一章8話 なんちゃって師弟「俺魔創術使えないんだが?」
リエルの家に世話になるようになって暫く経った。
ソウマはクラッドやリエルから魔創術師としての知識を教わりながら魔創術師試験に向けて勉強中。
その間に何か仕事をして弓の購入資金を稼ごうかと思ったが……。
「師匠~、ちょっと付き合って~」
マインに纏わりつかれて仕事を探せないでいた。
よくわからんが、あの模擬戦で懐かれたらしい。リエルがにやにやしながら言ってたから本当にそうなのかどうかは分からないが……。
「今日も模擬戦しかできないぞ、ちゃんとした教え方なんて知らないからな。加減はするから自分でどうやったら勝てるか考えて色々試してみろ。 終わったらソウマたちの方に行けよ、お前そろそろ知識面ではソウマに追い抜かれるんじゃないかってクラッドが心配してたぞ」
マインは活発な女の子と言うよりは全部斬ってしまえば解決するって考えるような危ない脳筋だ。反対にソウマは身体を動かすよりも魔創術や魔法を行使する方が得意のようだった。
ソウマには前に戦闘訓練をしてやると言ったが、リエルたち的には先に魔創術師の資格を取って貰いたいようで、今はそっちを優先している。
「はいは~い」
俺がごちゃごちゃ行ってもマインは聞いてないな、まぁいい、後で苦労するのはこいつだ。元の世界で勉強よりゲームしてた俺が言える立場じゃない。
「んじゃいいぞ」
最初の模擬戦の時同様に庭に移動して構える。
マインは大剣を構え即座に攻撃範囲内に飛び込んで来る。今日まで何度も模擬戦をして、その度にマインの攻撃を避け、あしらってぶっ飛ばしているが、毎回躊躇い無く突っ込んで来る。物怖じしないというのだろうか? 前に出る姿勢は評価するが何も考えずに突っ込んでくるのは駄目だ。
俺の戦い方はフラッシュタスクと命中予測とダメージ予測を駆使して最適行動をとっているだけだ。
まぁ、システム外の技能でハインライトで戦っていた時の経験による相手の目線や細かな動きを見ての行動予測も行ってはいる……。
俺に教えられるのはこのやり方だけになるが、マインやソウマにはフラッシュタスクや命中予測が無い、そうなるとシステムに頼らずに高速で思考して周囲の状況を判断していかなければならない。それが普通では有るんだがな……。
「やぁああ!」
突撃して来る勢いを乗せた頭上からの大振り、レベル差も有るから簡単に避けられる。
そろそろどうやって当てるかを考えても良いと思うんだが……マインは今日までまったく同じような攻撃を繰り返している。
「ったく、どう教えりゃいいんだよ?」
俺だって何も言わなかったわけじゃない、相手をよく見たり工夫しろとかふわっとした事は言えても、こういった場合はこうだからこうと言った具体的なアドバイスは全くできない。システムスキル頼りの俺の経験なんて教えても役には立たないだろうからな……。
とりあえず今回もぶっ飛ばして模擬戦を終える。
悔しそうに起き上がりながら早速訓練に行こうとするマインをとっ捕まえて、ソウマがクラッドたちから教えを受けている部屋に放り込みに行く。
「今日はクラッドか、ほれ、模擬戦の後そなまま逃げようとしたから連れて来た」
クラッドは実際にやれやれと言い魔法でマインを椅子に縛り付けると授業を再開した。
「ソウマ頑張れよ」
「うん!」
クラッドはソウマと同じ物理攻撃より魔法の方が得意なタイプで、リエルはどっちもこなすタイプだ。性格的な面もありソウマたちへの授業はクラッドが受け持っている事が多い。
マインは自分が物理攻撃の方が得意なためクラッドよりもリエルに懐いている。そう考えると、魔法も使わずにマインを圧倒した俺がマインに懐かれたというリエルの言葉がちょっとは信憑性が増すか?
マインも早々に片づけて時間を作ったから今からできる仕事を探しに行くか……何気に冒険者初仕事だ。
装備を冒険者っぽく見えるように切り替え、屋敷を出ようと廊下を歩いていると声をかけられた。
「ルイ様、少しいいでしょうか?」
邸で働いているメイドの1人、その中でも最年少の少女で名前をメイと言う。ソウマたちと同じくらいの歳でまだメイド見習いと言う立場のようだ。
リエルの邸で働いているのは、初日に出会った執事のジョルドとこの子の他に3人のメイドが居るが、その3人のメイドの称号がおかしい。
ディリーナと言うメイド長は良いのだが、他の2人がメイドの前にファイターやらアサシンやらが付いている。物騒な……。
兎に角、メイの話を聞く事にしよう。
「どうした?」
「リエル様が探していましたので、お伝えしておきます」
冒険者デビューはまた今度か……。
メイに礼を言ってソウマにやるように頭を撫でた後、リエルを探しに向かう。
「優雅に茶ぁしばいてんじゃねぇよ……」
中庭で発見したリエルは何かの書類片手にでは有るが、寛いだ様子だ。
「よぉ、何か用か? これから仕事探しに行こうかと思ってたんだが……」
「あらぁ、それはごめんなさい。でもぉ、仕事なら良い話が有るわよぉ」
そう言って、手元の資料を俺に差し出してくる。まぁ、こっちの言葉だけじゃなく文字も翻訳されるから読めるが……。
何々、宮廷嘱託騎士採用試験の案内? 騎士の派遣社員、派遣騎士か?
