第一章~始まり~⑥
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「良い人達だね」
これまで会話に参加してこなかったティノが、僕の背中の影から温和な表情を浮かべた顔をひょっこりと出して言った。
「え! 誰この子! アッズリって妹いなかったよね?」
「いや、妹じゃなくて友達だよ」
ティノは三人の前に姿を出して、「ティノ・フルールです、初めまして」と簡単な挨拶を済ませた。
ここで使者や神様がどうと言ってしまうと、後々説明が面倒になって、この三人の性格なら親身に一生懸命説明したとしても、最終的に絶対馬鹿にされて終わるだろうと思ったので詳しくは言わないでおくことにした。
「そういえば、何で君達はこの道を歩いていたんだい?」
ティノが言うと、三人がハッとした表情で顔を見合わせて、慌てた様子で「やば!」と声を上げた。
「私達今から市場の人に頼まれて瓦礫の後片付けしなきゃいけないんだった! アッズリも来る?」
「いや、遠慮しとくよ。まだ母さんの顔見てないんだ」
「ん、アッズリの母さん? それなら先に家の方に帰っていったよ。でも腕に包帯巻いてたな」
僕の母親は生きている。この事実がわかっただけで愁眉が開く様に心の底から安心した。だが、腕に包帯を巻いているとすると兵士達に何らかの武器で傷つけられたのだろう。
ひとまず、不意な朗報によって心の深い霧は大分晴れたが、残りの全てを霧払いするために自分の目で母親の無事を確認して、早急に手当てしてあげたいと思った。
「じゃあ、僕も行くよ。皆またね」
三人は再開した時と同じ様に口を揃えて「じゃーね!」と言った後、フリッツが先頭になって市場の方へ走っていった。
「じゃあ行こうか、僕の家に」
「アッズリのお母さんの傷、深くなきゃいいけど」
ティノは僕の歩幅と合わせるように早歩きしながら僕の隣を歩いた。僕はこの時すでに、彼女をただの幼い少女とは見ていなかった。フリッツやブラン、ムーンと同じ様に僕と対等な友達として意識していた。
市場通りを抜けて早十分くらい、なだらかな丘が連なっている麓に、白樺で出来た木造建築の青い三角屋根が見えた。
「あれじゃない? アッズリの家」
「うんそうだよ、外から見てもそんなに壊れた様子はないと思うけど」
奇跡的にも、この丘周辺は国王軍の被害には遭わなかったらしい。恐らく、ツアレラ地区の中心部とは反対側の町外れ付近に位置しているのと、丘の麓に小さい家がぼつんとあるだけの人目につかなそうな所ではあるので、そもそも目に留まらなかったのだろう。
「着いたね、私も入っていいのかな」
丁度彼女と同じくらいの高さにある銀色のドアノブを見つめたティノは、何故か改まった様な口調で言った。
「どうぞ、くつろいでいって」
僕が言うと、ティノが小さい声で「おじゃましまーす」と慎重に家の中に入っていった。僕も続いて入ると、部屋の中は僕が家を出る時と全く変わっておらず、やはり何もなかったんだなと安心した。
「おかえりアッズリ、その子はどうしたの?」
声の方に顔を向けると、木の椅子に腰を掛けて座っている母が、右腕につけられた少し深そうな斬り傷から溢れる赤い血を止血していた。
「母さん! 良かった生きててくれて。色々と説明したいことがあるからちょっと動かないで、今手当てするよ」
椅子に座る母は「あら、ありがとうね」と言って、純粋無垢な子供の様に、僕にされるがままにして手当てを受けた。
母を手当てしている間、昨日の浜辺で起きた事、僕が町で国王軍の兵士達を殺してしまった事、僕がフォルツァという力に選ばれて成し遂げるべき使命がある事等々、全て包み隠さず正直に話した。
母は僕のことを馬鹿にしたり途中で倦怠したりせずに、相槌を打ちながら最後まで黙って聞いてくれた。
「という事なんだ。母さん、僕、戦うよ。大切な人の為に」
「行くな、とは言わないわ。ただ、条件があるの。それはねアッズリ、あなたが無事でこの家に帰ってくること。勿論ティノちゃんもね。お願いだから父さんみたいにならないで」
母は僕の手をギュッと握りしめ、目に涙を浮かべながら情の籠った声で言った。
「うん、僕は死なないよ。明日の日の出と共に家を出るから、ティノもそれでいいね?」
