下忍と魔女
久しぶりの更新です
エルフの里からのアスブロへの帰路、権蔵は珍しく馬車に乗っていた。
「姉さん、もう自分の足で歩きますから…それと離してもらえませんか?」
「だーめー!!ゴンちゃんの傷はまだきちんと治ってないんだよ。大人しくお姉ちゃんに抱っこされていなさい」
プリムラは大きなヌイグルミを抱える様にして権蔵の体に手を巻き付けて押さえ込んでいた。
一方の権蔵は足を床に放り出して、なんとも情けない顔をしている。
しかし、こうでもしないと彼女の義弟は隙を見計らって外に出ようとのするのだ。
「プリムラとゴンゾウ君は随分と仲が良いんだな」
馬車に同乗しているアニュレが笑みを浮かべながらプリムラに話し掛ける。
「アニュレちゃん分かる?手が掛かる弟は可愛いんだよ」
「それでそのキルケ殿とは、どんな方なんですか?」
権蔵としては手が掛かるなんて呼ばれ方は不本意であるが、義姉の性格を考えると話を切り替えた方が得策である。
「キルケ様は高名な魔女で薬作りの天才さ。私達、薬学に携わる者にとっては神の様なお方だ」
アクエリアスの族長は一連の騒動を聞きアニュレをキルケの元で修行させる事にしたのだった。
何しろキルケ自身が強力な魔女のうえに太陽神ヘリオスの娘であるから手出しを出来る者は殆んどいない。
「キルケ様は僕達エルフより長生きな方だけど未だに恋する乙女なんだよね。今のお気に入りはジェミニの男の子なんでしょ?相変わらずキルケ様は美男子が好きだよね」
その繋がりとアニュレの才能もありキルケの元で修行が可能となったとの事。
「ああ、キルケ様は気に入った男がいると島から出さないらしいがな」
義弟が世間一般の美男子やキルケの好みから大きくかけ離れているので、その点ではプリムラは安心している。
「それで今回はキルケ殿の所にアルエット殿を送り届ければ良いんですね」
キルケはアスブロから遠く離れたアイアイエ島にいるとの事。
「流石に私一人でアイアイエ島まで行くのはきついからな。護衛をお願いする」
権蔵達なら馬車を持っているし同じエルフのプリムラもいる、何より権蔵の強さはエルフの間でも評判となっていた。
「しかし、船旅ですか。俺の国じゃ板子一枚下は地獄って言うんですよ」
自分の運命を舟に託すのは権蔵の性に合わないらしい。
「大丈夫だよ、アイアイエ島がある海は穏やかなんだから。ゴンちゃんは泳げるの?」
「忍びは水遁の術を使って川や池に潜って逃げる事が多いですからね。それに川や海に潜って良く魚を捕まえて食ってましたよ」
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権蔵達は1度アスブロに寄りメイトレフォン王女に今までの詳細とキルケの元にアニュレを送り届ける事を報告すると、アイアイエ島へと向かう準備に入った。
アイアイエ島には馬車で10日移動した後に舟で行かなければならない。
馬を休ませる必要もあるし食料を買う必要がある。
「ゴンちゃん、もしキルケ様の塔にお呼ばれしてもご飯を食べちゃ駄目だよ。前にキルケ様のご飯を食べた人が豚さんに変わった事があるんだから」
「人を豚に変えたんですか?しかし、飯を出されて食べないのは失礼になりませんかね?…下手な演技は通じない方なんですよね」
「キルケ様は伝説の魔女だからね。この会話も見てるかも知れないんだよ」
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プリムラの言った通りキルケは権蔵達の様子を自分の塔から見ていた。
「あらあらあら、これは久しぶりに面白いお客様が来るわね。特におじ様のお気に入りだっていう猿人の男の子面白いわね…試しちゃおうからしら」
キルケは妖艶な笑みを浮かべた、本当に楽しそうに微笑んだ。
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