「正式にこの国の騎士になる気は無いのよねぇ?」
「そうだな、色々旅したいからいつ他に行くか分からないしな。まぁ、ソウマが独り立ちするまではこの国に居る積りだけど……」
この宮廷嘱託騎士になれば正式な国の騎士じゃないが仕事を回してもらえるという事か。どんな仕事かにもよるが……。
「仮にでも騎士としての身分を持ってて貰いたいのよぉ、国の上層は基本冒険者は信用しないのよ……民も本当に大事な事は冒険者には任せないわぁ」
ハインライトよりも冒険者に厳しい国って事か……。
「でもそれは正式な騎士でない嘱託でも一緒なんじゃないか?」
「それはそうよぉ、でもぉ、冒険者よりはずっとまともな仕事がもらえるわぁ」
自称でいくらでもなれる冒険者と嘱託とは言え試験の有る方が信用は有るか。
「新米騎士の外部指導員なんかもぉ、嘱託扱いの人が多いわよぉ」
戦闘指南役とかそういう風に言われる奴らも嘱託扱いか。
「指導員なんて柄でもねぇ、マインにも適当に模擬戦してるだけだしな」
「あの年の子は成長が凄いからそれでも伸びるものよ、身近に目標になる壁が有るだけで随分違うわよぉ。
実際に、マインは日に日に成長してるものぉ。動きが真っ直ぐなのは変わらないけどねぇ。
でもぉ、日に日に攻撃が鋭く重くなって来てるわよぉ」
そうなのか? 全部スキル頼りで対処してるから気づかなかったが……。
あいつ、成長してるのか……人の話をまともに聴かずずっと正面から同じように攻めて来ていたが、あれは真っ向から打ち破るという意思の表れか?
なら、今後はその方向で訓練しよう。
「それはともかく、この嘱託試験ってどんな内容なんだ?」
資料には試験の日時と場所、後は最低年齢なんかの応募資格位しか書いてない。
「内容は秘密よぉ」
参ったな、試験を受けるとなったら、俺この世界の文字殆ど書けないぞ。日本語でも良いか?
「でも大丈夫よぉ、ルイなら何とかなるわぁ」
「俺殆ど文字書けないんだが?」
自分の名前や簡単な単語ぐらいなら幾つか書けるが……。
「マジ?」
「おう、真剣だ」
「え、でも読めてるじゃない」
読めるのはシステムで翻訳されてるからだ。その翻訳も何が書いてあるのか意味が分かるだけで細かいニュアンスが翻訳されているかって言うのには疑問が残る。
「やるだけやってみるか……」
最悪日本語で書いてやろう。
「ま、まぁ待ちなさい、リュイン!」
「はいっす!」
突如リエルの隣に現れたのは初日にチラッと出てきたメイドだ。いつも急に現れるが、隠密でも持っているんだろうか? 名前はリュイン。で、アサシンメイドなんて物騒な称号持ちだ。
「ルイに文字を教えてあげて」
「了解っす!」
これ筆記試験が有るって言っている様な物だよな……。
「嘱託試験まで時間が無いっすから今日からみっちり教えるっすよ!」
「リエル、こいつで大丈夫なのか?」
「大丈夫よぉ」
「自分の方が気楽じゃないっすか? メイド長と変わるっすか?」
それもそうだな、こいつぐらいのノリの方が気が楽だ。
「いや、いい、よろしく頼む」
あ、何か流れで文字を覚える事と嘱託試験受ける事が決まってる。まぁいいか。冒険者は何故か働き難いみたいだし、文字を書けるようになるのはこの世界でやって行くのなら無駄にはならないだろう。
「了解っす! ニュフフ、色々教えてあげるっすよぉ」
「文字だけで良い……」
唇に人差し指を添え丈の短いスカートをひらひらさせながら上目遣いで誘う様にふざける姿に呆れながらこの日はリュインから文字を教わって終わった。
今日分かった事。
マインが実は成長していた。
システム頼りで相手をしていたから気が付かなかったことに反省、これからはその成長に合わせておいてをすることに決めた。
この国で冒険者は実は働き難い。
理由は分からないが、他の国に比べても初期の信用度が低いらしい。俺はレベル的にはやばい魔物も倒せるだろうが、そんな事ここの連中は知らないし仕方がない。
宮廷嘱託騎士試験。
国から仕事が回って来る分冒険者よりは仕事が有るのか? 一応の国所属とは言え所詮は嘱託、気に入らなかったり怪しい仕事はやらなければいい。面倒な時は逃げる、場所を選ばなければどこでもやって行けるだろうからな。
試験には筆記試験が有る、文字はリュインに教わって要勉強だ。ソウマも魔創術師の試験のために頑張っているから師匠の俺もそれなりの立場じゃないと格好がつかないから頑張るとするか。




