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馬車の中

馬車の扉が閉まった瞬間、レオンは迷いなくミレイアを抱き寄せた。

「やっと2人きりになれた」

低く落ちた声が、耳の奥を熱くする。


「ふふ……そうだね」

ミレイアは素直にレオンの胸に体を預け、その温もりを味わうように頬を押し付けた。


「で? 港町で何をしてた?」

レオンはミレイアを膝に乗せたまま、今日あったことを問い詰める。


「ティナと一緒に転移したあと、すぐにルイスをみつけたの。それから――海に毒が混ざってることがわかった。テドロっていう毒で……魚が大量に死んでいて、すごくひどい状況だったの。でも、ちゃんと解毒できたんだよ。また毒が流されることがないように結界も張っておいたわ」

ミレイアは、解決できた安堵で少し微笑む。


「そんなことがあったのか」

レオンはミレイアをぎゅっと抱きしめる。


「うん。港の人たち、すごく喜んでくれたんだよ。また漁に出られるって。魚を食べて倒れちゃった人たちもいたけど、全員治して、元気になってくれた」


「君たちの本来の目的は達成したのか?」


「ルイスのことね。漁師のお父様が漁に出られなかったから、生活が苦しくて、学園をやめて働くつもりでいたみたい。でも、漁に出られるようになったし、ティナが色々手を回してくれたみたいで、辞めなくて良くなったの!」


「そっか……、それは良かったな」

レオンは、抱きしめかえして甘えてくるミレイアをじっと見つめる。


「しかもルイスは11人兄弟の1番上で、来年には、12人目が産まれるんだって!びっくりよね」


「それは……、ルイスの父母が頑張ったんだな。俺もミレイアとの子供が欲しいな」


「うーん? ちょっと気が早いんじゃない?」


「……まあ、無事で帰ってこられて良かったよ。だけど、置いていかれた時は、かなりショックだった。あの時、俺も一緒に行くって言ったよな?」

レオンの眉がわずかに寄る。


「ごめん。だって、一緒に転移できるのは1人だけだったし……」


「……」

黙り込んだレオンが、ふっと口角を上げた。

「じゃあ、あの時の“お仕置き”の続き、してもいいか?」


「えっ……で、でも、そんなことしたら……ノエルやクラリスに怒られるよ?」


「バレなきゃ問題ないだろ?」

囁きと同時に、レオンの手がミレイアの顎を持ち上げ、熱く深い口づけが降ってくる。


それは一度で終わらず、唇が離れてもまた重なり、吐息と心臓の音が狭い馬車に満ちていく。

ミレイアの制服のボタンが、一つ、また一つと外され、柔らかな胸がさらけ出され、レオンが優しくなぞる。

「……っ、ん……」

触れられるたびに、小さな声がもれる。


レオンも上着を脱ぎ捨て、シャツのボタンを乱暴に外す。熱を帯びた肌同士が重なった。

「俺を置いて行った罰だ……我慢しろなんて言うなよ」

耳元で落とされた声に、ミレイアの背筋が甘く震える。


「ミレイア、君のことが愛しくてしょうがない」


「わたしも……、レオンが好き……」


時間の感覚がなくなるくらい、どれだけ触れ合っても足りない。どれだけ熱を伝え合っても満足できない。

いつの間にか、レオンはズボンのベルトに手をかけ、下着姿になっていた。

ミレイアの制服もすっかり乱れ、上半身も太ももも、あらわになっている。


「レオン……こんなところで……、やっぱりだめ……!」

ミレイアの声は、2人の吐息でかき消される。


レオンの指先がミレイアの太ももを伝う。そして、滑るように敏感な場所に触れた瞬間――


胸元のペンダントが強く光り出した。

直後、空間がねじれるように揺らぎ、長身の人影が馬車の中に現れた。ミレイアのペンダントに重ね付けした危険信号を察知したアゼルだった。


「……おい!? 何をして――」

目に飛び込んできたのは、裸同然の姿でレオンに抱かれ、頬を紅潮させたミレイア。


「アゼル!? や、やだっ!」

羞恥に押し潰されそうになったミレイアは、反射的に転移魔法を発動させ、学園の自室へと姿を消した。


残された馬車の中、レオンとアゼルの視線がぶつかる。


「……邪魔をするなよ」


レオンが睨むと、アゼルは冷たい声で吐き捨てる。

「殿下には理性ってもんがないようだな」


「あなたにだけは言われなくない。隙をみてはミレイアを抱きしめたりキスをしたりするくせに」


「あれは治療だよ。彼女の魔力を抑えられるのは僕だけだからね」


レオンは鼻で笑いながら、鋭く言い返す。

「は?治療って言えばなんでも言い訳になると思ってるのか? まあ、俺たちは両思いだから、あなたができないこともできるが。羨ましいのか?」


アゼルは静かに続けた。

「僕は少なくとも、婚約もしていない相手とは最後の一線を超えないだけの理性は持っている。殿下は、僕が転移してこなかったらどうするつもりだった? まさかこんな場所で、彼女の純潔を奪う気だったんじゃないだろうな?」


レオンは深く息を吐き、目を細めた。

「ああ、そうだな……。もう限界だった」


その言葉と同時に、アゼルがレオンに殴りかかる。


「ミレイアを傷つけることは許さない。婚約も認められてないくせに!ミレイアの事情も知らないくせに!」


そう言い捨て、アゼルは転移魔法で姿を消した。


馬車の中に、怒りと静寂だけが残る。


「ミレイアの事情って……どういう意味だよ……」

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