下忍に降りかかる試練
権蔵がベッドから起き上がろうとした瞬間、プリムラの叱責がとんできた。
「怪我人は大人しく寝てなさい。毒は薬で消えたけど傷はまだきちんと塞がってないんだからね」
「血が止まってれば問題ありません、傷が開かない様に動きますから。それにヴァルゴで待ってるソフィア殿に連絡をしなきゃいけませんし」
権蔵はヴァルゴまでひとっ走りして遅れた理由を伝えるつもりでいた。
「連絡なら昨日のうちにお姉ちゃんがしておきました。全く、この子はお姉ちゃんがどれだけ心配したか分かってるの!?」
「それなら道具の手入れでもしますよ」
権蔵の刀にはキャナリーの血がまだ着いている筈なので早めに手入れをする必要がある。
「駄目!!今日1日はベッドの上で大人しく寝てなさい」
「寝台で黙って寝ていろって言うんですか?勘弁して下さいよ」
プリムラはずっと泣いていた為か目が腫れており、それを見た権蔵は強く逆らえないでいた。
「…姉さん、誰か来ますよ」
足音は消してあるが、徐々に近付いてくる気配を権蔵は感じ取っていた。
「プリムラ様、アルエットはお邪魔してませんか?」
部屋に入ってきたのは豪奢な服に身を包んだエルフの男性、その顔は青ざめ冷や汗を流している。
「アクイラ様、エアリースに来てからアルエットちゃんには会ってませんが」
部屋に入ってきたのはエアリースの族長アクイラであった。
「アクイラ様、アルエットは町中にはいないようです。恐らくまだ戻って来てない思われます」
続いてアクエアリズのアニュレも部屋に入ってくる。
その顔はアクイラと同じく青ざめており何か緊急事態が起きた事だけは権蔵やプリムラにも分かった。
「そんな!!予定ではもうとっくに戻って来てる筈なのに」
「何があったか教えてもらえますか?人を探すには人数がいた方が楽ですよ。及ばずながら俺も協力させてもらいます」
義姉の冷たい視線を感じながらも権蔵はアクイラに声を掛けた。
アクイラの話によるとアルエットはバイシスの族長の所に織物を届けに行っているとの事。
通常なら他の者や貿易を生業とするジェミニに頼むのだが今回はバイシスの族長の息子に跡取りとなる赤ん坊が生まれたので祝いの産着をアルエットが自ら仕立てて届ける事になった。
そのアルエットの帰りが予定よりも2時間近くも遅れているらしい。
(歩きでも2時間の誤差は何があったかと考えてもおかしくはないか…今、エアリースには俺がいる。獅子姫の奴、俺の試しをしてるんじゃねえか?)
権蔵はレオのザンナが自分に向けた粘っこい視線を思い出す。
異性としてではなく使える道具を見つけた様な嬉々とした視線である。
「バイシスとの境まで時間はどれぐらい掛かるんですか?俺がひとっ走りして見てきますよ」
そう良いながら権蔵は寝台を降りて手早く刀を拭い始めた。
「ゴンちゃん、何言ってるの!!傷が開いたらどうするの!!」
「姉さん、素早く動けて緊急事態に対処出来る奴が他にいますか?一刻遅れれば取り返しがつかない事になるかもしれないんですよ」
そう、プリムラやリリーと同じ目にアルエットが合う可能性が高い。
権蔵は2度もエルフの族長の娘を取り返している。
逆に言えば2度も納品出来なかった事になる。
矢のような催促があったのかもしれない。
それなら「奪還を防げる人材を寄越して下さい」と言っただろう。
権蔵が阻止すれば権蔵の実力を確かめれるし、防げなければ派遣した側の責任となる。
「それなら私が着いて行こう。道案内も出来るしゴンゾウに何かあったら私が応急処置をする」
そう申し出たのアクエリアズのアニュレ
であった。
「アニュレちゃんは戦えないでしょ。それにゴンちゃんの動きを知ってるのは僕だけだから僕がついてくよ」
負けじとプリムラが名乗りをあげる。
「すいませんが、今回は1人働きにさせてもらいます。アルエット殿の特徴を教えてもらえますか?」
アルエットの特徴を確認した下忍は怪我人とは思えない素早さで動き出す。
まだ痛む体の傷と共に。
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