一章16話 真銀亀「ボーナスは攻撃に極振り」
止めるしかねぇ!
「マイン、周りの奴をもう一回転がせ! 俺はあいつを押さえる!」
マインにそう指示だけ出してミスリルタートルの魔法を阻止するために飛び出す。
起き上がってしまったミネラルタートルはミスリルタートルに道を譲るように移動しているみたいなので無視、指示したようにマインに任せる。
「GA? GAIAAAAANN!!」
突っ込んでくる俺に気が付いたか? 他のひっくり返ったミネラルタートルの下に有った魔法陣が途中で消えミスリルタートルは魔法を中断した。代わりにミスリルタートルのやや前方に黄色い魔方陣が出現し……。
「地隆槍か?」
魔法陣を起点とした地面が槍の形を取りながらこっちに向かって突き出て来る。全く同じ魔法ではないだろうが似た様な魔法なら対処できる方法がある。
地面を蹴り砕いて槍の生成される土台を無くす。
ミスリルタートルの放った魔法は俺に届く前に勢いを弱め止まってしまう。
ハインライトで敵にこれをやられた時は驚いたが……上手くいった。ミスリルタートルの使った魔法にも有効みたいだな。
防御に徹すれば時間は稼げるか?
いや、あのミスリルタートルって、他のミネラルタートルがミスリルタートルに道を譲って移動したから多分ボス個体だと思う。なら、ミスリルタートルだけを倒せば他の奴は逃げて行くかもしれないな……。
「試すか?」
ミスリルタートル、レベルは……32か、おそらく防御力が高い敵だがこのレベルなら何とか行けるか?
一応、多少は倒しても良いと言われているが、ギリギリまでは粘るか。
「GAIAAAAAA!」
また魔法か! フラッシュタスクが有るから発動を見てから対処方法を選べるが……。
ミネラルタートルの前方に展開された魔法陣の色は黄色、こいつが使うのは地属性ばかりか?
魔法陣からつらら状のつぶてが複数飛んで来るが、真っ直ぐ飛んで来るやつは避け易い。それも、今のレベルのステータスがあってこそなんだけどな。元の世界に居た頃の俺だったらこんな攻撃が来ることを予想できても避けるだけの身体能力が無い。
「殺さない程度の反撃を……地壁!」
他の魔法に持ち替えるのも面倒だし、攻撃魔法は加減が面倒なのでやり方によってはぶちかましができる地壁をミスリルタートルがぶっ飛ぶように調整して発動させた。
ミスリルタートルに地壁が当たる直前、地壁とミスリルタートルの間に魔方陣が展開する。防がれたか?
魔法陣と接触した地壁はぐにゃりと曲がり、あらぬ方向へと伸びた。
「GAIAAAAANN!」
俺の出した地壁を伝いに地隆槍が伸びて来る。それを地壁を消してしまう事で土台を無くして止める。
地壁系は使えないのか? ここまででミスリルタートルが使た魔法は、確認できている物で地隆槍系と円錐型の礫を飛ばしてくる物と今の何か柔らかくするやつだ。
「魔物の使う魔法の種類は多くて三つとゲームの設定なら決められているが、この世界でこの考え方を適用させるのも危険か……」
どのみち見てから判断するしかないんだけどな。
「あ、師匠! そっち行っちゃいましたよ~」
は? って! マインのぶっ飛ばしたミネラルタートルが飛んできてる!
お、こいつが最後か? 起き上がったミネラルタートルがこいつ以外皆ひっくり返っている。マインもやればできるな、最後の奴を俺の方にぶっ飛ばしたのは余計だが……。
「いや、丁度良い」
飛んできたミネラルタートルを受け止め、ひっくり返してミスリルタートルと俺の前に来るように降ろす。
攻撃すればこいつをたてにするぞとミスリルタートルに伝わるように、その動きに合わせてミネラルタートルの位置を調整する。
下位個体を救助し魔法まで使って来るんだからそれなりに知性は有るんだろう、その下位個体もこいつに統率されているようだしな。
これで通じるなら楽なんだがな。
「GAIAAAAAA!」
そう簡単にも行かないか! 魔法陣の出現場所は……上か!
