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下忍が異世界で初めて訪れた神殿

 幸いな事に、それから例の男は姿を現さず旅は順調に進み権蔵達はエトナ火山の麓にある町に着いた。


「さてと、町に入る手続きをしなきゃいけないんで俺は馬車から降りますよ。アミナ様はどうします?」


「すいません、私は具合が悪いので降りれません」

 確かにアミナの顔色は真っ青である。


(やれやれ、困ったお嬢様だ。結局、穢れには慣れなかったか…まあ、あの顔色じゃ病人と言っても疑われないか) 

 権蔵達が馬車から降りると、そこには巨大な山がそそりたっていた。

 ヘパイストスが住むと言うエトナ火山だ。


「近くまで来ると迫力が違いますね。本当に煙を吐く山なんてあるんですね」

 権蔵の言う通り、エトナ火山からは常に煙が上がり続けている。


「に、臭いで鼻が潰れちゃいそうですよー」

 クレオの言う通り、辺りには卵が腐った様な独特の臭いが立ち込めていた。

 犬人のクレオはそれが堪らないらしく鼻を摘まんでおり、その尻尾は情ないぐらいにダラリと垂れ下がっている。


「この臭いは硫黄があるな。こりゃ火薬が作れるな」


「火薬って、ゴンちゃんが撃たれた鉄砲に使うヤツでしょ?まさか鉄砲を作るなんて言わないよね」

 プリムラは権蔵の脇腹にある傷を思い出したのか顔をしかめた。


「俺に鉄砲鍛冶の真似なんて出来ませんよ。こっちに炮烙玉を一つしか持って来ませんでしたから、もう少し作って置きたいんです」


 炮烙玉は権蔵が日本で使っていた爆弾の一種である。

 炮烙とは陶器の器の事で、中には火薬が詰められており爆発すると陶器が砕け散るので殺傷力が高い。


「ゴンちゃん、火遊びなんてしたらおねしょをしちゃうんだよ」


「しません。俺を幾つだと思ってるんですか?さてと、ヘパイストス様の神殿に行きますよ」

 神であるヘパイストスに簡単に会える訳もなく、神殿にキルケの紹介状を出した後に呼び出しが掛かるのを、宿で待たなければならない。

 衛兵の男にアミナが怯えた事もあり、アミナの病気を疑われる事もなく町に入る事が出来た。


「町の中は結構賑わっていますね…あちゃー、あれに並ばなきゃ行けないんですか?」

 ヘパイストスのお膝元と言う事もあり、その神殿は巨大である。

 それ以上に権蔵を驚かせたのは大勢の信者達であった。

 

「うわー、今から並んだら絶対に半日は待たなきゃいけないよ」


「俺が並ぶんで姉さん達は宿屋の手配をお願いします。これにアミナ様を並ばせたら大騒ぎになりそうなので」

 ヘパイストスが鍛冶の神という事もあり、列に並んでいる殆んどが屈強な男である。


「分かったー、宿が決まったら教えにくるよ」


「それじゃあ、頼みます」

 大きく手を振る義姉を見送ると、権蔵は列の最後尾へと移動した。


―――――――――――――――


 忍びの仕事の大半は、待つ事に費やされる。

 天井裏や床下に忍び込み目当ての情報を手に入れるまで、そこで何日も過ごす事さえ珍しくない。


(しかし、妙なもんだよな。忍の俺が異世界とはいえ神様に会うなんてよ)

 神主や坊主の様な宗教関係者は忍を嫌う者が多いし、権蔵も神仏を信じないので仕事で忍び込む以外は無縁であった。


(ここに並んでる奴等も、何かあったら一向宗の奴等みたく狂っちまうのか。そいつは勘弁して欲しいな)

 権蔵が神社仏閣の中で、一番多く忍び込んだのは一向宗の寺である。

 権蔵は腕を斬られた老婆が武士に向かっていく姿を見て恐怖を覚えた事もあるし、仲間の忍が一向宗に入り危うく殺されかけた事もあった。


(いもしねえ仏で狂うんだから、実際に会える神様の信者なんて関わりたくねえな)



――――――――――――――――


 並んで六時間が経った頃、権蔵はようやく神殿に入る事を許された。


「長い時間お待ちになられて御苦労様でした。今回は拝礼でございますか」

 四十を幾つか過ぎた中年の神官は奢る様子も見せずに、親切な対応をみせる。


(神様に見張られていちゃ、威を借りて威張る事も出来ねえか)


「大変ご無礼に当たるとは思うのですが、これをアイアイエ島のキルケ様からお預かりして参りました。私は鉄の槌と言う宿屋に泊まっておりますので、何卒(なにとぞ)よろしくお願い致します」

 権蔵は床に頭を着ける様にして、キルケの紹介状を差し出した。


「アイアイエ島のキルケ様ですね。ヘパイストス様からお話は伺っております。明日にでも神殿の者が日時を伝えに行きますので」


(やっぱり、神様はとうにご存知か…俺なんざ人外の者なんだがな)


――――――――――――――――


 ヘパイストスはキルケの紹介状を見てほくそ笑んでいる。


「ホリスモスの男が来たか。しかし、叔父上も随分と面白れえ奴を選んだな。こりゃ金髪甘ったれ小僧の相手には丁度良いや」


 ヘパイストスの持つ鏡には、権蔵と広場にいた金髪の男が写っていた。


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