一章12話 道中「微妙に騒がしい……」
ミネラルレへの移動は馬車の為、徒歩よりは早く快適では有る。しかし、毎日宿場場所までたどり着けると言う訳ではない。
なので当然野営する日も有るのだが……。
「だから! 一人で突っ込んで行ったら危険だよ!」
「え~、でも突っ込んで行った方が早いよ~?」
野営ポイント、旅人や商人なんかがよく利用している場所を今日の野営地と決めた夜、リュインの用意した食事に口をつけながらソウマとマインのやり取りを眺める。
道中に何度か魔物との戦闘が有ったのだが、その戦闘を全て見習い二人に任せている。俺と、多分普通に戦えるだろうリュインは二人の戦いを見守っている形だ。
道中に出て来る魔物の方はソウマ一人でも対応できる程度という事なので、訓練を兼ねて二人に任せたんだが……。
マインは魔物を見れば突っ込んで行く。不意打ちや奇襲に関しての対応は俺やソウマとの模擬戦でマシになっているし、この辺りの魔物との一対一でマインが後れを取る事は無いが、魔物の数が多いとどうしても手数が足りなくなり何度か危ない場面があった。その度にソウマが魔法で援護して事無きを得るのだが、ソウマには俺の戦い方を教えているので、敵が近づく前に勝負を決めるってのが基本の考え方になっている。
マインの方には俺の戦い方を教えるよりも、マインの長所を伸ばす方に重点を置いていた。そう言った事も有りマインは兎に角深く考えずに突っ込んで行く。
そうなると、ソウマはマインを巻き込むような魔法は使えなくなり、マインの動きを見ながら魔法をでちまちまと援護することになる。
魔物のステータスとソウマの魔法の威力を照らし合わせての予想では、最初からソウマが広域の魔法をぶっ放していればほぼ片付く魔物ばかりなので今のやり方ではソウマの方に不満が出て来るのは仕方が無いか……。
「近接戦ができる者が前衛、魔法使いが後衛って間違ってはいないんっすけどね」
「まぁ、そうだな」
俺のやり方には、一人で戦うんだから攻撃を受ける前に片づけないと危ないってのと、初期の魔物怖いから近付かれる前に倒したいってのが有るからな。
ただ、複数人でいるならば前衛のマインが敵を引き付けてソウマが援護と言うのは間違っていない。俺のやり方で手っ取り早く片づけられるからもどかしいのは分かるが……。
「複数を相手にするなら戦況を把握している奴が必要だ。その役は戦闘センスが有るだけのアホのマインよりソウマの方が向いている」
俺は一人でもフラッシュタスクと戦闘マップで周りを確認しながらやるぞ。
「それ、教えてあげたら良いんじゃないっすか?」
「いや、でもこっちの方が面白くないか?」
まぁ、マインが突っ込む前に範囲魔法を一発ぶち込む方が効率は良いけどな。ミネラルレまでの道中は好きにやらせよう。話し合ったりすることは記憶の無いソウマにはいい経験になる。マインは……なんだ、まぁ、猪突猛進なとこが直れば言う事無いんだがなぁ。
「あ~、でも、そろそろ来るっすよ」
「あぁ、こっちでも確認してる」
リュインの言う少し前から戦闘マップに適性の赤アイコンが表示されている事には気が付いている。その赤アイコンがじわじわとこっちに近づいてきている事にもだ。
普通に、ソウマとマインの騒ぐ声に呼び寄せられた魔物だな。
「昨日も同じ事やってたっすよね?」
「そうだな、まるで成長していない」
成長していないが、寄って来た魔物には気の毒だが二人の訓練相手をしてもらうから放置している。で、どんどん戦闘経験だけが溜まって行くと……。そう言えば、二人とも何時の間にかレベルが上がっているな。
俺の方には俺が戦闘に参加していないから経験値がプールされないが、どの道、俺のレベルはカンストしていて経験値を振れないからどうでも良いな。
ソウマたちのレベルが魔物を倒した後、俺のように何か割り振るようなことをしている様子も無く勝手に上がって行ってる事から、俺とはレベルアップ方式が違う事は分かる。だが、魔物を倒す以外にソウマたちのレベリングをする方法が分からないので、出来るだけ2人に魔物の相手は任せているというのが現状になる。
俺のプールしている経験値が割り振れたら話は早いんだけどな。
ステータス画面を確認しても俺以外は表示されない。ゲームとは違うってだけか、それとも何かソウマたちが表示される条件でも有るんだろうか?