魔法陣の大きさから見て、ひっくり返ったミネラルタートルも巻き込まれるが、それでも撃って来たって事はミネラルタートルは人質にはならないって事か。
魔法陣から円錐型の礫が降り注いで来るが、俺はとっくにミネラルタートルを置き去りにして魔法の範囲外に退避している。
ミネラルタートルだけが礫に晒されるわけだが、ミネラルタートルは首や手足を甲羅に引っ込めてそれに耐える……あ? 引っ込めた甲羅よりは弱そうな部分にも光る薄い膜が張られている?
防御魔法か? ミスリルタートルもあれは使えるって考えた方が良さそうだな。
味方は甲羅に引っ込んだ防御姿勢と魔法でガッチガチに守りは固められるから魔法に巻き込んでも大丈夫ってか?
「もういい、一回倒してやる」
時間稼ぎが面倒になってボス個体の撃破を試してみる事にした。
「GAAAAAAA!」
うるせぇよ、洞窟内で叫ぶな。
威嚇の咆哮に気分を害しながら、ミスリルタートルを俺の攻撃範囲内に捕らえる為に駆け寄る。
咬み付こうと迫って来る顔を下からぶん殴って防ぐ。ダメージ予測で分かってはいたが、軽く殴った程度では殆どダメージが入らないな。
だが、本気でやれば別だ。俺、素手でも壁ぐらいはぶち破れるからな。
レベルの上でも俺の方が格上だ。
それに、防御力の高い魔物でも問題にならない攻撃力を俺は持っている。
俺のシステムスキル基のゲームのレベルアップ時に上昇するステータスはキャラによって固定だが、その固定値以外に自由に振り分けられるポイントが存在する。この世界で俺がレベルアップした時もそのポイントは取得できたので、それらは全てSTR、攻撃力に割り振った。命中予測と必中のスキルが有ったから命中率を上げるような器用さとかにポイントを割り振る必要が無かったのも有るが、遠距離から敵が近づく前に仕留めるには高い攻撃力が必要だったからな。
で、本気で殴った時のダメージ予測は、中々にいい数値をたたき出しているな。
戦闘マップで確認できるミスリルタートルのライフをほぼ削り切るぐらいか? 少し少ない気もするが、素手……武器の攻撃力分の補正が無いならこんなもんか。
「要は、二発殴ったら倒せるって事だな」
何かを感じ取ったのか、ミスリルタートルは自身の下の地面を柔らかくして元に戻す。その反動を使い俺から距離を取った。
「そういう使い方もする訳か、味方を跳ね飛ばすなら自分にもできるよな。てか、そのまま警戒して大人しくしていてくれは……しないか」
さっきよりも激しく礫を放つ魔法を連打して来るが、多少勢いと物量が増えたぐらいなら回避できるな。礫をかいくぐって再度接近し,甲羅にだが本気の一撃を叩き込む。
甲羅にひびを入れられながら攻撃の衝撃で吹っ飛んで行くミスリルタートルのライフはほぼゼロ、瀕死状態だな。まともな武器が有れば一撃だな。
「あ~、師匠ずるい~」
いや、お前の攻撃じゃミネラルタートルの防御も抜けない事は、これまでひっくり返す為に殴っていて分かるだろ……。
「え~アタシもできるよ~」
おお、言ったな。現実を知るいい機会だ、やってみろ。
「やった~!」
マインはいそいそと武器を持ち変える。ミリルの大剣槍を俺に預けて……自分のじゃなく俺のボロ剣を使うのか? まぁ良いが……その剣は攻撃力低いぞ。
「いっくよ~」
ミスリルタートルは瀕死で甲羅にも罅が入っているがマインのレベルでは歯が立たないだろう。それでも、マインは構わず、吹っ飛ばされたため遠くに居るミスリルタートルに駆け寄って攻撃する。
「えい!」
あれ? 剣光って無いか? 剣自体にそんな効果は無いが……もしかしてマインのスキルか? しかしあの光、なんか嫌な予感が……ソウマの魔力暴走時や魔石懐放を使った時と光が似ている様な……。
「GAAAAAAAAA!!」
あ、マインの攻撃が叩き込まれミスリルタートルのライフが削れた。それは、ほんの僅かなダメージだったが、俺の攻撃で瀕死状態だったミスリルタートルのライフを削り切るには十分な物だった。
絶叫を上げて倒れるミスリルタートル。その残りライフはきっちりゼロだ。
「マジか……」
戦闘不能状態だからまだ殺してはいないが……ほぼ瀕死で甲羅にひびが入って防御も落ちていたかもしれない状態だがマインの奴、ミスリルタートルを倒しやがった。
マインのレベルじゃ到底攻撃が通らない相手なんだが、やっぱ何らかのスキルか?
