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3つの条件

皇太子ヨウィエルが、指を折りながら条件を話し始めた。


「1つ目の条件は、俺と友人になることだ。次世代の国を背負う者同士、親しい関係を築くことは、お互いの国の未来のためになると思わない?」


「はい、もちろんです」


「2つ目。レガリアの進んだ技術力を我が国に学ばせてほしい。レガリア製の高性能な魔道具は、今も一部の商店で取り扱いがあるが、国民の数が多い帝国では、入荷してもすぐに売り切れてしまう。技術者を派遣してもらい帝国内に生産拠点を作ることができるなら、売上に応じてレガリア王国と魔道具の発明家にも報酬を支払う契約をしてもいい」


ヨウィエルの提案に、レオンが明るい声で応える。

「それは、レガリア王国にとっても理想的なことです。レガリア製の魔道具が世界に広まることに繋がりますからね」


「手始めに、今から、君たちが乗ってきた魔導走行車とやらを見学させてもらえるか?国境の町の騎士たちが、ずいぶん騒いでいた」


「……はい、承知しました」


レオンたちは、応接室を離れ、公邸の馬車小屋に停めた魔導走行車に向かう。


長い回廊を歩く間、レオンはずっと真面目な顔で前を向いていた。そんな彼の横顔を、ヨウィエルが興味深そうに覗き込む。


「レオン王子。いや、友人になったんだからレオンでいいかな。俺のこともヨウィエルって呼んで。これからは、敬語も禁止な」


押しの強い言い方に、レオンは少し戸惑いながらも柔らかく返す。


「わかったよ。慣れない帝国語だから、時々敬語になってしまうこともあるかもしれないが……」


「ふーん。……じゃあ、これなら大丈夫?」


ヨウィエルが、今度は流暢なレガリア語で話す。


「レガリア語が話せるのか?」


「そりゃあ、一応皇太子だからね。近隣国の言葉ぐらいは帝王教育で学ばされたよ。君もそうだろ?」


「ああ、そうだな。しかし、現在の皇帝はレガリア語は理解出来なかったと記憶しているけど?」


「まあ、父は話せないね。父が皇太子の時代はまだ国交が復活して間もなくて、レガリア王国の言葉を学ぶなんて考えられなかったと思うよ。でも、今の若者たちは、レガリア王国に行ってみたくて自ら進んで学んでいるものも多いんだ」


「……ヨウィエルは、なぜ、昔に比べてレガリアの印象が良くなったと思う?」


「まあ、色々あるよ。人気の小説や舞台の影響もあるだろうし、高性能な魔道具や技術力への憧れもあるだろう……あ、ついたようだね」


馬車小屋の扉が開かれ、魔導走行車が姿を現した。

「どうぞ、中へ」

レオンが走行車に案内する。


「あれ、思ってたより小さいようだが……は!?」


ヨウィエルが、走行車の内部に足を踏み入れ、呆気にとられている。

外観から想像した大きさの10倍以上はある広い空間。公邸の応接室を凌ぐほどの上質な内装。トイレやキッチン、シャワーも備えられ、余裕をもって並べられたソファは、驚くほど座り心地が良く、倒せば簡易ベッドになる造り。魔導調温機のおかげで春のように暖かい車内は、まさに異空間だった。


「これは……なんとも素晴らしいですね」

先に感嘆の声を上げたのはソトシンだった。


ヨウィエルは無言のまま車内を見て回り、ようやく声を絞り出す。

「なんだよこれは。乗り物の概念を壊しすぎだろ。これが、馬なしで動くというのか?」


レオンが苦笑いをしながら頷く。

「馬車の5倍の速さで進むんだ。行き先を操作盤に伝えれば、自動で安全に目的地まで連れて行ってくれる。良かったら動かしてみるが……」


「ぜひ、頼む」

目を輝かせるヨウィエルは、さっきよりも少年っぽく見える。


「公邸の周りを一回りしよう」

レオンが操作盤に触れて走行車を動かす。


景色が滑るように流れていく。


「うわー、音も振動もない。ぶつかりそうに見えるのに、ちゃんと障害物を避けて進んでいるんだな」


わずか数分で車両は馬車小屋へ戻ってきた。


「あっという間だったな!こんな革新的な乗り物を生み出すなんて、ありえない!」


興奮しっぱなしのヨウィエルは、なかなかソファから立とうとしない。ソトシンが咳払いしながら促す。


「まだ交渉の途中です。応接室に戻りましょう」


回廊を歩きながら、ヨウィエルは抑えられない熱量のまま問いかけた。


「レオン、教えてくれ。魔導走行車は一体誰が作った?」


レオンが答えづらそうにしていると、ソトシンがさらりと口を開く。


「ヨウィエル殿下、ご存知なかったんですか?魔導走行車は、セドリック・グレアムとミレイア・ノクシアの共同研究として先日レガリアで開かれた学会で発表されていました。既にあれだけのものを完成させていたのは驚きでした」


「あ、そういえば先日の会議で馬のない車の話をしているものがいたな。考えたのは俺と同じ歳の2人だと言われた気もする。そうか……セドリック・グレアムとミレイア・ノクシア……。ん?まて、ノクシアといえば通信魔道具や瞬間記録機などの高性能魔道具を次々に生み出す商会の名前じゃないか?」


席に戻ったレオンは、向かいのヨウィエルの鋭い視線を受け、観念して話し始めた。


「その通りだ。ミレイア・ノクシアはあまり公にはしたがらないが、ノクシア商会のすべての魔道具の発案と設計をしている。今回の魔導走行車も彼女が用意してくれたものだ。近いうちに小型のものを一般発売する予定らしい」


「やはりレオンの知り合いだったか……」


「知り合いというか……」


“恋人”と言い出す前に、ヨウィエルの声がかぶさった。


「それはそうと、3つ目の条件がまだだったね。

俺をーー夢幻の女神と会わせてほしい」


レオンの動きが一瞬止まる。


「え?理由は?」


「興味があるから……は理由にならない?

実は、世界の各地を飛び回って人助けをする女神の噂を初めて耳にした時には、作り話かと思っていたんだが……1年前、隣国の内戦に巻き込まれた時、俺はこの目で見てしまったんだ。突然現れた紫の光を放つ美しい少女が、爆撃により崩壊した建物の中から人々を次々に救いあげるところを。まさに奇跡としか言いようがなかった。足を失った兵士は、治療を受けて足が生えてきたと叫んでいたよ。俺は、近づこうとしたが、目が合った瞬間、少女は消えてしまった。あれからずっと気になっている。

……最近、レガリアのルーエ商会が"夢幻の女神シリーズ"というグッズ販売を行なっているのは知っているだろう?あの記録機の画像を見た時、あの時の少女がレガリア王国にいることを確信したんだ。とにかく会って話をしてみたい……」


レオンは目を伏せた。


「……善処するよ」


「誤魔化すのは駄目だよ。王太子の力があれば呼び出すぐらいできるよね?

会えるまで、レオンにはこの国に滞在してもらおう。出来ないならば交渉は決裂だ」


部屋の空気が、一瞬で張り詰めた。


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