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聖女の言い伝え

夕日が沈みかけたころ。

ミレイアは西の森にある曾祖父母の家に転移をした。

暖かい部屋に、ほっと息をつく。


既にアゼルも着いていて、マーサに最近の様子を聞いているところだった。


「おまたせー!」

ミレイアがその場の全員に笑顔を振りまく。


「いらっしゃい、ミレイア。待っていたよ」

穏やかに迎え入れるユキア。


「ミレイア!また会えて大じいじは感激じゃ」

涙を浮かべながら身を乗り出すイリウス。


「ようこそミレイアさん!早速会いに来てくれてありがとう」

すっかり元気になったマーサは、手を合わせて微笑んでいる。


「……」

アゼルは、ミレイアの顔をしばらく見つめた後、黙って隣に立った。


「大おばあさま!今朝話してたこと、ちゃんと教えてください」


せっかちなミレイアを、ユキアが柔らかくなだめる。

「うん。まずは座っておくれ。お茶を飲みながら話そうか」


ミレイア作の魔導ポットから、ゆっくりと紅茶が注がれ、マーサが作ったという甘い香りの焼き菓子と一緒に大きなテーブルに並べられた。

イリウス、ユキア、マーサが並んで腰掛け、向かい側にミレイアとアゼルが座る。


「さて、何から話そうかね」


「聖女のこと……大おばあさまが知ってること全部教えてください」


ユキアが息を整える。

「うん。聖女に関する文献はほとんど残されていないからね。これは、母から伝え聞いた話だよ。

初めて聖女と呼ばれた人物が生まれたのは、およそ300年前。生まれてすぐに神殿の前に捨てられていたのを、当時の見習い神官が発見した…… その赤子は普通とは違う特徴を持っていた」


「特徴って……?」


「生まれた時から、薄紫色の光を常に体から放っていたんだ……」


ーー


神殿で秘匿されながら育てられた少女が、聖女と呼ばれ始めたのは、10歳の時。


町を襲った大嵐で多くの家が崩壊し、怪我を負った住民が石造りの神殿に避難してきた。その時、礼拝堂にいた光り輝く少女が、人々の上に治癒の光を降らせた。怪我の酷かった者も、元々の持病を持っていた者も、一瞬で治してしまった。


聖女の噂は瞬く間に広まり、病気や怪我を治療してもらうために国内外から多くの人々が神殿に訪れるようになった。訪れたのは人間だけではなく、聖獣や精霊もいたという……。


自ら災害地に駆けつけることもあった。まるで神に導かれているように、多くの人々の命を次々に救ったーー


「……その力こそ、初代聖女の特殊能力。救うべき人が感覚的にわかる力。神の意思を視る力だよ。ミレイアも心当たりがあるんじゃないかい?」


ミレイアは、思わず隣りに座るアゼルの顔を見る。アゼルは、優しい視線を向けて頷いた。


「はい……。わたしは、災害や事件の現場に駆けつけた時、いつも不思議と……どこに助けを求める人がいるかわかっていました。あの感覚が、特殊能力?」


「そうさ。それに、ミレイアがその力を使っている時、体が薄紫に光っているだろう?あれは、初代聖女と同じ光なんだ。……そして、同じ光と能力を持つ聖女が、100年に一度生まれている」


「100年前と200年前にも似たような聖女がいたということ?」


「似ているというか……初代聖女の生まれ変わりだと伝えられている。ミレイアは初代聖女の4回目の人生ということになるね」


ミレイアは戸惑いを見せる。

「何故そんなことがわかるんですか……」


「初代と同じ魂を持つ聖女の話は、代々言い伝えられてきたことだからね。そして、ミレイアに渡さないといけないものがあるんだ」


ユキアは、立ち上がると、奥の部屋から木箱を抱えて戻ってきた。そして、木箱の中から一冊の古びた書物を取り出してミレイアに渡した。


「これは?」


「開いてごらん」


ミレイアは書物の表紙を開く。古い紙の匂いがふわりと漂う。


「……日記?」


「やっぱり読めるんだね。この日記帳には、自分自身しか読んだり書き込んだりできない魔法がかけられている。他の者が見ても、意味のない記号にしか見えないんだ。もちろん私にもね。これを文字として認識できることこそ、ミレイアが初代聖女の生まれ変わりであることの証なんだよ」


「……読んでみてもいいですか」


「もちろん。それはもう、ミレイアのものだからね……」


ミレイアは、そっと日記のページをめくった。


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