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第2話 1

目を開けると目の前は真っ白な空間だった。

「ここはどこだろう?」

優一は思わず呟いた。

周りを見渡しても真っ白な空間がどこまでも広がるばかり。


しかし、優一は思い出す。

ここには一度来たことがある。

絶が見せた結衣の過去の映像の後に辿り着いた場所。


突如、優一の後ろから嗚咽が聞こえた。

声からするに恐らく《あの》少女。

真っ白な肌に真っ白な髪、紅の瞳の謎の少女。


嗚咽は徐々に大きくなり、しまいには少女の泣きじゃくる声に変わる。

優一は声のする方向へ向かった。


少女の服が真っ黒なこともあり、すぐに少女を見つけることができた。

少女に優一が近付くが、少女は泣きじゃくっているため優一に気が付かなかった。


「どうしたんだい?」

優一は後ろから少女の頭に手を置き話しかける。

その瞬間、少女はビクッと跳ねたが、優一の顔を見て驚愕の顔をした。

「なんで、あなたが…」

少女は消えそうな声で呟いた。


「えっと、気が付いたらここにいたんだ。…じゃなくて、一体どうしたの?」

優一は少女の顔に流れる涙を手で拭いながら言った。


「あなたとは出会ってはいけないのに…あなたとは関わってはいけないのに…一体どうしたらいいの?」

少女は天を仰ぎながら再び涙を流し始めた。


「わっわっ、ちょっと泣かないで」

優一は慌てながら、少女の涙を拭う。


そして、少女の涙が止まったところで、

「なんで、僕と出会ってはいけないの?」優一はそう切り出した。


少女はズズッと鼻啜ると

「だって私は《バケモノ》なのだから」

どこかで聞いたことある言い回しでそう少女は呟いた。

「バケ…モノ…?」

優一は思わず、少女の発したそのワンフレーズのみを繰り返してしまった。


「そう、私は《バケモノ》なの。だから人間のあなたとは出会ってはいけないの。関わってはいけないの。」

少女の紅い瞳にまた大粒の涙が溜まる。


「ううん、駄目だよ、自分のこと《バケモノ》なんて言っちゃ。」

優一の目の前に居る少女は肌が真っ白なことと紅の瞳以外は至って普通の人間に見えた。

「君は《バケモノ》なんかじゃないよ。…君の名前を聞かせてもらえる?」

優一は少女の瞳に溜まった涙を拭いながら少女に尋ねた。


「…ない」

「えっ…」

優一は思わず息を詰まらせた。

「そんなのないの。私は存在しない。両親も存在しない。存在してはいけない《バケモノ》なのだから」

少女は悲しそうにそう言うと、少女はまた泣き出してしまった。


優一は困ったような顔をしたが、すぐに何かを決心した表情になり、少女の顔を両手で掴み、優一と少女が向き合う形になる。

「なら、僕が君に名前をあげる。…サクヤ、君の名前はサクヤだ」

優一はそう言い、さらに続けた

「《闇》の切り《裂く》真っ白な女の子だから、《裂く》と《闇》をくっつけて裂闇サクヤだ」

優一はそう言うと、うんうんと頷く。


「でも私はバケ」

「バケモノじゃない。君はサクヤだ」

少女の否定させる間もなく、優一は続けた。

「《バケモノ》だなんて言わせない。そんなの僕が認めない」

優一は強く、強く、少女に言い聞かせるように言った。


途端に少女は大粒の涙を流し始めた。

「えっ、もしかして、名前気に入らなかった。」

優一は慌てた顔で少女に聞いた。


「私が…名前なんてもらっていいの?」

少女はそう呟き、優一の顔を仰ぎ見た。

優一は優しそうな顔で、

「当たり前じゃんか、君は《バケモノ》なんかじゃない。君は今日、いや、今この時から《サクヤ》だよ」

優一はそう言うと、小さな少女の身体を抱き寄せた。


少女、《サクヤ》は優一の胸の中で大きな声を挙げ泣いた。大声で泣き続ける少女、《サクヤ》を抱きしめながら、優一は思う。


自分のことを《バケモノ》と罵るからには理由があるはず、

終夜だってそうだった。

人よりも強い力を持ち、背中には人ではないものを、《紅い翼》を生やしていた。


しかし、優一の目の前に居る少女には何ら不思議なところは見当たらない。


不思議なところを強いて言えば、

肌と髪が白すぎるぐらい白く、瞳が紅いところだけだった。


(じゃあ、なんで…?)

優一が考えている間にサクヤはいつの間にやら泣き止み、優一の顔を覗き込んでいた。


優一は少女と目が合い、


一体どうして自分のことをバケモノなんて言うの?


