仁藤清磁の別れ
閉園間際になると店が混むということで、早めに土産物屋に来た。おれたちが店内をウロウロ物色している間に藤原先輩はササッと何かをレジへ持っていき、会計を済ませていた。多分あれは、饅頭だな。なんで遊園地に饅頭なのかわからないけど。
一方、外村と羽生はこの数分間何を買おうか迷っている。外村は色々手に取って考えているけど、羽生は商品の外観を眺めるだけだ。あれで決められるのかな。
そして、そんな2人の傍にいるおれと新菜だが……。
「あ、新菜、これいいんじゃない? こういうストラップとか、好きだよね」
「……え、そうでもないけど」
「あ、そ、そう。じゃあ、こっちは?」
「…………別に」
こんな風に、なんとなくディスコミュニケーションしてしまっている。そして新菜は、おれが指差したのとは無関係の商品を手に、レジの列に並んだ。
「…………」
「……森山、仁藤さんどうしたんだ?」
「どうしたんだろうね……特に何かで揉めてたとかってことも、ないはずだけど」
今日の新菜は、つれない。
*
日は傾いてきているけどお土産は早めに買いに行ったので、もう少し遊ぶ時間はある。というわけで、店を出たおれたちは再びアトラクションのある方へ向かうべく足を踏み出そうと――
「あの、藤原先輩」
したところで、新菜が先頭の藤原先輩にストップをかけた。藤原先輩は訝しげに振り返り、目線で「何?」と問う。新菜はいつもより一段低いトーンで切り出した。
「すみません。私、今日はこれで帰ります」
一瞬、表情に疑問符を浮かべた藤原先輩だったが、割とすぐにいつもの無表情に戻した。
「……そうか。じゃあ森山と仁藤、また――」
「いえ、私一人で帰ります。……清磁くんは、もうちょっと遊んできていいよ」
「え、いや、どうしたの新菜。なんで急に帰るなんて――」
「ちょっと、距離を置こう」
やけにハッキリとした口調で、新菜はそう提案――いや、宣言した。外村と羽生が、驚きに息を呑んでいるのがわかる。おれもまた、口を利かなかった。
「なんか清磁くん、頼りないし。さっきもあんな変なストラップ勧めてくるとか…………」
そう言うと新菜はこれ見よがしに溜め息を吐き、
「それじゃあ、そういうことなので……藤原先輩、六花、外村君、また」
と軽く挨拶をして踵を返し、本当にゲートを抜けていってしまった。
後に残されたおれたちは、そのまま暫く固まっていた。
やがて、藤原先輩が口火を切った。
「……今日は俺たち、女難の日だな」
「……全くです」
藤原先輩も、恋人に先に帰られたということになっている。だからそう言ったのだろう。
「なんか仁藤さん、機嫌悪そうだったな……ま、まあ森山、今仁藤さんと一緒に住んでるんだろ? 距離置くって言っても、大事にはならないんじゃないか?」
気を利かせたのか、外村がフォローを入れてくる。しかし、
「いや……もうダメだろうな」
「……何で?」
「兄妹だから距離を置くことなんてできないって、新菜もわかってるはずだ。だから多分、さっきのあれは、『別れよう』を婉曲に言っただけだと思う」
「森山君……」
羽生まで心配そうにしている。だからおれは敢えて、何でもないような声色で言った。
「はあ、フラれちゃったよ。5年も付き合ったんだけどなあ」
「………………」
夕焼けも相まって、場に陰鬱な雰囲気が広がっていく。何となく皆目を合わせずその場に立ち往生していると、羽生がわざとらしく明るい声で提案した。
「じゃ、じゃあ私たちも帰りますか? もう暗くなるし……」
「いや」
しかしそれを藤原先輩が遮った。
「女子はまだ羽生がいることだし、もう少しだけ遊んでいこう」
「え? 私?」
羽生は不思議そうに自分を指差す。そんな彼女に外村も言う。
「……そうですね。オレも六花ともうちょっといたいな。遅くなったら送るから」
「え、えー、亮介どうしたの? いつもはそんなこと言わないのに」
……おお、羽生が照れている。藤原先輩はイケメンだし、外村とは仲が良いんだろうし、2人にそう言われて満更でもないのだろう。
「まあ2人ともそう言ってるし、観覧車くらいは乗っていこうよ」
最後におれが提案し、おれたちは4人で歩き出した。
次の部分は、微妙に長いです。




