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第42話 強い! 絶対に強い!

 春の朝。

 森の中の孤児院――魔王城にて、ユーシアはシルウェスたちとともに作戦会議を開いていた。


 十人以上座れる食堂のテーブルに座って地図を見ている。

 エルフのシルウェスと獣人ゲバルトのほかに、竜少女リスティアがいた。


 ユーシアは言う。

「お前たちは、もう一度魔王姫軍の残存兵力を考え直すのだ」



 シルウェスは眉間に美しいしわを寄せる。

「とは言われましても……第1軍の小隊長以上は魔物か人形貴族。人よりかは遥かに強いですが、ユーシアさまに勝てる者などおりません」

 人形貴族とは魔王姫が侵攻してきた早い段階から忠誠を誓って人形となった者たちのこと。


 リスティアが、ぴょこっと元気に手を上げる。

「はーい、第3軍は強くないのですか?」



「う~ん。私も詳しくは知らないのですが、とても危険な人形たちであるという話は聞いたことがあります」

 シルウェスの言葉にゲバルトが続く。

「俺も見たことはない。なんでも魔獣や幻獣を人形化した、恐るべき軍団だとは聞いたが」


「つよそう」

 リスティアが子供みたいな感想を言った。


 ゲバルトが頷く。

「ああ、強い。魔王姫の言うこともなかなか聞かないらしい。だが、それでも結局は魔獣であり、人形である。ユーシアさまに勝てるとは思えん」


「ですよね~。じゃあ、あと何があるんだろ?」



 ユーシアが眉をひそめる。

「なぜ強い者がわざわざ人形になる必要がある?」


 ゲバルトに代わってシルウェスが答えた。

「人形になる者の潜在能力が高ければ、人形になったときに強い材質を動かせるそうです。魔獣ならミスリルやオリハルコンの体に火水風土のギミックを仕込んだ特別製の義体でしょう」


「それで戦った人形が木材が多かったのか。石や鋼の体もいたが少なかったな」


「人間は、人形になっても人間の体の材質とよく似たものを求めますので。木材にシルクを張った筐体を好んでいたようです」



「なるほど。どうりで弱いわけだ」


「ユーシアさまが強すぎるだけかと……」

 シルウェスが苦笑して言った。

 うんうんとリスティアが黒髪を揺らして頷く。

「本当なら壊れてもすぐに修理されるし、用途に合わせて体のパーツを入れ替えられるし、とっても強くて面倒な相手なのに。ユーシアさまの前ではすべて無意味になっちゃう」


 ゲバルトも深く頷いて同意した。

「第3軍を投入するにしても、ユーシアさまに直接ぶつけたりはしないはず。おそらく、アイヒマンが占領していた獣人の国を再占領させるのではないかと」



 開けた窓から爽やかな春風が入ってきた。白いカーテンを膨らませるように揺らす。

 大きなテーブルがすっぽり入る大きな食堂に心地よく広がる。


 ふむ、とユーシアは頷くと、背もたれに体を預けた。古い椅子がギイッと鳴る。

「シルウェス、ゲバルト。魔王姫軍を良く知るお前たちならどう動く? 考えを述べよ」



「はっ! 私は人間エルフ全軍で大河沿いを北上したあと、山脈を越えて針葉樹林帯へ攻め入るのが常套手段ではないかと考えます」


「ふむ。ゲバルトは?」

「俺は逆に大河を船で南下、海岸沿いを船で回り込むのがよいかと。海にも魔物はいますが、あまり強くはない上に、魔王姫軍には属していないので問題なくあしらえる」


「なるほど」



 シルウェスが美しい眉をひそめる。

「ゲバルト、それでは一ヶ月以上の行軍になる。魔王姫軍に軍備を整える時間を与えてしまう。短期間で連勝している今、浮き足立った敵を徹底的に叩く、迅速な進軍が必要なのだ」