この世界の奴等はスキルどころかレベルも理解していないから本人に聞いても分からないんだよな……現実はゲームじゃないんだからそう言った概念が無いんだろうが……。マインのステータスが見えれば手っ取り早いんだが、見えないものは仕方ないか。
とにかく、マインはやばいスキル持ってるかもしれないって覚えておこう。
なんか、あの光る攻撃の後、俺のボロ剣がマインの手の中で砕けたしな!
刀身だけじゃなく柄までボロボロに砕けるってどんなだよ!? スキルの影響だってのは分かるけど、マインの奴、武器が壊れるって分かってて俺のボロ剣を使ったな!
なんだその顔、どやぁ、じゃねぇよ! やるなら自分の剣でやれ!
「まぁまぁ、それより師匠、ミネラルタートル、すっごい集まって来てるよ~」
うお! ミスリルタートルを倒したせいかマップの見える範囲全部のミネラルタートルが敵対の赤アイコンになっている。
「これ拙くないか?」
「拙いね~、倒すならともかく、倒さないで凌ぎ切るのは難しいかな~」
だよな。
「ソウマ! 採掘はまだ終わらないのかぁ!」
ソウマの維持する地壁に向けて叫ぶ。
「もうすぐ終わるそうです! でも、今壁を解除して大丈夫ですか!」
寧ろもっと急げ、多分洞窟内の全ミネラルタートルが敵対状態だ。
「とりあえず近くの奴は転がしてるから急げ! てかちょっとヤバい状態だから途中でも切り上げろ!」
ソウマが分りましたと返事をしてミリルが採掘員たちに説明しているのが聞こえる。
とりあえず、もうちょい時間稼ぎだな。奥から来る奴は地壁を重ねて設置して時間を稼ぐとして、入り口側から来る奴は、倒さない程度に蹴散らしながら行くしかないか。
てかミスリルタートルを回復させたら収まらないか? 無理か……。
「師匠、撤収準備終わりました! 地壁解除しますよ」
「おう、やってくれ! てか急げって!」
地壁が解除され、ソウマと鉱石を山ほど抱えた採掘員たちと合流する。
持ちきれない鉱石が残ってるじゃねぇか、もうちょっと計算してやれば時間短縮できたんじゃないか? とは言え、せっかく掘ったのを残して行くのももったいないよな。俺に分かる範囲でアイテムボックスに放り込んで行こう。手早くな。
奥側に地壁を複数設置して出口へ、当然こっちに向かって来ているミネラルタートルが居るんだが……やっぱミスリルタートルを回復させておこう。
射程ギリギリで治癒っと……あ、駄目だ。何故か効かない。ミスリルタートルのライフがゼロのまま回復しない。
当てが外れたな、もう蹴散らしていくしかないって事だ。
俺が先頭で遭遇するミネラルタートルを片っ端からひっくり返して行く、マインはフルスイングしてぶっ飛ばすから確実性が無いのでここは控えさせる。
ソウマには殿を任せて随時ミネラルタートルが起き上がっても追いかけて来ないように地壁を多めに設置を頼むが魔力持つか? 魔力切れまでやられると気絶して荷物になるからそこまで行きそうならマインにもやらせよう、マインも4属性で黄の属性も地壁を使えるぐらいには適性があるって聞いているからな。
そうやって何とかミネラルタートル共を掻い潜り坑道を抜け出すことができた。
「地壁、しばらく解除できませんね」
幸い、地壁を喰って出て来ないようなのでこの状態で置いておいてどうするか検討する必要が有るな。
早急に鉱石を手に入れるためとはいえ、状況を悪化させてしまったが……元々相手を倒さずに護衛しろってのは無茶な話だ。俺にそんな話を持って来た国の奴の責任だし頑張って話し合って解決して貰おう。
あえて言う、俺は悪くねぇ!