なんて、言いそうになったが敢えてその言葉を飲み込み

「此処は一体どこなんだい?」

と、見当違いなことを言った。


《バケモノ》ワードを今はあまり使いたくなかったのだ。

恐らく、その言葉を使えばまたサクヤは泣き出してしまう。

優一としても、彼女に泣かれることは嫌だった。


それにあながち見当違いな話でもなかった。

優一はこの場所を知らない。

此処がどこなのか見当も付かない。

前来た時は気が付いたら意識を失い、元居た場所に戻っていた。

なので、この場所に住んでいるであろう彼女、サクヤに尋ねてみたのだった。


「此処はね、えっと…優一と私の精神世界って感じかな。」


「えっ?」

優一の頭に「?」が沢山浮かぶ。

精神世界なんて言葉は聞いたことがない。

どんなものかもしらない。


「それって一体…」

「それとね、」

優一の発言はサクヤにかき消される。


「私は此処からは自分の力じゃ出られないの」

彼女はそう言い、再び俯いた。優一の頭は混乱していた。


目の前に居る少女、サクヤが何を言っているのか理解できない。

なので、優一は困ったよう顔でサクヤの顔を見ることしか出来ない。


「出れないも何も、もともとここは優一だけの世界で、私が勝手に居るだけなんだけどね。そして、もう、自分の力じゃ出られないの」

サクヤは俯いていた顔を上げ、困ったような顔で答える。

サクヤの両目には再びうっすらと涙が浮かんでいた。


「ねぇ、サクヤ。ちょっと聞いてもいいかな?」

優一は真っ直ぐ顔を見据えてこう言った。

分からないことが多すぎたので、ひとつずつ片付けることにしたのだ。


「ええっと、うん。いいよ。」

サクヤはうっすら溜まった涙を拭き取りながら言った。


「サクヤ、君は一体何者なの?」

優一がそう聞くとサクヤの顔が強張った。

そのサクヤの反応に優一は直ぐに気付き、

「バケモノとか、そういう問題じゃなくて、サクヤのこと、何も知らないからさ。サクヤのことを知りたいって思ってね」

優一は優しく微笑みながら訂正した。


その言葉を聞き、サクヤは直ぐに顔の強張りは消え失せ、

「そうだよね。私のこと何も優一は知らないもんね。分かった。私のこと全部話すね」

サクヤは優一の前に上品に座り込んだ。

優一をサクヤにつられ、サクヤの目の前に胡座をかいて座り込んだ。


そして、サクヤはゆっくり語り出した。「私は、何もないところから生まれたの。そして、私の中にある《力》は巨大すぎたの。その力を恐れた《ある者》は私は精神世界に閉じ込められた。」


とても、優一には信じられる話ではなかった。

とても目の前に居る少女にそんな危険な存在には思えなかった。


「そして、私は生まれてすぐに誰かの精神世界に閉じ込められたの。そして、その人の命が燃え尽きるまで私はその人の精神世界に閉じ込められる。そして、その人の命が燃え尽きる時、私はまた違う人の精神世界に飛ばされて、その精神世界に閉じ込められる。それのずっと繰り返して来たの。そして、優一、あなたは159番目の人なの。」


