一章21話 竜「正直嘗めてた」
ダオンとミリル同様に何人か逃がしてようやくドラゴンは俺を認識したようだ。
「GUROOOOONN」
ドラゴンに狙われた奴を逃がす際に何発か地壁で下から叩き上げてやったが、全く効いている様子は無いな。
「ドラゴンって属性なんだ? とりあえず色々試すか……氷柱撃!」
青い魔法石を取り出して魔力を流し、ドラゴンに向かって発動する。
翳した手の前に出現した青い魔法陣から氷柱がドラゴンに向かって飛び出す。
「GAAAAAA!!」
っと、意に介さず突っ込んできやがった。
突っ込んで来るドラゴンに潰されないように逃げたが、途中で羽根を広げて当てようとしてくる。
屈んで避けたが、俺に放った氷柱はドラゴンに当たる前に軌道が逸れて無事だった何件かの家に突き刺さっている……まぁ、俺がやらなくてもドラゴンにやられてる筈だから構わねぇか。
でも、弾かれるとか効かないじゃなくて逸れるってなんだよ。
ドラゴンは周囲の建物を壊しながら暫く前進し、止まった場所でまた暴れ始めた。
「鳥頭かよ……俺はまだやられてねぇぞ」
だが、今ドラゴンの暴れている場所はもう避難が済んでいる事は戦闘マップで確認済みだ。
人的被害を気にしなくてよくて、それでこっちに気が向いていないなら遠慮なく不意打ちさせてもらおう。
とは言え、俺が普通に使える魔法だと逸れて当たらないかもしれない。
逸れたのも偶々なのか、なにか原因が有るのかも分からないから対処の仕方が分からない。
試しに威力を上げるか……これで駄目だったら直接殴る。
魔法石にも限りが有るからな。
取り出したのは黄色の魔法石。ランクとしては俺に使えないランク4で、使おうと思えば魔力の過剰供給による魔力暴走の疑似発動、魔石懐放が必要になる。
「魔石懐放・岩弾掃射!」
翳した手の前に黄色い魔法陣が出現して、手の中の魔法石が砕け散る。
だが、魔法は発動している。魔法陣からその辺の家ぐらいは潰せそうな大岩が五つほどドラゴンに向かって飛び出していく。
「GYAAAAAAAAA!!」
大岩に気付いたドラゴンが口を開け火球を撃ち出して全て迎撃する。
撃ち落された大岩が周囲の家を何軒か潰したが迎撃したドラゴンが悪いって事で……。
「チッ、さすがに規模がでかいと気づかれて不意打ちにならないか」
やっぱ正面から殴らねぇと駄目かな。
「GYKIGAAAA!」
俺を再認識したドラゴンが、今度は俺に向かって炎を吐いて来る。
「ドラゴンがブレス吐くってのはファンタジーじゃお約束だが、こいつ火球だけじゃないんだな……」
今の火の息は火球と違って範囲が広いみたいだ。
後退すれば避けられるだろうが……それだと殴りに行けないな。
「地壁」
防壁で防ぐのではなく出した時の勢いで自分を射出する。
炎のブレスを跳び越えてドラゴンの横っ面をぶん殴る!
「GURUO!」
まともに入ってドラゴンが仰け反るがライフは少し減っただけだ。
空中じゃ力が入らないか……って!
「ぐっ!」
着地前に尾の一振りでぶっ飛ばされてしまう。
元家だった瓦礫に突っ込んで止まったが、痛てぇ、久々にごっそりとライフが減ったぞ。
幸い骨折の状態異常はなく痛みはすぐに引き傷も無い、攻撃を受けた証拠は四分の一ほど減ったライフ表示だけだが、防具は貧弱とは言え、俺の防御力でも単純計算で四発喰らえばアウトか……。
これ、俺以外にドラゴンに対抗できる奴いないんじゃないか?
