120 感謝の抱擁
国王カイルと侍女長ジュリアスがいる謁見の間を後にし、一同は静かな廊下へと出る。
宰相ソウダインは「帝国へ向かう準備をして文官長と合流する」と言い残し、足早に行政棟へ向かっていった。
レオンに手招きされ、謁見の間のほど近くにある王太子用の執務室に通されたのは、ミレイア、アゼル、そしてパミルの三人だった。
扉が閉まるやいなや、レオンは深々と頭を下げる。
「感謝する。君たちのおかげで父が正気に戻った。まだ解決すべきことは多いが、最悪の事態は免れただろう……王家の人間として心から礼を言うよ」
「殿下のために来たわけじゃないよ。僕はミレイアに頼まれたから来ただけだ」
アゼルがそう言って、レオンに顔を上げるように促した。
パミルも胸を張って言う。
「私だってミレイアお姉ちゃんに会いたかっただけなんだから!」
レオンは顔を上げ、抑えていた感情が溢れ出したようにミレイアに駆け寄る。
そして、我慢の限界とばかりに彼女をぎゅっと抱きしめた。
「ミレイア……本当にありがとう」
「レオン……」
額に鼻先を寄せると、かすかに甘い香りがした。――やはり、あの香りはミレイアのものだった。
「ああ……離れたくないな」
レオンは囁くように言い、流れるような仕草でミレイアの額に唇を落とした。
「帝国に行くのが、怖いの?」
ミレイアが顔を傾けて問いかけると、レオンは彼女の腰をさらに強く抱き寄せながら、ゆるく首を振った。
「いや、大丈夫だ。さっきまでは不安だったが、ミレイアの顔を見たら不思議と何とかなる気がしてきた……。ただ、何日も君に会えなくなると思うと……」
ふと、レオンは強い視線を感じて手を緩めた。
パミルがニヤニヤと笑いながら、下から二人を覗き込んでいる。
「……何だよ、邪魔しないでくれ」
「邪魔なんてしてませーん。私のことは気にせず続けてください」
「はあ……お前な……」
ミレイアがクスッと吹き出し、レオンを抱きしめ返した。
「パミルもおいで!」
ミレイアが手を伸ばすと、パミルは嬉しそうに飛びついた。ミレイアはレオンと一緒に包み込むように抱きしめる。
「アゼルも来たら!」と今度はパミルが呼ぶ。
アゼルは少し戸惑いながらも、ミレイアの後ろからそっと腕を回した。
「……これ、どういう状況?」
静寂を破るように声が響く。
たった今、音もなく姿を現した精霊アレクが、呆れたように4人を見ていた。
ミレイアたちは顔を見合わせ、同時にふわりと離れてアレクの方を向いた。