「全軍での峠越えは賛成できない。峠道を越えるときは行軍が細長くなってしまう。飛行能力のある魔物や人形に襲われたら大きな被害が出る」


「第2軍、第4軍が消えた今、支配と防衛で手一杯のはずだ。魔法に長けたエルフも見張りに付く。第3軍による小部隊の散発的な嫌がらせ程度の戦闘で終わるだろう」


「魂のない人形は命を惜しまず命令を実行するのを忘れたか? 全軍が峠道に入ったところで自爆攻撃を敢行されたら甚大な被害が出るぞ」



 二人の意見は平行線を辿る。

 どちらの作戦も一理あるため、二人の言い合いは続いた。

 しだいに感情を高ぶらせていく。


「そんなにゲバルトは魔王姫軍に迎撃態勢を取らせたいのか! 1ヶ月以上の長旅は兵も疲れてしまう!」

「今の士気と錬度ならまともに戦って勝てる。決戦まで数を減らさずに全軍を維持することのほうが大切だ。それともエルフは万全の体勢を整えた相手だと怖いのか?」



 シルウェスはガタッと椅子を蹴って立ち上がる。赤髪が燃えるように揺れた。

「なに! 言わせておけば! この毛むくじゃらの犬め!」

「なんだと! この若くて美しいだけの才女が!」


 シルウェスは何か言い返そうとして、頬を染めながら首を捻った。

「……それは、罵り言葉になるのか?」

「すまん、言い返したかったが欠点が見つからなかった」

 ふっと窓の外に視線をそらすゲバルト。どこまでも実直な男だった。



 ユーシアは口の端を釣り上げて笑った。硬くなっていた食堂の空気が吹き飛ぶ。

「ふっはっは! なかなか良いぞ、お前たち。昔おこなっていた魔王御前会議のようだ」

「はっ」「ユーシアさま」


「ただ二人とも功を焦りすぎておるな。その結果、肝心な戦力を有効活用できておらぬ」

「と、おっしゃいますと?」



 ギラリと白い歯を光らせて笑う。

「我輩だ。我輩は強い! 絶対に強い! 百万の軍勢すら鎧袖一触! そのことが作戦に反映されておらん」


「なるほど」

「そうでした、申し訳ありません、ユーシアさま」

 ゲバルトとシルウェスが頭を下げた。



「ともあれ、二人の意見は貴重だ。魔王姫軍も同じように考えるはずだからな。我輩はその裏をかけばよい」


「どうされるのです?」


「今、動員できる王国軍は1万だったな? 北上する部隊に6000、船に乗って迂回する部隊に3000、王都防衛に1000。このように人員を分けて針葉樹林帯に向かわせる」


「お待ちください、第1軍は10万、第3軍は数が少なくても一騎当千の魔獣がいるはずです。ユーシアさまが同行しない軍は撃破されてしまう可能性が高いです」


「逃げればよい。なぜなら王国軍はすべておとりだ」

「「「え!?」」」

 食堂にいる全員が目を丸くする。



 ユーシアは不敵に笑って話を続ける。

「そもそも魔王姫軍第1軍も第3軍も我輩にとってはどうでも良い! 我輩の目標は魔王姫エメルディアの首のみ! 部隊をわけて戦力を減らせばカモのように見える。魔王姫城もおびき出せるだろう!」


「ううむ……しかし、海を回る3000人が危険になりそうですな」

 ゲバルトが腕組みをして唸った。



「おそらく大丈夫であろう。海に支配が及んでいないのは、影響力を与えられないからだと考えられる。魔王姫城の仕組みは分からんが、地上にしか出現できないのではないか?」


「な、なるほど……! 確かに、目撃されたのは平野ばかりで、海だけでなく、森や湖にも出現はしていません!」


「つまり浮遊させている力は風ではなく、重力――土魔法を使っているのだろう。そのため、他の属性の干渉が大きい場所では城を飛ばせられない、と思われる。憶測だがな」


「さすがユーシアさま」「そこまで見抜かれるとは」

 シルウェスとゲバルトが呆れたように首を振った。



 ユーシアは椅子を揺らして立ち上がる。ガタッと大きな音が食堂に響いた。

「ではシルウェスよ。王国軍各部隊に分ける手筈を整えよ。ゲバルトは別の作戦をおこなってもらう。相手が恐れをなして動かなかった時のために同時進行させる!」


「「ははっ!」」

 二人は頭を下げて命令を聞いた。


 一方、リスティアは口を曲げていた。

「あたしはどうすれば?」

「ん? リスティアは足であり、盾だ。常に我輩とともにいろ」

「はーい」



 ユーシアは屋敷の中、庭へと向かいながらゲバルトへ尋ねる。

「獣人の国はどうなっている?」


「アイヒマン率いる第2軍が支配していたが、今は消えた。獣人は部族連合によって政治を執り行っている。木材、石材、鉄鉱石を魔王姫軍に納めているがどうなっているかは……」


「ふむ。好都合だな」

 ユーシアはにやりと笑った。

 ――エメルディアが動くなら叩く。動かないのなら奪うまでだ。


「ふはははははっ!」

 ユーシアは心の底から楽しそうな高笑いを屋敷中に響かせた。



 こうしてユーシアは打倒エメルディアに向けて動き出した。

 世界征服も視野に入れながら。

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