優一は衝撃を受けた。

目の前に居る、明らかに自分より年下に見える少女が自分より遥かに、いや、考えれるのが馬鹿らしいほど年上であることに。

だが、ひとつの疑問が浮かんだ。


「でも、さっき誰かの力を借りれれば出られるようなこと言ってなかった?」


そうなのだ。

先ほど彼女は「自分の力では出られない」と言った。

つまり、誰かの力を借りれればいいということ。


「あっもしかして、とても強い力がないといけないことだった?」


サクヤは巨大すぎた《力》のせいで、精神世界に閉じ込められた。

つまり、そこから出してあげるためにはそれよりも巨大な力が必要だということ。


だが、サクヤから返ってきた返事は、優一の考えとかけ離れていた。



「ううん、そんなことないよ。寧ろ誰にだって出来るよ。もちろん、優一にだって出来るよ。それはとっても簡単なこと」

サクヤはそこで一旦言葉を切り、優一の瞳を真っ直ぐ見る。


「私の両手を握って、あなたが付けてくれた私の《名前》を呼んでくれればいいの」



「…えっ?」

思わず優一は声を出してしまった。

優一が考えていたのとはかけ離れていたからだ。


「たったそれだけなの?」

優一はサクヤの言葉を信じることが出来ない。

先ほど彼女は、自分の力が巨大すぎたため閉じ込められたと言った。

ここからサクヤが出る方法も簡単だとも言った。

だが、あまりにも簡単すぎる。

出る方法がこれでは簡単にサクヤは出れたはずだ。



「それだけだよ」

サクヤは間髪入れずに頷いた。

サクヤの目には何の迷いもなく、疑う術ももうない。

なら、優一が出来ることはひとつ。


「なら、さっさとここから出よう。さっ両手前に出して」

優一はサクヤを早速両手を前に出して、サクヤの両手が出てくるのを待った。

だがなかなかサクヤの両手は出てこない。

いまだに、サクヤの横に握り拳を作って置いたままだった。

そこで優一はサクヤの顔を覗き見る。

サクヤはぐっと下唇を噛み締めて俯いている。


「えっ?どうかしたの、サクヤ?」

優一は声をかける。

その声にサクヤは身体をビクつかせながらも優一の顔を見た。

そして、

「…もし、辛くなったら直ぐに手を放してね、そうすればきっと無事だから」

そう消えそうな声で言うと、サクヤはおずおずと両手を優一の前に出した。


「それってどういう意…まあいいや。んじゃ早速始めるよ」

優一は一瞬、サクヤの言った言葉に疑問を持った。

ただサクヤの両手を握って、名前を呼ぶだけなのだから何の危険もないはずなのだ。

なので、優一は何の躊躇いもなく、サクヤの両手を握った。


いや、《握って》しまった。真っ白な空間でドンッと音を立て、尻餅をつく人が1人。

全身に汗を掻き、肩で息をしている。


それは、紛れもない、優一だった。


「…な、にいま、の?」

息も絶え絶えに優一は視線をブレさせながらおもむろに口にした。


「やっぱり、優一でも無理なのよ」

サクヤはそう言うと両手で目を押さえ泣き出してしまった。



それは優一がサクヤの両手を握った瞬間に起こった。

サクヤの両手を握った瞬間優一の視界からサクヤが消える。

そして、優一の身体に異変が起こった。


右目に映る世界は明るい、いや明るすぎる真っ白な光に照らされ続ける。

そして、左目に映る世界は、先ほどの世界とは真逆の世界。

《黒》が覆い尽くされていた。

一寸先も見えない真っ暗闇。

優一の両目が別々の世界に放り込まれたような感覚。

そのそれぞれ別々の世界で、優一は両手を見た。

右手はその光に焼かれ燃えていた。

左手は闇に溶かされていた。まるで、アイスが溶けるように。


そして、沢山の感覚が頭に叩き込まれる。

痛い、苦しい、暑い、寒い。

それぞれ別々の感覚が次々に頭に叩き込まれ優一は悲鳴を上げながら後ろに倒れた。

そして、冒頭部分に戻る。


優一は理解した。

恐らく、この《現象》のせいでサクヤは出ることが出来ないのだということを。

そして、両手を握る前に言ったサクヤの言葉の意味を。





サクヤは両手に目を当て泣きじゃくる。

この前も、その前も、ずっとずっと前も、何人もの人がサクヤの前に現れてくれた。

そして、ここから出してあげるといい、サクヤの両手を握る。

その結果は失敗に終わる。

そして、サクヤをバケモノと罵り、逃げて行く。

そう言った人々を沢山見てきた。

なので、サクヤは自分を《バケモノ》だと理解していた。

だが、またも目の前に居る優一に期待してしまった。

今まで出会った人々とは少し違った少年、優一なら出来るかもしれないと思った。

だが、結果は同じ。


そして、その後にまた《バケモノ》と呼ばれるとサクヤの頭に浮かんだ。


「お願い!!もう、私はここから出ないでもいいから、私のことを《バケモノ》って呼ばないで!!私から逃げないで!!私を…私を独りにしないでぇ…」

最後は消えてしまいそうな声でサクヤは言った。呼吸を整え、優一は立ち上がる。

その優一が動いたことでサクヤは動揺する。

今までの人達と同じように自分のことを《バケモノ》と罵り逃げ出すのだと思った。

あんなにも懇願したのに、

今までの人達とは違うのだと思ったのに、

サクヤは悲しくてしょうがなかった。

なのでサクヤはさらに俯き大粒の涙を流す。

膝を抱えて涙を流す。

