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決勝戦 - 急 -

「さぁて、庵ちゃんがやられてしまった以上、身体強化が切れる前に決着つけないとまずいね。」


 両のメイスをぶんぶんと回しながら、彼女は呟く。その所作に併せて周囲が穴だらけになっていく。実際、そのセリフほど焦っているようには見て取れず、むしろマイペースさを洗練しより深く集中しているように見える。


「…お姉さん、まさか時間稼ぎでもしようと思ってる?そんな訳ないよねぇ?」


 挑発には乗らない。バフの効果が切れる頃合いを待てば、おそらく勝機は私に分がある。今は、彼女をこの場から逃さないことが先決だ。あの速度で逃げられたら、もう一度捕捉するのは骨が折れる。ましてや、もう片方サイドと合流でもされたら面倒だ。既に策も打ってある。彼女の周囲の水分を氷結させる準備は整った。あとは、あの衝撃波を封じるべく、なんとかして和太鼓からメイスを奪う。


「ふぅん。逃げても無駄っぽいね。じゃ、これももういっか。」


 存外にも和太鼓は自らメイスを棄てた。…狙いはなんだ。


「こうなったら力と力の勝負だね!素手でいくよ!」


 構えを取って一気に突進してくる。懐に潜り込まれ、いきなりアッパーが繰り出される。…危なっ!

 かろうじて上体を退いて躱したところに左フックが飛んでくる。しかし、まだ距離がある。腕を掴んで防いでやる!


「お姉さん!何か忘れてない?これは魔法大会だよ!」


 軌道を止めたフックの拳から衝撃波が放たれる。


 ―…これはやばい!!!


 何とか避けようと重心を傾けた、その時。地面に足を取られ滑った。先程和太鼓が地面に空けた穴に、私が撒いた水が溜まっていたのだ。…結果的に、それで助かった。スリップしなければやられていた。


「運がいいね、おねぇーさん。」

「自分でもそう思うよ。」


 態勢を整えつつ、私もその手の氷剣を解除する。長物の間合いでは不利だ。


「おぉー!お姉さんも素手?いいねぇ!次が最後の一撃になりそうだね…!準備はいい?」

「ああ!来い!和太鼓!」

「怒涛の早打ちを見せちゃうよぉ?ドンドンカッカ!」


 さすが、和太鼓。ノリが良い。だけど、どんなに乗った演奏も必ず終止符がうたれる。もちろん、それを撃つのは私だけど!


 ―…和太鼓が、重心を落とし突撃の態勢に入る。私も迎撃のために拳を構え、その諸手を強く握る。


「いくぞおおぉぉぉぉ!!!」


 拳を振りかざしながら、和太鼓はこちらへ突進する。私もその拳に合わせるように自らの拳を―…解き広げた。そして、激流の魔法で和太鼓を吹っ飛ばした。


「力と力の勝負…だったよね?」


 大量の水に溺れかけたらしく倒れてぴくぴくしている和太鼓に問いかける。卑怯とは思わない。だって、これは魔法大会だから。それに、私はこんなところで負けるわけにはいかないから。


 結果として、この戦いで生き残ったのは私だけだった。リスティとパイセンのほうはどうだろう…。ユーリ・アルグランデは相手にどう戦っているのだろう。急ぎ合流して、ユーリを倒さなければ。確かめたいことも、まだ残っている。


「決着がついたかい?フーリ。」

「ユーリ…。あなたがいるってことは…。」

「倒したよ、ふたりとも。なかなか強かった。…さあ、フーリ。最終決戦と行こうか。俺と君、どちらが強いか。これで決着をつけよう。」


 双剣のプリンスは、その両の手の剣に光を纏わせながら私の前に立ち塞がった。




 ユーリの呼吸に呼応するように、深く息をする。相手の切先から目を逸らさないよう、細心の注意を払う。氷剣を握る手に汗が滲む。ダメだ、力むな。互いに睨み合いが続くこの状況。冷静さを欠いた方が不利になる。それに、相手はあの勇者かもしれない男だ。必ず情報を引き出して、見極めてやる。もし、かの勇者だったとしたら、そのときは…。


