11 奪還作戦
王族専用の寮の一室。
重厚な調度に囲まれた部屋の中心で、レオンは革張りのソファに腰を下ろし、肘をついて窓の外をぼんやりと見つめていた。
表情はいつもの無表情――のはずだったが、眉間にはしわがよっているし、噛み締めた唇が少し赤くなっている。
その様子を斜め向かいから眺めていたロイが、堪えきれずに吹き出した。
「おいおいレオン、お前がここまでわかりやすく機嫌悪いのって、いつ以来だ?」
「……別に、機嫌が悪くなんてない」
「嘘つけ。あの2人が仲良さげだったのが気に食わないんだろ?」
ロイがからかうと、レオンは無言で睨みつける。
しかし、その目にはいつもの鋭さはなく、ほんのわずかな動揺が宿っていた。
クラリスが、涼しい顔で口を挟む。
「殿下、これは私の仮説なんですが。……先程の入学式で起きた強い風は、ミレイア嬢がなんらかのきっかけで引き起こした魔力暴走だったのではないかと。彼は、魔力の流れを見る能力に優れた方のようですから、彼女に触れながら治療をしていたのではないかと」
「……治療?」
「ええ。詳細は明らかになっていませんが、それならいくつかの辻褄が合います」
クラリスは3人分の紅茶を優雅に入れながら続けた。
「殿下が10歳の時の舞踏会で起きた“あの地震”――あれも偶然ではなかったのかもしれません。……となると、彼女が王家の婚約者候補から身を引いた理由も、“嫌いだから”ではなく、“魔力暴走の危険から殿下を守るため”であった可能性も……」
レオンの手が、ひざの上で静かに握られる。
嫌われていたわけじゃない――その可能性が浮かんだ瞬間、彼の胸には、言葉にできない熱が走った。
だが次の瞬間、入学式でアゼルにもたれかかるようにして支えられていたミレイアの姿が脳裏に蘇る。
2人の間には治療以上の親密な関係があるように見えた。
ロイが肘で突きながらにやにやと笑った。
「おいおい、顔に出てるぞ? ついに感情を取り戻したか?」
「黙れ、ロイ」
低く威嚇するレオンだったが、耳元が赤くなっている。
クラリスはくすりと笑った。
「殿下は、明日から彼女と同じクラスです。アゼル・フェンリルは学年が上ですから、学園内で接する機会は少ないでしょう。むしろ殿下の方が有利なのでは?」
「有利か……」
レオンが小さく呟く。
「紅茶をいただきながら作戦でも立てましょうか? 未来の恋人奪還作戦」
クラリスの提案に、ロイが身を乗り出す。
「いいねそれ! どうせなら、全力でやろうぜ」
「……くだらない」
レオンは顔を逸らしたが、わずかに頬がゆるんだのをクラリスもロイも見逃さなかった。




