再び届いた手紙
就寝前の準備を手伝い終えると、ノエルは深々と一礼する。
「それでは、私は隣室におります。何かあれば、すぐに伺いますので」
「ええ。おやすみなさい、ノエル」
「おやすみなさいませ、お嬢様」
扉がそっと閉まり、静寂が戻る。
ミレイアは、ふうっと軽く息を吐いてベッドに腰を下ろした。
ふわりと沈む感触。清潔なシーツの匂い。
このベッド――侯爵邸で使っていたものとよく似ている。
(……あんがい、慣れるのも早いかもしれない)
そんなことを思いながら、枕元に視線を向けた瞬間、ふと目に留まった。
(……え?)
そこには、見覚えのある淡いグリーンの封筒がひとつ、そっと置かれていた。
筆記体で丁寧に綴られた自分の名前。
差出人の名は、どこにもない。
まるで、侯爵邸にいたときとまったく同じ。
「どうして……ここに……?」
ミレイアは静かに手を伸ばし、そっとその封筒に触れる。
(今日から、もう届かないと思ってたのに)
胸の奥で、音もなく小さな鼓動が跳ねた。
不思議な手紙は、確かに、ここにも届いた。
【ミレイアへ】
困った時は、深呼吸。
声をかけられたら、どうか笑って。
その笑顔が、道をひらくよ。
封筒から便箋を取り出し、繰り返し目を通す。心に刻みつけると、手に持っていた便箋も枕の上に置いていた封筒もキラキラと光りながら空気に溶けるように消えていった。
ミレイアは、光の魔法に誘われるように、眠りに入っていった。
おやすみなさい、手紙のあなた
今日もありがとう……