「休んでいる場合じゃないな」
自分でぶっ飛ばしておいて俺の事を見失ったドラゴンは再度破壊活動を始めようとしている。
一応、治癒でライフを回復しながらアイテムボックスから今回の依頼品の装備から武器を見繕って取り出す。
フェブリエの騎士剣、俺の所有物じゃないから攻撃力は分からないが、マインが折ってくれた剣よりは高いだろう。
「使っちまうけど緊急事態だから仕方ねぇよな」
自分からその事態に飛び込んで行ったってのは無視で。
スキル、投擲。
命中に補正がかかり、自身と武器の攻撃力で威力が決まる。
空中で腰が入っていなかったとはいえ、殴っただけじゃ針で刺したようなダメージしか入らなかったからな。
命中に関しては予測とスキルの必中でどうにでもなる。
「魔法ほどの派手さは無いから、これなら気づけねぇだろ!」
予測で命中確定させ必中も重ねた投擲、ついでに溜めも使って威力を上げる。
「その首、吹っ飛ばしてやるよ」
スキルを使って投げた剣は……。
「はぁ!?」
ドラゴンに当たる前に軌道を変えてあらぬ方向へ飛んで行った。
剣の飛んで行った方から建物の倒壊音がするが、それどころじゃない。
「くそ、失敗の上にまた気付かれた!」
いや、気づかれたのも問題だが、必中使って当たらないってなんだよ……。
そりゃ分かる、あれだろ、何か面倒なスキルが働いているんだろ?
命中予測じゃスキルや魔法で防がれるのは予想できないからな!
ティリアスの直感相手にしたときも正常に予測が機能していなかったから、多分何かのスキルの影響が有ると正確に予想できないんだろう。システムスキルって普通のスキルの上位って気がするが、システムスキルなんてのは俺が勝手に言ってるだけで実際は違うんだろう。
「とにかく、あの攻撃を逸らされているのが何のスキルか分からないから問題なんだよ……」
攻略本が欲しいって、無い物ねだりしている場合じゃないな。
考えろ、あれは何の能力だ?
「チッ、地壁」
羽根を広げながら突っ込んで来るドラゴンの片方の羽根側にだけ地壁を集中して設置する。
あのドラゴンアホっぽいからこれだけで突っ込む方向が変わるだろう。
思惑通りドラゴンは地壁に引っかかって明後日の方向へ突っ込んで行ったが、そっちの無事だった建物は見事にぶっ壊された。
「建物の被害は……知らねぇ、文句はドラゴンに言え」
まぁ、皆避難していて誰も見て無いだろうが。
とにかくあのドラゴンのスキルはなんだ? 投げた騎士剣はドラゴンに届く前に逸れて別の方向へ飛んで行った。
岩弾掃射はブレスで迎撃されたから逸らせないのかもしれないが、もう魔法石が砕けてしまっているので使えない。
最初の氷柱撃魔法も弾かれたんじゃなくて途中で逸れた……。
横っ面を殴った時は普通に当たったが、近接なら行けるのか? いや、ブレスを使っている最中だったから攻撃を逸らしていたスキルが発動していなかったって可能性も有るか?
もう一回物理で殴れば分かるか、今度はブレス使ってない時にな。
またドラゴンがこっちを見失っているのを幸いと隠密を発動する。
今度は腰入れて、思いっきりぶん殴ってやる。いや、騎士剣ならまだ有るな。
魔王をやった時と一緒だ、詰め込めるだけスキルを詰め込んで強化して……暴れるドラゴンに忍び寄り、ぶった斬る!
ああ、くそ! やっぱ逸れた。
でも近くで逸らされて分かった。
「風か……」
ドラゴンを攻撃しようとした場所に突風が発生して剣線が逸らされた。
ついでに俺もちょっと吹き飛ばされたから合っている筈だ。
自動防御の風の守り、それも俺の攻撃力でも問答無用で逸らしてくるとか……ただでさえヤバいドラゴンがこれって、強過ぎじゃねぇか?
