一章7話 見習い魔創術師「元気で済ますんじゃねぇ」
リエルの自宅は貴族街には無く、周囲を農作地に囲まれた街外れとも言えるような場所に存在していた。
食材以外の買い物等では不便そうなのだが場所が場所だけに貴族街に建つ屋敷よりも庭が広く、邸も大きいように思える。
「大きい」
ソウマも目を丸くして驚いているから俺が大きいと感じたのも間違ってなさそうだ。
「侯爵って結構位が高い方の貴族か?」
「実家は関係ないわよぉ、もぐりの魔創術師がぼったくるの~、ルイは知っているでしょ? それ以上にもうからなかったら魔創術師はみんなそっちに流れちゃうわよぉ」
たしかに結構持って行かれたが、正規の魔創術師の収入なんて予想できねぇよ。
ん? そうなると、別に貴族じゃないクラッドも結構金持ってるって事になるのか? 羨ましい……。
ハインライトでの事も有るから金金言う積もりは無いが、無いと困るんだよな。
「とりあえずぅ、入って入って~」
促されるまま屋敷に足を踏み入れたが、門から建物の入り口までが長い……戦闘マップで確認したが、ゲームでのフリーバトルのマップ位に広い前庭小さめの中庭、前庭と同じ位の大きさの裏庭が有った。
土地使い過ぎだろうと言いたい。
玄関の扉を開けると使用人がずらりと並んで出迎えてくるなんてこともなく、リエルにとっては自宅なので当たり前だが遠慮無く進んでいく背中を追いかける。
城の様な華美な装飾や調度品が無いのでまだマシだが、ソウマは落ち着かないみたいだ。
クラッドは苦笑しているだけで何も言わないので頼りにならないと思っておくか……この歳の魔創術師って庶民とは価値観が違うんだろう。
「ソウマ、ここに住むことになるみたいだが、城程じゃない。慣れろ」
適当に励まして乱暴に頭を撫でる。これ癖になって来てるな……これからソウマを鍛えたりなんだりしないといけないからあまり子ども扱いするのは拙いか?
「おや? リエル様、お帰りなさいませ」
執事だな……。
リエルが一直線に向かった部屋には、グレーの髪をオールバックにして切れ長の瞳に柔和な笑みを浮かべた執事服の初老の男性が、整理していたらしい書類から顔を上げてリエルの帰りを迎えた。
戦闘マップ、ユニット確認……。
名前はジョルド、称号は執事。見たまんまだな。
「ただいまジョルド、変わりは無い?」
「ええ、床破壊3件、扉破壊5件、天井破壊1件、普段と変わりませんね。修繕の方は既に済んでいます」
破壊って何の話をしている……ん? 戦闘マップに新たな反応が……色は白だから敵ではないが、凄い勢いでこっちに向かって来る。
「せんせぇぇええええええ!」
危ねぇ、ドアの前に居たら怪我してたぞ。
俺らが入って来た扉が勢いよく斬り飛ばされ、大剣を携えた青い髪の少女が突入して来た。
ソウマと同じぐらいの年頃に見える、リエルたちと同じような作りで袖口などの縁取りが無い茶色のローブを身に纏い、リエルと同じぐらいの長さの紺色の髪を二つ結びにして後ろに流した青味がかったグレーの猫っぽい瞳の少女。手に持った大剣と腰に帯びた鞘がローブ姿に合っていないが物騒な事には変わらない。
こいつが泣く前に斬る4属性の弟子か。
「修繕の手配よろしく~」
「やれやれ、6件目ですね、承りました」
ソウマは目を丸くして驚いているが、リエルと執事は切り飛ばされた扉に動じもせず修繕の話をしている。
何その平常運転!?
「マイン……正座、風縛陣」
「え、あ、クラッド先生! 待って待って! わきゃぁぁあ!」
緑色の魔法陣が少女の足元に出現したかと思うと風の流れが生まれ、それが少女に纏わりついた。
道中で盗賊に使ってたのはこれか……。
「まったく、無暗に剣を振り回す癖を何とかしろと何度も何度も注意したはずだ」
「だって~」
「だってじゃない、それとリエルの平時の口調を真似るのは止めるんだ」
少女を拘束したまま正座させて説教が始まった……俺とソウマは置いてきぼりなんだが、誰か何とかしてくれ。
「リエル様、そちらのお2人は?」
さすが執事と言うか、それでも遅いから何と言うか。まぁ、話をこっちに振ってくれたから良いんだが。
「魔創術師見習いのソウマと、保護者ルイよ~。今日からうちで面倒見るからよろしくね~」
やっぱり保護者扱いなんだな。一度も活動していない冒険者よりはマシか?
