旅立ち
「うん、大丈夫……」
ミレイアは、鏡に映る制服姿の自分に向かって励ますように呟いた。
レガリア魔導学園の制服は、貴族の格式にふさわしくドレスを軽やかに仕立て直したような上品なデザインだ。
深い紺のスカートと淡いパープルの刺繍が、彼女の美しい髪と瞳をいっそう引き立てている。
「ねえ、本当に行くの? ミレイア……まだ今なら取りやめても——」
背後から不安気な声が飛んできた。
「まだ言ってるの、お母さま。今更止めても無駄よ」
ミレイアはにこりと笑って振り返る。
「だけど、これまで社交界にだって出ていなかったのよ? いきなり知らない人ばかりの王都の学園に通うなんて……心配だわ」
いつもは優雅な母が、今朝に限ってはすっかり取り乱している。
「ミレイアお嬢様……せめて護衛をもう二名ほど追加されては……?」
執事のケインも神妙な面持ちで提案する。
「みんな心配しすぎよ。ねえお父さま」
壁際でうつむいていた父が、ムクっと顔をあげる。
「ミレイアは、まだ家にいた方がいいと思うんだ」
「お父さままで!? 賛成してくれていたはずなのに!」
「しかし……、学園には男がたくさんいるんだぞ? 何かあったらどうするんだよ」
「ちゃんと気をつけるから……」
「うう……寂しい……。本当はまだまだ膝の上で甘えていて欲しかったのに」
「お父さま、それ……年頃の娘に言うことじゃないわよ」
威厳のある侯爵が、娘の前ではいつも甘々になる。
しかし、それがこの侯爵家では当たり前の情景だった。
家族も使用人も領民たちも、ミレイアに関わるすべての人が過保護なのだ。
出発前の玄関ホールは、お祭り騒ぎのようだった。
ミレイアは一歩、扉の向こうへ足を踏み出す。
大丈夫。怖くないといえば嘘になるけど、あの手紙が、背中を押してくれているから。
「行ってきます、お父さま、お母さま。ちゃんと連絡するからね」




