下忍が異世界で慌てた命令
盗みや殺しを生業としている忍びは人外の生き物だと言われている。
権蔵も例外ではなく、大勢の人を騙し、数えきれぬだけ殺しをした。
だから権蔵は自分でも厚顔な人間だと自認している。
その権蔵が気恥ずかしさで身を竦めていた。
場所はアスブロ城にあるメイトレオフロン姫の執務室。
権蔵はそこで雇い主であるメイトレオフロン姫にスパルータの動向を伝えていた…プリムラ、クレオ、ミータ、エルバの四人と一緒に。
「ゴンゾーは随分ともてるのね。旅から戻って来る度に仲間が増えているんですから」
メイトレオフロンは、そう言うとにこやかに微笑んだ。
その後ろではフィラが不機嫌そうな顔で権蔵を睨んでいる。
「姫、からかわないで下さい。それよりスパルータの件はどう致しますか?」
メイトレオフロンも普段ならば一笑に付す様な内容であったが、ヘパイストスとキルケの書状がそれを許さない。
「そうね。直ぐにでも動きたい所なんだけど、私の権限で出来る事は限られているのよ。とりあえずお父様とアーテナイのお爺様には報告を入れておくわ。ゴンゾーの国では戦が多くあったんでしょ?どうしたら良いと思う?」
(やっぱりこの姫様は凄いな)
地位と才能がある人間は独断専行を好み、他人の意見を聞く事を好まない。
しかし、メイトレオフロンは何の地位がない権蔵に意見を求めてきたのだ。
「はっ、食糧と武具の確保は必須でございます。そして才ある人物の登用、兵の確保、同盟の強化をして下さい。それに加えて国境付近に砦を築く事をお勧めします」
「才ある人物…強い騎士や魔術師ではないの?」
「強き者も必要ですが、それだけに頼れば倒されでもしたら軍の瓦解に繋がってしまいます。戦で最も必要なのは信頼の置ける軍師と計数に明るく糧食を管理出来る人物です」
戦で一番怖いのは飢えである。
飢えは兵の体力を奪い離反をも招く。
故に権蔵は何度も敵の糧食を燃やし奪った。
「才能のある軍師ではなく信頼の置ける軍師ですか?」
「いくら才能があっても将や兵が指示通り動いてくれなければ何の意味もありませんので」
いくら将や兵が強くても統率のとれていない軍は容易く瓦解する。
故に権蔵は何度も偽の伝令を出して軍師の信頼を奪った。
「ゴン、才能があるから信頼されるんじゃないのか?何が違うんだ?」
フィラが堪りかねたのか口を挟んできた。
「確かに才能も信頼の一つさ。でも将や兵を一番安心させるのは自分の働きがきちんと理解される事なんだよ。この軍師の言う通りに動いて死んだら家族は飢えないって思わせる位のな」
報奨を与えるのは当主であるが、戦の内容を一番理解し当主に功績を伝えるのは軍師である。
「軍師ね…考えておくわ。とりえずは同盟ね。プリムラ様、エルフ十二部族との同盟のは可能でしょうか?」
「努力はしてみますが、レオの部族だけは確証を持てません」
今、レオの実権を握っているのはザンナである。
プリムラはエルフの姫達を奴隷にしようとしたザンナを説き伏せる自信がなかった。
「大丈夫です。むしろザンナ様は他の部族の説得に協力してくれますよ」
「ゴンちゃん、ザンナは他の部族のエルフを猿人の奴隷にしようとしたんだよ」
「だからですよ。ザンナ様は力のある猿人に嫁がせて婚姻同盟を結ぼうとしたんですよ。多分、アレクレイスの企みに感づいたんでしょうね」
実力のある貴族や商人に族長の娘を奴隷として購わせる。
美しいエルフを奴隷にすれば手を出す確率は高い。
その後、エルフ十二部族の族長の娘である事を告げて正妻にさせる。
正妻になれなくても婚姻を結べば同盟の足掛かりにはなるであろう。
「随分と危ない手段ね」
「あの時点ではスパルータは戦の準備をしていませんでしたから。下手に噂が広がれば計画が水の泡に帰します」
権蔵のお陰でアスブロや神との繋がりが出来たので、ザンナは動いていなであろう。
「分かったわ、ゴンゾーはドワーフのポリス テクトーンに行ってちょうだい。プリムラ様、同盟の橋渡しをお願いします」
「分かりました。ゴンちゃん、お姉ちゃんはテクトーンに行けないからミータちゃんと二人で行って来て」
プリムラがしたり顔で権蔵に告げる。
「二人で、ですか?」
「エルフとドワーフは仲があまり良くないの。エルバちゃんは男の人の接触はまだ早いし…ゴンちゃん、色んな意味で頑張ってね。お姉ちゃん期待してるよ」
権蔵が後ろを振り向くとミータが無言で笑っていた。
活動報告にも書きましたが、入院中の為更新頻度が変わります。
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