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可視化魔道具

「エリサさん!おはようございます。お仕事お疲れ様です」


ーー王立魔法技術研究院のエリサ・グレアムの研究室。

魔道具の実験中だったエリサは、目の前に突然現れたミレイアに、平然と微笑んだ。


「まあ、ミレイアちゃん。会いに来てくれたの?」


「はい。連絡せずに来てすみません。エリサさん……全然驚かないんですね!」


「ふふ。驚かせたかったの?私は慣れてるのよ。昔は毎日のように弟のシオンが突然目の前に現れてたからね。あの子、私が驚くといつも楽しそうにケラケラ笑ってたわ」


「パパが?」


「あなたは、やっぱりシオンに似ているわね。天才的な魔法の使い手なのに、どこか抜けていてお茶目なところが……。

ところで、昨日は研究員の仲間たちが“すごい魔道具の完成”に立ち会えたって興奮して話してたわよ。私も行きたかったんだけど、仕事が立て込んでたのよね……」


「昨日は助かりました。エリサさん、今も忙しいですか?」


「依頼があった仕事は昨日全部終わらせたわ。ミレイアちゃんこそ、相変わらず忙しいの?」


「はい。大忙しです! それで、お願いがあるんですけど――」


ミレイアは必要な魔道具について語り始める。

エリサは穏やかな眼差しで相槌を打ちながら耳を傾けていた。


「うんうん。私の研究が役に立つかもって、セドリックに言われて来たのね……」


「図々しいですけど……なんとかできませんか?」


「もちろん、協力するわ。実を言うと、私のほうも相談したいと思っていたの。

それに……ミレイアちゃんは、聖女の力で視えたものを他の人に映像として見せたいのよね? あなたの“神の意志を視る力”かしら。それとも、ノエルさんの“過去を視る力”?」


「え!? 魔道具の説明しかしていないはずなのに……聖女の力のこと、知ってたんですか?」


ミレイアが目を見開く。


「まあね。十五年前、シオンとアリアが赤ん坊だったあなたを連れて来た時、色々教えてくれたの。アリアの予知能力のことも、あなたが生まれながらに授かった力のことも、まだ発現していない妹の力のことも……」


「実は、ノエルの聖女の力が発現したのは、ついさっきなんです。

わたしが聖女の力を持っていることも、ほんの少し前に知りました。それは後から元聖女の大おばあさまに聞いてくる予定なんですけど……。

魔道具がほしいのは、ノエルの視る過去を、この目で見たいからです。アルスおじさまにも見せないといけなくて……王国の闇に関わる重大なことなんです」


「ああ、もしかして……シオンたちを殺めた精神魔法を操る黒幕に関係するの? それとも、あなたたちが告発の準備を進めている第二王子派の件かしら……」


「エリサさんには、本当に何でもお見通しなんですね。今回は精神魔法を操る黒幕の件です。でも、第二王子派の件も無関係では無さそうで……まだわからないことが多すぎるんです」


「そう……。とりあえずは、魔道具を完成させることね」


エリサは作業台に置かれた円盤型の魔道具を手に取った。


「私が以前から研究中の“夜に見た夢を映像化する魔道具”よ。もう試作段階には入っているんだけど……出力がどうしても安定しなくて。ミレイアちゃんに相談しようと思ってたの」


ミレイアはそっと魔道具に手を伸ばす。


「見てもいいですか……?」


「もちろん」


エリサは優しく頷き、魔道具の蓋を静かに開いた。

内部には、たくさんの魔石と複雑な魔導回路が淡く光を帯びて浮かび上がる。


ミレイアは内部を覗き込み、波動と回路の関係を慎重に確認した。


「記憶の波動と幻影魔法を組み合わせて……魔導回路を繋いで……なるほど! これは複雑ですね。でも、今のままだと出力が弱いから、ここの数式は……」


ミレイアは手元の紙に素早く数式を書き込みながら、次々と提案を挙げていく。


「さすがね、ミレイアちゃん! その発想は私にはなかったわ。あとは……ここを調整すれば映像も安定するはず」


「魔石の位置も少しずらすと、もっと鮮明になります」


二人は机を挟んで熱心に意見を交わし、細かな調整を重ねていく。

魔道具の淡い光が揺れ、回路に小さな火花が走るたび、研究室には緊張と期待がふわりと混ざった。


「これで、夢を映像化する魔道具は完成ね。ミレイアちゃんが必要な魔道具は、これを調整すれば作れるはず」


その時――扉を叩く音が響いた。


「お、まだいたね、ミレイアさん」


扉が開き、紙袋を片手にセドリックが姿を見せた。

香ばしい匂いがふわりと研究室に広がる。


「あら、セドリック……どうしたの?」

エリサが目を向ける。


「気になって様子を見に来ただけ。ついでに昼食も持ってきたんだ」

セドリックは軽く笑いながら机の上に紙袋を置く。

「ミレイアさんも食べるだろ?」


「うん、助かるよ!」

ミレイアは嬉しそうに微笑んだ。


三人はテーブルを囲み、談笑しながら束の間の昼食を楽しんだ。


食後、セドリックは再び作業を始めた二人を覗き込む。


「順調そうだな」


「うん」


「あと少し」


二人は集中した表情で手元を動かし続ける。

エリサが最後の魔石をはめ込み、蓋を閉じると、魔道具の光はふっと安定して輝きを増した。


「……できたわ。今ちょうど二時くらいね」


「ありがとうございます、エリサさん……!」


ミレイアは完成した魔道具をそっと抱きしめる。


「すぐに行くの?」


「はい。魔道具、お借りしますね」


「ええ。実際に使った結果も知りたいし、またおいで」


「はい、また来ます!」


「ミレイアさん、次は連絡してから来てくれよ」


セドリックが転移魔法陣を見ながら苦笑する。


「なるべく気をつけ……」


言い終わる前に光が弾け、ミレイアは姿を消した。


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