「私はオッケーだよ! あ、その前にちょっと今思い出したことがあって、置いてきた忘れ物を取りに行ってくるね」
ティノは「夜ご飯までには戻るから!」と言って早足で家を飛び出して行ってしまった。
ドアの勢い良く閉まる音と共に、部屋の中に森閑とした空白の時間が流れる。
「私は夜ご飯の準備をするから、アッズリは身支度でも整えてきなさい」
「でも、母さん右腕痛むんじゃ……」
「このくらい大丈夫よ、ほらほら行ってきなさい」
母は両掌を僕に向けながら、肘を伸ばし折りして早く行けというジェスチャーを見せた。僕はその空気圧に押され、茶の間から追い出される様にして自分の部屋へと向かった。階段を上ってすぐ右にある部屋、それが僕の部屋だ。部屋の中は、タンスと机と細かい綿の糸で編まれた少し広めのハンモックがあるだけの至って質素な造りとなっている。
僕は「ガチャリ」と部屋のドアを開け、軽快な足取りでハンモックに飛び込んだ。四角い窓から見える太陽は山の頂上辺りまで降りてきており、大方夕方頃を指していた。
「あの時大分寝ちゃったんだな、色々あったからな」
僕はハンモックに揺れながら、まだ資料が分散している頭の整理を始めた。
フォルツァと呼ばれる蒼い力は、どうやら僕が何らかの感情を強く誓った時に発動するらしい。そして、発動している最中は蒼い眼、つまり蒼眼状態になり、気候などの条件で僕の視界が悪い状態だとしても周囲の気配から人を探知できる。後はティノが言っていた事だが、蒼炎は僕が想像した抽象的なものへと姿を変えることができる。
この辺の知識はこの先戦っていく中での重要な基礎知識と言えるだろう。現在僕が使用できたのは大剣と壁の二種類だ。実際問題攻守の基本は賄えてはいるが、この程度のレパートリーでは戦い抜くことが厳しく、すぐに力尽きるのが安易に予想できる。
「どうしたものかな、とりあえず身支度でも整えるか」
僕は整理するはずだった記憶の本棚を自業自得で乱雑にしてしまった事に自責しながら、ハンモックから降りて身支度を整え始めた。
僕は整理するはずだった記憶の本棚を自業自得で乱雑にしてしまった事に自責しながら、ハンモックから降りて身支度を整え始めた。
非常食や水筒を最後に詰めた辺りで、タンスの奥に何か光るものが目に入った。手に取って見ると、一つの小さな藍玉色の石が細い糸で丁寧に繋がれたネックレスの様な物が艶を光らせていた。
「これは、父さんがくれたものだ」
僕が小さいときに誕生日プレゼントで貰った綺麗な石。その頃は父に貰った事が堪らなく嬉しくて跳んで喜んでいたのを今でも覚えている。今でもこの石を触っていると、まだ父が近くにいる様な懐かしい気持ちになって懐が暖かく感じる。
僕はこの藍玉色の石のネックレスもリュックに詰めて持っていくことにした。
「よし、このくらいで大丈夫だな」
僕が身支度を終えてハンモックへと戻ろうとした時、食欲をそそる香ばしい匂いが二階まで侵入して来ると、下の階で僕の名前を呼ぶ少女の声が聞こえた。
「帰ってきたよー! アッズリー!」
どうやらティノが帰省したらしい。僕の腹の虫も「ぐう」と鳴り、そろそろ夜ご飯も完成する頃だろうと思ったので、荷物を詰めたリュックを部屋の隅に置いて一階へと向かった。
僕は整理するはずだった記憶の本棚を自業自得で乱雑にしてしまった事に自責しながら、ハンモックから降りて身支度を整え始めた。
非常食や水筒を最後に詰めた辺りで、タンスの奥に何か光るものが目に入った。手に取って見ると、一つの小さな藍玉色の石が細い糸で丁寧に繋がれたネックレスの様な物が艶を光らせていた。
「これは、父さんがくれたものだ」
僕が小さいときに誕生日プレゼントで貰った綺麗な石。その頃は父に貰った事が堪らなく嬉しくて跳んで喜んでいたのを今でも覚えている。今でもこの石を触っていると、まだ父が近くにいる様な懐かしい気持ちになって懐が暖かく感じる。
僕はこの藍玉色の石のネックレスもリュックに詰めて持っていくことにした。
「よし、このくらいで大丈夫だな」
僕が身支度を終えてハンモックへと戻ろうとした時、食欲をそそる香ばしい匂いが二階まで侵入して来ると、下の階で僕の名前を呼ぶ少女の声が聞こえた。
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