射!!」」
「「「「流星剣!!」」」」
続いて魔法の第二射、有効属性でランク4の魔法も混ざっているようだが、残念な事にドラゴンの守りを抜けるには威力が足りていない。
「GOGYAAAAAAAAAA!!」
それでも、不利を感じたのか煩わしくなったのか、ドラゴンは踵を返しミネラルレの街から離れて行った。
「やった……やったぞ!!」
「ついに、ついに俺たちであの厄災を撃退したんだぁ!!」
なんか盛り上がってるな……助かったから良いけど……何者だ? 戦闘マップで確認っと……フェブリエの騎士か。
遅い気もするが、街の常駐兵は避難誘導を優先していた筈だ。
あの騎士たちは避難誘導していた兵士たちとは別の奴等だな。
知らせを受けて来たのか? それなら、結構迅速だといえるんだろうか? まぁ、ご苦労さんだ。
「静まれ! 我々はこれより負傷者の救出を行う! 各自街に散り怪我人や瓦礫の下敷きになっている者たちの救出に向かえ!」
隊長らしき人物によって、いや、戦闘マップで確認した感じ隊長で合っていたが、彼によって興奮する騎士たちは統率され、言われた通り街へ散って行った。
後の街の事は騎士共に任せておけばどうにかしてくれそうだな。
「師匠~大丈夫~?」
騎士共に見つかって、勝手に戦っていた事で色々文句を言われない内に立ち去ろうとソウマたちの方を確認すると、魔力が尽きたのか地壁が消えていて、気絶したソウマを背負ったマインが側まで来ていた。
「見ての通りだ」
途中で負った怪我は既に治癒で直っている。
それから大きい傷は負っていないので問題無く動けるな。
「ホントだ~よかった~」
マインはそう言ってソウマを放り出すと大剣槍に飛びついた。
そっちの心配してただけかよ……。
マインが大剣槍の状態を確認している間にソウマの側に歩いて行き腰を下ろす。
ライフは全快だが魔力が殆ど残ってない、なんかだるいのもそれが原因か? 兎に角、結構疲れた。
「ソウマ、大丈夫か?」
返事が無い。バッチリ気絶しているようだ。
とりあえず、魔力回復薬を無理矢理ソウマの口に流し込んでおく。
「しかし、ひどい状態だな」
街の三分の一ぐらいが戦いの影響を受けて壊滅している……何割かは俺がやったんだが。ドラゴンによって殺された人の数も楽観できるような数ではないだろうな。
俺が来る前に既に結構な被害になっていた……まぁ、あの状態から空飛んでる奴を追いかけても間に合わないなんてことは分かっていた。
ここに着いてからは、戦闘マップで確認しながら戦っていたから交戦し始めてからの人的被害が無い事は確かだ。
俺、十分よくやったよな?
「貴方たち怪我は有りませんか?」
あ、しまった……のんびりし過ぎて街に散って行った騎士の一人に見つかった。
他の騎士共とおそろいの装備に身を包んだそいつはソウマたちと同じくらいの歳の少年だった。
見つかった所でどうも無いって話なんだが、街の被害の何割かは俺がやらかしているからばつが悪い。
「彼は……気を失っているようですけど」
「問題無い、魔力切れで気絶しているだけだ。怪我も無いから他を見てやってくれ」
街の破壊に貢献した後ろめたさが有るのでさっさと立ち去ってしまおう。
「ドラゴンと戦って無傷ですか……。先輩たちはドラゴンを退けて浮かれていますが、先ほどのドラゴンは既に相当な深手を負っていました。貴方たち、何者ですか?」
おう? なんか警戒されている? てか、こいつちょっと機嫌悪そうなんだが、どうした?
「アタシは~、フェブリエ国家魔創術師見習いのマイン、気絶しているのが~同じく見習いのソウマ」
「あー、俺は瑠衣、偶然居合わせた嘱託騎士だ。とは言え、身を守るので精一杯で街の方はこんな有様だけどな」
これで俺が破壊した分の責任は逃れられるか?
「で、お前らは?」
おい、何を不思議そうな顔している? こっちに名乗らせたんだからそっちも名乗れよ。
「師匠、この人たち竜騎士隊の騎士だよ~」
おいおい、マインが知っているレベルの常識なのか? そりゃ不思議そうな顔される訳だ。ってのは、マインを馬鹿にし過ぎかな?
「その子の言う通りですが、僕は竜騎士でも見習いです。だから、先輩たちのように諦めても浮かれても居ないんですよ。ここでの戦い、詳しく聞かせてもらいます」
戦ってたことは全然誤魔化せてないな。まぁ良いが……。
よくは分らないんだが、この世界の竜騎士は、竜騎士と聞いてパッと思いつくような竜に騎乗して戦うタイプではなく、竜、ドラゴンを狩るのが役目か?
目の前の見習い君は仕方ないが、他の竜騎士共のレベルを見る限りじゃ、さっきのドラゴンを相手にするには力不足かと思うんだが? 竜殺し的な武器とかスキルでも有るんだろうか?
「竜騎士はドラゴンを倒すための騎士。だけど、実情は他の多くの民を避難させるまでの時間稼ぎをすることしかできない、時間を稼ぐためにドラゴンに無謀に挑むしかない、生贄……みたいなものなんだよ」
ミリルがこっそりと俺にだけ聞こえるように伝えて来る。
あぁ、だからこの見習い君はちょっと機嫌悪そうなのか。
自分たちが生贄だという現状や、既に重症のドラゴンを撃退したぐらいで喜んでいる先輩騎士にあまり良くない感情が有るんだろう。
「話を、聞かせてもらいます」
仕方ない、ソウマも気絶したままだし、少しだけ付き合ってやるか……。