「すぐに部屋を用意します。挨拶が遅れ申し訳ありません。私、当邸で執事長を務めるジョルドと申します。御用が有れば何なりとお申し付けください」
「ああ、俺は瑠衣、よろしく」
「ソウマです」
「はい、よろしくお願いします。それでは二人の部屋の準備を……」
俺とソウマが挨拶をすますとジョルドが俺たちの背後に語り掛ける。
其処にはいつの間に居たのか、腕と腿を露出した丈の短いメイド服を着た少女が立っていた。
「了解っす!」
が、シュバッと敬礼して一瞬で姿を消してしまった。
速いな……。無駄に天井に張り付いた後ドアから出て行った……後、下着見えてた。まだまだだな。
戦闘マップで捕捉は……チッ、マップ外に出たか。
「で、いきなり剣を振り回しながら入って来た頭おかしいのがお前らの弟子か?」
「ちょっと元気過ぎるだけよ~」
元気で済ますんじゃねぇよ、弟子ならちゃんと教育しろ。
「まぁ、お前らの弟子だから指導方針は好きにすりゃいいが……」
クラッドは今少女を説教していることからもちゃんと指導しているんだろうが、リエルの方は適当だから少女には堪えていないな。口調を真似たりと、少女がリエルの方に懐いているようなのでそれも一因なんだろう。クラッドが嘗められているだけって説も濃厚だ。
「クラッド~、ソウマたちの事紹介するからそれぐらいで~」
リエルにそう言われたクラッドはため息を一つ吐き少女の拘束を解く。
そんな簡単に開放するから嘗められるんだろうな。
「マイン~、この子はソウマ。今日からあなたの後輩になるからねぇ」
自身の後輩と聞いて目を輝かせる少女マインがソウマの前に移動して満面の笑みを浮かべる。
「この子はマインよ、仲良くしてあげてね~」
「よろしく!」
戸惑うソウマの手を取りぶんぶんと振り回すマイン。激しい握手だ……。
「そっちのお兄さんは?」
お? 俺の方か?
「瑠衣だ。一応ソウマの保護者だな」
「ソウマの戦闘訓練もするみたいだからマインも一緒にしてもらったらいいんじゃないかなぁ」
あれ? 俺、リエルたちにソウマを鍛えるって言ったか? 元々教えられそうなことは教える積りだったけど、言ってないよな? 更に、ついでみたいに面倒見る奴を増やされてるけど……。
「強いの? だったら勝負よ!」
お約束ってやつか? えっと、こいつの能力は?
マイン、見習い魔創術師でレベルは5、って、クソザコじゃねぇか。いや、このレベルであれだけ出来るんだから素質が有るのか? 魔法適性も4属性って話だしな。
ソウマのついでに鍛えても構わないが。
「一回ボコっとくか……」
マインの勝負を受けて庭に出る。リエルもクラッドも何も言わないからやっても良いんだろう。
「勝利条件は気絶か降参で良いな? 魔法の使用はルイは無しで頼む。後は、マイン、怪我なら魔法で治すからおもいっきり相手して貰え」
いい経験になるだろうって、それ俺が手加減すること前程だよな。
本気でやたら一瞬で終わるから経験も何もない。
「先手必勝!!」
いくら、特殊な攻撃じゃないと即死が無いとはいえ、こういう模擬戦的なものでも真剣を使うんだよなぁ……。俺は素手だが、早いとこメイン武器を調達しないとな……。
開始の合図も無いのに先制攻撃を仕掛けたマインのだが、悲しい事に別の事を考えながらでも避けられるんだよな。フラッシュタスクや命中予測を使うまでもない。レベル差によるものか経験の差なのか……まぁ、両方だろうな。俺はこれでも魔王を倒しているんだ。システムスキルに結構頼っていたと言ってもそれまでの経験は下手な騎士なんかじゃ比べ物にならないぐらい積んでいる。
その体格で大剣をめっちゃ振り回してるのには感心するが、子供がでかい武器振り回すとかゲームじゃ普通だ。
「力が強いだけじゃないのねぇ、4属性ってことや魔石懐放で分かってはいたけどぉ」
「もし力が強いだけなら僕たちにでもなんとかできる、彼の能力は僕やリエルが正面からぶつかってどうにかできるものじゃない。マインには何かの切っ掛けぐらいになれば良いんだけどな」
外野に観察されてるな……本気じゃない以上無意味だし、何も困らないが……。
暫くマインの攻撃を避け続けていると、当たらない事に焦れたのかどんどん攻撃が雑になって行き更に避け易くなる。改善できずに悪化するあたりは子供の未熟さと思っておくか?
マインが疲れきり、肩を上下させ荒く息をしながら構える剣の切先が下を向きっぱなしになった事を潮時と判断して、ダメージ予測でマインのライフを削り切るギリギリの威力に調整してぶん殴る。
「ほい、終了」
大剣を回収し、戦闘不能で気絶したマインを肩に抱えてリエルたちの所へ戻る。
「ルイさん! 凄いです!」
ソウマが目を輝かせて尊敬の眼差しを向けて来るが、マインと俺じゃレベル差が凄いあるから何の自慢にもならない、逆にそんな目で見られると恥ずかしいだけだ。
「まぁ、ソウマも鍛えてやるからな」
多分、俺自身が流派とか型とか何も無いままやってるから模擬戦とかで戦いに慣れさせるって位しかできないが……やらないよりはマシだろう。
「はい! お願いします師匠!」
記憶喪失のくせに師匠とかそう言う言葉は知ってるのか? いや、リエルがなんかニヤニヤしてる……あいつが吹き込んだな。まぁ、変な呼び方じゃねぇなら好きに呼べばいいが。