さっきブレスを使っている時は攻撃が効いたからその瞬間に狙えば当たるんだろうけど。空中じゃ身動きが取れないからその度に吹っ飛ばされたら洒落にならねぇ。
治癒でライフは回復しているが、あれを何度も喰らいたくねぇな。
う~ん、あの風の守りを抜く手か……風っぽいから有利な属性の高威力魔法でぶち抜く位しか思いつかないが、高威力だとそれだけ見かけも派手だ。
多分、岩弾掃射のようにブレスで迎撃するか逃げるかされるだろうな。
そうでなくとも高ランクの魔法を使うには俺だと魔石懐放が必要になって来るから魔力の消費が激しい上に魔法石は使い捨てになる。
魔力が持つうちに倒しきれれば良いんだが、そうじゃなければ……。
たらればで考えても仕方ねぇか、今更逃げるって選択肢も無い、魔法石はまた作って貰えばいいんだし、魔力は使い切る覚悟でやってやろう。
俺に気付くことなく暴れ続けているドラゴンに再度攻撃を試みる。
「魔石懐放・氷柱豪雨!」
でっかい氷柱の雨は……逸らされるか、ハズレだ幸先悪いな。
当たりでも二回目は使えないが……ダブってる魔法石が当たりだったら、威力を上げてもう一回撃てるんだがな。
「魔石懐放・稲妻暴風!」
雷を纏った暴風がドラゴンに襲い掛かるが、風に風は微妙か? 風同士なら抜けるかもって思ったんだがな。
っと、少しは影響があったか? こっちに気付いたな。
なら次は、やっぱりこれか? 岩弾掃射の時は迎撃してきやがったからな。
「魔石懐放・隆地崩震拳!」
地面に出現した黄色の魔法陣から地の大拳が飛び出してくる。
俺のやる地壁で下からかち上げる攻撃に似ているが、地壁だと出現する勢いでダメージを与えているだけで魔法自体の攻撃力が無い。
隆地崩震拳だと魔法自体に地壁に無い攻撃力が設定されているから威力が桁違いの筈だ。
狙い通りにドラゴンが隆地崩震拳をブレスで迎撃する。
で、その間は風の守りは発生しないんだよな?
「魔石懐放・大地震動斬!!」
魔力もこれで最後だ。これ以上は気絶する。
翳した手の先の魔法陣を起点に出現した黒い刃は、俺が手を振るう動きに合わせて動いた魔法陣と共に動きドラゴンを断ち切ろうと振るわれる。
「GYABEEEE!」
当たったが、一撃じゃ仕留められないか……減ったドラゴンのライフは三分の一程度か、倒そうと思ったら同様の攻撃が後二回必要だが、もう魔力は殆ど残っていない。
残ってても属性的に効く高威力の物が有るかどうかだが……今の手持ちの中じゃ思い当たらない。
「GOOAAAAA!!」
今の攻撃でダメージを負わせたせいか、敵意を俺に集中させているようだ。
このまま戦ってもライフを回復する魔力が無いから不利か……奥の手を切るか?
「んん~~~! てりゃぁああ!!」
「GUGAAAAAA!」
ドラゴンが俺に突進を仕掛けようとした瞬間、横合いから飛び出して来た少女がドラゴンに斬りかかった。
少女って言うか、マインだ……追いかけてきたのか?
てか、ドラゴンにマインの攻撃が通った!?
ダメージとしては微々たるものだが、マインの攻撃はドラゴンの風の守りを貫いてドラゴンに届いていた。
「師匠、無事ですか?」
ソウマまで来たのか……リュインはどうした? お前らの事は任せた筈なんだが?