「あれ? 自分をご指名っすか?」
じわじわと迫って来ていた魔物が急に速度を上げ茂みから飛び出して来る。その勢いのままリュインに襲い掛かるが……。何処からか取り出した歪な短剣で細切れにした。
「悪いけど十割獣は趣味じゃねぇっす」
「十割じゃなけりゃ良いのかよ? 獣人って魔王の眷属って話じゃなかったか?」
実際は魔王の威を借るだけの獣混じりってだけなのは知っているが……。
「どこの国の話っすか。いつまでも勇者召喚なんてものを大事に抱えてるような国と一緒にしないで欲しいっすね。この国じゃ総じて人間よりも能力の高い獣人は貴重な戦力っすよ」
「お前も十分強いみたいだけどな」
アサシンメイド、アサシンだもんな。戦えないとか無いよな。
「まぁ、自分戦えないなんて言ってないっすよ。っと、マイン様ソウマ様、まだ来るっす!」
まだマインの勘でも気づかないか……。突然の奇襲に二人は固まっていたが、リュインの呼びかけで我に返り武器を構え周囲に注意を凝らす。
先に動いたのはマイン、前衛な分ソウマよりも魔物の潜んでいる場所の特定が早かったようだ。
「だから! 俺がまず一度魔法を使ってから……いや、今回はいいか」
突撃するマインに文句を言おうとして止めるソウマ。今は周囲も暗いし魔物も固まっている訳じゃない。
「でも突撃はダメだろ! 地壁」
ソウマが俺たちを囲う様に、そしてマインの目の前に地壁を出現させる。視界も悪く敵が散らばっている現状ならこうして守りを固めて迎撃した方が良さそうだと判断したようだが。今ソウマ地壁を四つ並列処理したな。成長早くね?
「何のぉ!」
馬鹿! 何のじゃねぇよ! マインの奴、地面に浮かんだ魔法陣から出現する地壁の上に足をかけ、地壁が出て来る勢いに乗って地壁の向こう側に行きやがった!
「もう好きにやらせよう……ここらの魔物ならマインでも一人で片付けられる……」
あ、もしかして騎士団長が俺の地壁包囲を抜け出したのってこの方法か? 完成した地壁を騎士団長が越えられない高さに設定はしていたが、下からせり上がって来る出現方法なのを失念していた。
と、俺が思い至っている内に地壁の向こうからは魔物の断末魔の叫びとマインの剣戟の音が聞こえて来るが、やがてそれも聞こえなくなる。
「師匠~、全部倒したよ~。か~た~づ~け~て~」
軽いな~、ソウマ同様とは言わないがマインも魔物との戦闘には慣れていない筈なんだが、初期の俺みたいに魔物に怯えるような事も無く平然と戦っている。性格か才能の違いか、生まれた世界の違いか……。
戦闘マップを確認して敵影が無い事を確認し知らせると、ソウマが地壁を消したので、マインが倒し、しっかりと止めを刺した後の魔物をアイテムボックスに収納していく。
魔物の死体の匂いに釣られて他の魔物が来ないようにと始めたが、そろそろ何処かで火葬でもしないとアイテムボックス内が死体だらけになるな。
「しっかし、この世界の魔物は食えない訳じゃないのも居るが、殆どは食料としては遠慮したいし、装備の材料として向いているかと言うとそうでもない。でも放置するとアンデット化するとか聞いたな……面倒なことこの上ない、燃やすぐらいしか処理方法が無いのか?」
冒険者の組織があってそこで買い取ってくれるわけでもないし、ゲームなら戦闘後に金とアイテムが手に入るが……ったく、そっち系の恩恵が無さすぎるだろ。
「さすがに両断されてる死体はアンデッド化しないっすよ。だから基本は潰して放置っすね」
火葬もいらねぇのかよ……まぁ、今は野営中だから他の魔物がやって来ないようにしまったままにしておくが……そのうち何処かで処分しよう。
ひと段落ついても言い合いを続けるソウマとマインを眺めながら食事の続きに戻る。
魔物の死体を処理したばっかりだって言うのに、俺もだいぶこの世界に馴染んだものだな……。
良いのか悪いのか分からないが、この世界で生きて行くには慣れている方が良いんだろうな。
「まぁ、平穏に普通の暮らしをしていれば慣れも要らないんだろうが……」
改めて騒がしい二人を見る。
「あ~また魔物が寄ってきそうな気がするっす」
多い時で一晩に三回襲撃が有ったからな。
「でも、騒がしい方が退屈しないで済む、何でも楽しんだ者勝ちだ」
「自分平穏が欲しくてメイドになったんすけどねぇ」
ならアサシン技能を封印しろよ。
「でも、ルイ様とソウマ様が来てから屋敷も騒がしくなったっすけど、悪くないっすよ」
それは良かった。俺も、一人で旅していた頃より今の方が楽しいな。




