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婚約者さんの両親と戦争です

「どうした?ロレッタ。ロイドはどうした?」


父が心配そうに話しかけてくるが、今用があるのはロイドの両親だ。


「はっきり申し上げましょう。私はあなた達のことが許せません」


「ロレッタ!!」


母に怒鳴られたが、私はやめない。

最初はバッドエンドを回避するためだけにロイドに近づいたが、あんな姿を見せられては私も黙っていられない。

ましてやあんなにかわいいおねだりをされてしまったのならば。


「……子供は大人の道具じゃないのです。子供にだって感情はあるのです。……どんなに大人びて見えようと私達子供はお父様とお母様に愛してもらいたいのです!!」


真っ直ぐロイドの両親の目を見てそう伝えるが、全く心に刺さっていない。

むしろうちの両親の方が涙目だ。


「ロレッタ、急にどうしたんだい?私達はロイドのことをちゃんと愛しているよ」


驚くほど整ったロイドの父の容姿はかえって恐ろしく見えた。

これが、貴族。

ただ税金を貪っているわけではないようだ。

だけど私には約束がある。


「じゃあなんでロイドは悲しんでるの?なんで……なんでロイドが普通の家族になりたいって願ってるの!?」


私の目から涙がこぼれ落ちる。

この体は涙腺が弱すぎるので困りものだ。


「ロイド言ってたよ!お父様とお母様と話したいって!一緒にご飯食べたいって!一緒に出かけたいって!頭を撫でられて抱きしめられたいって!!これじゃあがんばってるロイドが可哀想だよ!!2人に頑張ったね、ってこの言葉を言われるためだけに頑張ってるのに、なんでロイドのことを愛してあげないの!?」


この体は体力がないから少し叫んだだけでも息切れしてしまう。

……それに、これだけ言ってもロイドの両親には何も刺さらない。


「バーナード、これはどういうことだ。メルヴィル家は家族仲がとても良い事で有名だろう」


父が怖い顔でロイドの父に詰寄る。

直接その顔を向けられていない私ですらも怖いよお父様。

だけど殺気を真正面から受けているロイドの父、もといバーナードさんは平然としている。


「はぁ、ロイドも余計なことをしてくれたものだな。役立たずめ」


「バーナード!!」


「おっと、何をそんなに怒っている?ニコル。お前のところだって最近まではもっとひどい状態だったじゃないか。それにうちみたいな貴族の家はどこにでも存在している。何も珍しいことじゃない。それに、私は餓鬼が嫌いなんだ」


エアリー家のことを引き合いに出されてしまっては父も何も言うことが出来ない。

だけどまさかロイドの父がこんなにも腐っているとは思っていなかった。


「なんで……ロイドを産んだの?」


「そりゃあこの家をもっと大きくするためだよ。いくら公爵家と言えど、私はこんなので満足はしない。三代公爵家のトップ……そう、今のエアリー家の座を狙っているんだ。さすがに王族にはなれないってことは私にだって分かる。だからせめてこの国の宰相くらいには、ね」


そう言ってニヤリと笑うロイドの父と、後ろで何も言わずに静かに笑うロイドの母を見て寒気がした。


「誰がお前らなんかにこの座を譲るか!!……帰るぞ、ロレッタ、レオナ」


「待って!!まだロイドが……」


父に手を掴まれ、リビングから引っ張り出されると、そこには放心したロイドがいた。


「……ロイド、まさか聞いてたの……?」


震える声でロイドに手を差し伸べながらそう問いかけるとバシッと手を払われ、ロイドが勢いよく玄関から飛び出した。


「ロイド!!待って!!」


「ロレッタ!!」


父に掴まれていた手を振りほどき、ロイドを追いかける。

しかし、3歳児にしては足が速く体力のあるロイドとはどんどん差が開いていく。

それでも諦めずにロイドを追いかけ続けると、ロイドは近くにある公園に入って行った。


「はぁはぁ……ロイド……」


「来ないで!!」


こっちを見ることも無く拒否をしたロイドの声は悲痛に満ち溢れていた。


「どうせ僕なんて誰にも必要とされてない!!父様と母様だって僕がいらないんだ!!」


「落ち着いてロイド!!」


「うるさい!!ロレッタだって僕を心配するフリして後で裏切るんだろ!!今だって僕のことが惨めだって笑ってるんだろ!!」


ロイドが取り乱しすぎて、さっきまで焦りしかなかった私の心も落ち着いた。

……今のロイドには子供らしい愛らしさしかないじゃないか。

私は何故こんな子にビビっていたのか可笑しくて堪らない。


蹲って静かに泣き続けるロイドを後ろから抱き締める。


「ロイド、私はあなたを絶対に裏切らないし、絶対に傷つけない。それに、笑うならあなたと一緒に楽しいことをして笑いたい。……ねえロイド。家に来ない?」


腕の中のロイドの体がビクッと揺れる。


「家はね、ちょっと無愛想だけど優しいお兄様と、大きな手でギュッと抱きしめてくれる照れ屋なお父様と、たくさん褒めて頭を撫でてくれるお母様がいるの。使用人達もみんな仲良くしてくれるの。ロイドのことだって歓迎するし、あなたをたくさん愛してあげられる。それに、もし結婚するんならいつか一緒に暮らすんだしね?」


