仁藤新菜の失望
「た、高い……」
遊園地といえば、みたいなノリで最初に乗ることになったジェットコースターの前で、清磁くんはレールを見上げて立ち竦んでいた。他の3人は、普通に列に並びにいった。
「え、清磁くんもしかして……怖いの?」
私は露骨にジト目で彼を見る。すると清磁くんは、
「いや別に怖いわけじゃないけどただ、なんかほら高いなって、高いじゃん」
と、妙に早口に言った。
「………………ハァ。ほら、皆待ってるから」
「あ、待ってよ」
私は清磁くんに構わず、列の最後尾にいる3人に合流した。後ろから清磁くんも小走りについてくる。
「仁藤さん、何話してたんだ?」
私たちが少し遅れたことに疑問を感じたのか、外村君が訊いてきた。再びレールを見上げている清磁くんを尻目に、私は答える。
「特に何話してたってわけじゃないよ。ただ、清磁くんが怖がってるみたいで」
「いやだから違うって」
「……私にも怖がってるように見えたけど」
「森山、絶叫系苦手なのか?」
「羽生に藤原先輩まで……」
パーカーのポケットに手を突っ込んだ六花に加え、藤原先輩も参戦してきた。私はここぞとばかりに藤原先輩に詰め寄る。
「藤原先輩はこういうの平気なんですか?」
「そうだな。こういう所にはよく来るし、少なくとも苦手じゃない」
「流石ですねっ」
最後の一言は、敢えて少し高めの声で言ってみた。すると藤原先輩はしっかりとそれを拾ってくれた。
「今の声可愛いな。女子って皆そういう声出せんの?」
藤原先輩は六花に視線を向ける。それを受けた六花が戸惑うのを見て私は、
「さ、六花、ちょっとやってみようよ」
と後押ししてみた。
「え、えっと……何て言えばいいの?」
「『カッコいい』とかでいいんじゃない? さあさあ♪」
躊躇うような仕草をしながらも、私のスマイルを見た六花は覚悟を決め――
「それじゃあ…………藤原先輩、カッコいいです❤」
あ、できてる。藤原先輩の瞳も、ちょっと揺れたんじゃないだろうか。
「……へぇ、可愛いじゃん」
と言い、目を逸らして照れた演出をする藤原先輩。その様子を見る六花の横顔には、自然な微笑が浮かんでいた。
「狡いですよ藤原先輩。新菜、おれにもやってよ」
「はいはい、清磁くんもカッコいいですよー」
「なんだそれ……もうちょっとさ――」
明らかに雑な褒め言葉に対して清磁くんは不満の声を漏らしたけど、列が前に進んだため、その抗議は虚しく消えていった。
*
「新菜、森山君と喧嘩でもしてるの?」
いくつかのアトラクションを満喫し、ちょっとしたレストラン風の食事処に入店した後、私と六花はお手洗いに行った。その水道の前で、鏡越しに六花は私と目を合わせ、そんなことを言った。
「……どうして?」
「……今日、森山君への当たりが、なんか強いような気がして」
蛇口を捻って、水を止める。ハンカチで手を拭い、それから私は答えた。
「……別にしてないよ。いつも通り」
「そう……」
2人揃ってお手洗いを出る。来た時には暗い色を浮かべていた六花の顔には、今は疑問の表情が現れていた。




