初代聖女の日記
ミレイアは少し迷い……紅茶を一口飲んでから、日記を声に出して読み始めた。
「レガリア暦323年10月1日
ーーわたし……聖女ミレナは、この記録を自分自身のために残すことにした……」
ーー
彼と初めて出会ったのは、3年前。王都で起きた大地震の被災現場だった。
王太子でありながら、汚れるのも厭わずに泥水に入って人助けをする姿に、親とはぐれた子供を抱えて必死で励ます姿に、色気のある黒髪や澄んだ琥珀色の瞳に……わたしは目を奪われた。
レオナル……。
彼が近づいてきてくれた時、たわいのない話で喜んでくれた時、薄紫の光をまとうわたしを、美しいと言ってくれた時……わたしは恋に落ちてしまった。
レオナルが頻繁に神殿に会いに来てくれるようになって、石工のモリトに言い寄られているのを嫉妬してくれるようになって、
"……俺は、君が好きだ。ずっと思ってた。もっと君のことを知りたいし、隣にいたい。誰かに譲る気もない。"
と想いを伝えてくれて……わたしは空に舞い上がるほど嬉しかったの。
だけど結ばれることはない。
彼とは身分が違いすぎる。わたしは、素性もわからない捨て子なんだから。
今では、聖女と呼ばれて治癒能力を求める多くの人々が近づいてくるようになったけど、所詮、道具のように酷使されているに過ぎない。
薄紫の光を気味が悪いと噂する人がいるのも知ってる。
わたしなんて、未来の国王になる彼の隣に並べるわけがない。
いつか生まれ変わったら……一緒になりたい。
ーー
レガリア暦324年12月10日
レオナルが求婚をしてくれた。
身分差を理由に離れようとしても、彼は何度でも近づいてくる。
手を握られた時、抱きしめられた時、口付けを交わした時……心が震えたの。
レオナルが好き……
ーー
レガリア暦325年2月20日
レオナルと公爵令嬢の婚約が正式に決まった。
彼はわたしとの婚姻を国王陛下に認めてもらおうと頑張ってくれていたけど、やっぱり許されなかった。
今まで人目を盗んで逢瀬を重ねていたけれど、これでおしまい……
ーー
レガリア暦325年6月5日
レオナルが夜中にこっそり王宮を抜け出して会いに来てくれた。
2人で遠くに駆け落ちしようと言ってくれたけど……できるわけがないでしょう?
絶望的な顔をする彼にわたしは最後の口付けをした。
"いつか互いに生まれ変わったら、一緒になりましょう"って伝えながら……
ーー
レガリア暦325年11月22日
わたしは、石工のモリトと結婚することになった。ずっと誠実に想いを伝え続けてくれていた彼。わたしがレオナルへの想いを残しているのを知りながらも、それでもいいと言ってくれた。
彼と、あたたかな家庭をつくるの。
レオナルも幸せになってね……
ーー
レガリア暦327年1月5日
わたしとモリトの娘が生まれた。すごく可愛い。
薄紫に光っていなかったから、ほっとした。
神官の魔力検査では、わたしと同じ光魔法を宿していることがわかった。
この子も聖女と呼ばれる日が来るのね。
どうか、酷使されて体を弱らせることがありませんように。
ーー
レガリア暦337年1月2日
わたしはもう長くは生きられない。魔力を使いすぎたツケが回ってきたの。
娘はもうすぐ10歳の誕生日を迎える。
成人するまで一緒にいてやりたかったけど、無理そうね。
この日記帳に祝福の魔法をかけて彼女に託そう。
わたし自身しか解読できない日記。いつか、わたしが生まれ変わることがあれば、手に取ることができるのかな……
ーー
レガリア暦337年1月15日
レオナルが亡くなった。彼の乗った馬車が崖から転がり落ちた。
即位したばかりだった国王陛下の突然の訃報に、国中が衝撃を受けている。
彼には2人の幼い息子がいたが、新たな国王になるのは遠縁のカラハル公爵らしい。
レオナル……。あなたに最大限の祝福を送るわ。次の人生では、どうか幸運に恵まれますように……。
わたしももうすぐ、そっちに行くね……