「やめようぜ、フーリ。肩の力抜きな。」


 ふいに構えを解きユーリは私に話しかける。まるで一昨日のデートのように。


「何の真似?」

「まーた、余計なこと考えてるだろ。集中しろよ。」

「ハンデのつもり?」

「いや?負けたときに言い訳にしたくないだろ?」


 いつかのやり取りみたく思い出される。でも、あのときのユーリとはセリフが少し違う。今の言葉は、まるで自分にも言い聞かせたようだった。…力が入っているのはあいつも同じってことか。だったら…。


「これで切り崩す。」


 水球を明後日の方向に放つ。回転を掛け放ったそれは、ユーリの顔面目掛けて変則的にカーブを描く。ユーリは体勢を崩すが、水球は空を切る。


「やってくれるじゃねえの!」


 今ので水球への意識づけはできたはず。ここで直線的に氷の弾丸を放てば、その緩急の差で必ず隙はできる。…くらえっ!


「そう来ると思ったよ!」


 予測していたかのようにユーリはその弾丸の軌道から身体をスライドさせ、軌道に逆らわないように体重移動させながら弾丸を剣で弾き返した。回転をかけられ打ち返された弾丸は変則的に曲がりながら、私を狙う。


「…バックカットじゃん。」

「避けるか!さすが!」


 その声が聞こえたときには既に、ユーリは接近戦を仕掛けてきていた。突然目の前に現れたユーリは、抜かりなく光の魔法で目くらましを狙いながら、もう片方の剣で刺突してくる。光は氷で散光させ、剣撃には水流を当て、木刀が水を吸い込み脆くなったところを氷剣で叩き折る。相手が木刀で無ければ今の一撃は防げなかった。


「…気に入ってたのにな。仕方ないか。」


 折れた木剣を惜しみなく棄てる。そして、両の手に光で剣を生成する。


「こいつは使いたくなかったんだけどな。フーリ、気を抜くなよ。」


 刹那、とめどない連撃が私を襲った。防戦一方。捌くだけで限界だ。…いや、私だってここまで戦ってきたんだ。少しは強くなったはずなんだ。


「うおぉぉぉ!!!」


 雄叫びをあげながら、相手の攻撃を捌く一瞬の隙に迎撃を繰り出す。凄まじい打ち合いが繰り広げられる。一瞬でも気を抜いたほうがやられる。これは、そういう勝負だ。

 …それから、どれくらいの時間が経っただろう。いつ、この戦いは終わるのだろう。終わってほしくないような気もするけど。だけど、終わらせないといけない。あのときのように引き分けで終わることは、ふたりとも望んでいない。ユーリの剣を通じて、ユーリも同じことを感じていると伝わってくる。このまま互いに競い合っているのが、互いの幸せなのかもしれない。…だけど。いや、だからこそ、私はこの男を倒さなければいけない。倒して、これまでの私を肯定しないといけないんだ。


「すげえよフーリ!俺とここまで戦えたのはお前が初めてだ!」

「その相手にこれから負けるんだよ。良かったね!」

「そう簡単にやられるかよ!これでも元勇者だからな!!!」


 ―…今、何と言った。


 ―…勇者、確かにそう…。心のざわめきがこれまでの比じゃないほどに…


 ―…しまった!集中が!




「楽しかったよ!フーリ!!!」




 ―…私が最後に覚えたのは、ユーリの光剣に斬られ噴き出す私の血と、崩れゆく身体の落ちていく感覚。そして、遠くなっていく意識。それらがまるでスローモーションのように流れ、最後の最後に…ユーリがレーザーに撃ち抜かれ倒れていく姿が見えた。


「…油断、しちゃダメですよー。」


 真っ暗な視界の、消えゆく意識の終わりに。イルミナパイセンのどこか不穏な声色を脳は捉えた。




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