「見ての通り無事だが……あっちは仕留め切れてねぇ」
「俺も手伝います。マインのおかげで魔力は温存できていますから」
魔力満タンでもお前等には荷が重いと思うんだが……こいつら天然のチートだからなぁ、なぜかマインの攻撃はドラゴンの風の守りを抜いているし、ソウマの魔力はレベル不相応な程に多い。
俺だけでも厳しいのには変わりない、ここはやらせるか。
「んじゃまぁ、あれの注意を引き付けておくのは俺が何とかしねぇとな? 正面には俺が立つ、お前らはドラゴンの攻撃の余波でやられない程度に魔法でも剣でもいいからぶち込め」
マインに斬られはしたが、俺への敵意が優先されたようだな。
そのまま突っ込んで来たドラゴンの身体から大きく離れるように避ける。
当たっても居ないのに吹っ飛ばされることを警戒はしたが、風の守りは攻撃に対してのみ反応するみたいだ。
建物を薙倒しながら突っ込んで行くドラゴンを挑発するように、その辺の瓦礫を適当にドラゴンに向かって投げておく。
風の守りに阻まれるが、起き上がったドラゴンの敵意は俺に向いたままのようだ。
「む~、堅い~!」
マインが文句を言っているが、このドラゴンに攻撃が届いているだけで凄いんだからな。
俺はドラゴンの気をこっちに釘付けにするために、無駄でも周囲の瓦礫を投擲し続ける。
突っ込んで来たところをさっきと同じように避ける。まぁ、風の守りで吹き飛ばされる心配はしなくても良さそうなので、さっきよりも抑えて避けれる。
「ほいさ!」
ドラゴンの通り過ぎる瞬間を狙ってマインが斬りかかる。
やっぱり風の守りに弾かれる事無くドラゴンに多少のダメージを与えている。
アレどうなってるんだ?
「俺も行きます。魔石懐放・緋々爆炎槍!」
自分の壊した建物の瓦礫に突っ込んで止まったドラゴンにソウマが魔法を放つ。
って、お前いつの間に魔石懐放使えるようになった!?
赤い魔法陣がソウマの頭上に出現し巨大な炎の槍がドラゴンに向かって射出される。
それと同時にソウマの杖に填められた赤い魔法石が砕け散った。
瓦礫に突っ込んで止まっているドラゴンはブレスで迎撃したりはしないが、炎だと風の守りに阻まれ……なかった。
ソウマの放った炎の槍は風の守りに阻まれる事無くドラゴンの身体に突き刺さりその身を焦がす。
「師匠が仕留め切れていないのに、加減なんかできません」
さらっと満タン近かった魔力をほぼ使い切りやがった。
どれだけ威力を上げたんだ!? ごり押しじゃねぇか。
その甲斐有ってドラゴンのライフは半分以下になったが……ここからどう削るよ?
魔力を使い切ったって事はソウマは早々に戦力外になったって事だ。期待以上の働きはしてくれたが……。
今の俺とマインじゃちまちま削って行くしかなさそうだ……。
「マイン、お前どうやって攻撃当ててるんだよ?」
こら、何言ってんだこいつ、みたいな顔でこっち見るな。
さっきから俺が瓦礫投げてるのに全く当たってないの見てるだろうが……マイン、お前俺をノーコンだとか思ってたんじゃないだろうな?
「あのドラゴン、風の守りみたいなもんが付いてるんだよ」
「でも~、普通に斬ってるだけだよ~?」
ドラゴンを対処しながらマインに聞いてみたが、予想通り全く分からん。
「ソウマ、通訳」
「え、俺も分かりませんよ。でも、マインの大剣槍は風の魔剣なのでそれが影響しているんじゃないですか?」
風に風をぶつけるってさっきやったけどあまり効果が無かったぞ?
「マインの大剣槍は風属性を持った切れ味を増す効果を持った魔剣ですよ、風ぐらい斬れるんじゃないですか?」
一理あるのかな……一応試してみるか。
「マイン、大剣槍貸してくれ」
「え~~」
え~~じゃねぇよ。お前だってミスリルタートルの時俺の剣使ったじゃねぇか。
安心しろ壊しはしねぇよ……多分な。