最後の一言は冗談っぽく言うとロイドもクスッと笑ってくれた。

そしてしばらく黙ったあと急に立ち上がり、私の方を向いた。

当の私は急にロイドが立ち上がったせいで無様にひっくり返っているんですけどもね。


「僕には父様と母様しかいなかったんだ」


「……うん」


「一人っ子だし、使用人は構ってくれないし、お友達もいない。だからエアリー家関係でも必要とされるのが嬉しかった」


改めて本人の口から笑顔で語られるとなかなか心に刺さるものもあるが、ロイドが前に進もうとしているのだ。私が泣くわけにはいかない。


「でもねロレッタと出会って、今のロレッタの話を聞いて、父様と母様だけじゃないんだって思えた。きっと僕を愛してくれるのは父様と母様じゃない。……ロレッタ、僕を君の家族にしてくれないかな?」


初対面の時からは想像出来ない、全てがふっ切れたような無邪気な笑顔で頼まれて断れる人間はきっとどこにもいない。

私は勢い良く立ち上がってロイドと向かい合う。


「ロイド、その言葉プロポーズみたい!」


「え、いや!そんなつもりじゃなくて!」


さっきまでの無邪気な笑顔は何処へやら。

顔を真っ赤にして慌てふためくロイドもすごく子供らしくて可愛いじゃないか。


「んふふ、冗談!いいよ!じゃあそうと決まればお父様とお母様にお願いしなきゃね!」


「うん!……許してくれるかなぁ」


「言ったでしょ!私のお父様とお母様はすっごく優しいの!ロイドを家族にするなんて簡単なのよ!」


「そうだよ、ロイド」


唐突に後ろからかけられた大人の男の人の声。

そう我が父、ニコル・エアリー。

それと後ろでクスクスと笑う我が母、レオナ・エアリー。


「まさか子供が3人になるなんてね。これからもっと楽しくなるわよ」


「ロイド、これからは私達のことを本当の両親だと思いなさい。たくさん甘えてもいいし、たくさん我儘を言ってもいい。それに、家にはロレッタの兄、アドニスもいる。私達に言えないことがあったらアドニスに言ってもいい。……とにかく。ロイド、君は今から私達の家族だ」


ポカーンとしていたロイドは、言葉の意味を理解したのか徐々に目に涙を溜めていく。

そして私に勢い良く抱きついてきた。

ロイドを受け止めきれず、再び地面とお友達になってしまったが、そんなことは全く気にならない。


「ロレッタ!ありがとう!!本当に、ありがとう!!」


「ふふ、どういたしまして!」


ロイドはしばらく私を抱きしめたまま泣き続けた。

そしてしばらくして泣き止んだかと思うと、ずしっと急に重くなった。

この体の大きさでは地面とロイドに挟まれるのは少々しんどい。


「お父様……」


「あぁ、寝てしまったのか。まぁこれだけ色々なことがあれば仕方ないがな」


ひょいと私からロイドを引き剥がしロイドを抱き抱えた父の顔は、もう既にロイドの父としての顔だった。

それを見てなんだか寂しくなってしまった私は母に両手を目一杯伸ばす。


「ふふ、なーに甘えん坊ちゃん?」


そう言いながらも母はひょいと私の体を持ち上げ、抱きしめてくれた。


「お父様とお母様だーいすき!早くお兄様に会いたいなぁ!」


「ははっ、そうだな。アドニスも1人で私達の帰りを待ち侘びているだろう。さぁ、帰ろう。私達の家へ」


そういって私達を抱っこしながら歩く父と母はどこからどう見ても完璧な両親だ。

今日の出来事で私がどれだけ家族に恵まれているのかを実感した。

早くお兄様に会いたいなぁ、なんてね。



ちなみに、父が抱き抱えたロイドを見た兄と使用人は大層驚いていた。

そしてそれと同じくらい私の服の汚れにも驚いていた。

ずっと前から思ってたんですが、ロレッタの3歳児感︎全くないですね。今回は特に。

子供って難しい……

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