優一の顔を見ないのは、自分のことを恐怖いっぱいで見ている優一の顔が見たくなかったから。

流れる涙が膝を濡らし、身体を冷やし始める。

自分がまたひとりになったのだと理解する。


「もう独りは嫌だよ。誰か、助けて…」

誰にも聞こえないであろう声でサクヤは呟いた。


その時だった。

サクヤの身体に《何か》が纏わりつく。

その《何か》は後ろから纏わりつく。

いや、誰かがサクヤに後ろから抱き付いている。

背中から暖かい《何か》が包み込んでくれる。

そして、《何か》の手がサクヤの顔に触れ、サクヤの涙を拭う。

サクヤはこの手を知っている。

サクヤはこの温もりを知っている。


「大丈夫。逃げはしない。《バケモノ》だなんて言わせない。もう、独りになんてさせない。僕が君を助けるよ」


サクヤはこの声を知っている。

もう、いなくなったと思っていたのに、

もう、逃げてしまったと思っていたのに


「ひっく、ゆういちぃぃぃ!!」

サクヤは《望月優一》に思いっきり抱き付いた。




優一の心の中は呼吸を整え終わった時にはすでに決まっている。

あの現象のせいで今までの長い間サクヤを助けることが出来なかったのだということは分かった。

そして、そのあの現象がサクヤの力であることも分かった。


恐らく、何人もの人達が自分と同じようにサクヤに触れて、左折したのだと、

そして、サクヤを《バケモノ》だと呼んだのだと優一は思った。サクヤは確かに巨大な力を持っている。

だけど、《バケモノ》なんかじゃない。

そう呼んできたのは今までの人達だ。

そして、サクヤはそのことをあまりにも真っ直ぐに受け止めすぎてしまった。


そのために、自分のことを《バケモノ》だと思い込んでいる。


この前出来た友達の、《天城終夜》と同じだと優一は直感的に理解する。



抱き付いてきたサクヤの顔に手を伸ばして、流れる涙を手で拭う。


だが、サクヤは終夜とはちがう。

サクヤはあまりに儚くて、脆い。

なので、サクヤ自身ではどうしようも出来ない。

そして、サクヤは助けを求めている。

独りは嫌だと泣いている。


ならば、優一はどうする?

そんなの考えるまでもなかった。


恐らく、ここから逃げ出すことは簡単だろう。

だが、その行動はサクヤを大いに傷付ける。

そして、サクヤは自分のことを《バケモノ》なのだと完全に思い込む。

心が完全に壊れる。

そんなこと、させたくない。

優一にはそれで十分だった。

目の前にいる出逢って間もない少女を救うのはそれだけで十分。

いや、助けを求めているだけでもう十分だった。


「サクヤ、絶対に君を救ってみせるよ」

そう、サクヤに自分の決心を告げ、

驚いた表情のサクヤの両手を握り締めた。




そして、優一はまたこの異様な空間に戻ってきた。

相変わらず、左右の瞳が映す景色は違い、また、さまざまな感覚を頭に叩き込まれる。

だが、優一には考えがあった。

この感覚に頭が壊れる前に、サクヤの名前を言えばいいのだ。


叩き込まれる感覚を振り切り、優一は叫ぶ。

だが、優一の口からは何も発せられることはなかった。優一の口から《サクヤ》の3文字の言葉が出て来ない。

何回も何回も試すが、全く変わらない。


そして、やってくる感覚、感情の波が頭に叩き込まれる。

身体は痙攣を起こして、動かない。

頭は色んなものがごちゃ混ぜで何も考えられない。

優一が出来ることは、

「がぁぁぁぁっ!!」

叫び声をあげて、耐えることしかできなかった。

終わることない、痛み、苦しみにずっと耐えることしかできなかった。



「もういい、もう私のことはいいから…お願い、もう止めて…」

優一の頭にサクヤの声が響いた。


「もう独りでもいいから、もうバケモノでもいいから、これ以上苦しまないで」

その声はサクヤが懇願しているように聞こえた。


「そ、んなこ、とでき、ない。僕は、止めな、いよ。」

優一は途切れながら言葉を紡いだ。

そして、さらに強くサクヤの両手を掴み、

「絶、対に救って、みせ、るから」

そう言い、優一は微笑んだ。


その優一の視界が暗転した。

今度は両目とも真っ暗闇の空間に放り込まれている。

だが、先ほどまでの痛みも苦しみもなにもなかった。

そして、いつの間にか優一の両手には2つの剣が握られていた。


一つは真っ黒に彩られた湾曲した剣。

もうひとつは真っ白一色の真っ直ぐ伸びた剣。

優一はいまいち状況が理解出来ず、目を白黒させていた。


「お主が握っているのは、あの女の《力》そのものだ。お主はそれを受け取ることが出来る。お主は我が試練に耐えきったのだ。」

突然の低い男の声。


「それってどういう意味ですか?」

優一は少し驚いたが、直ぐに切り返すことが出来た。


「いわゆる《褒美》だ。お主はその力を得ることが出来る。その力があればお主は何でも願いが叶う。ただ、あの女は死ぬがな。」

感情のない声が当たり一面に響いた。

優一の両手に握られている力を使えば何でも夢が叶う。

「さあ、お主はどうする?」

そんなことはもう最初から決まっている。

両手の剣を頭上で合わせる。

「僕が今、叶えたいのはただひとつです。彼女を救う。それだけです。」


そして、優一は両手に力を込め、思いっきり叫んだ。


「サクヤァァァァァ!!」


その瞬間、真っ暗闇の空間に罅が入り崩れ出す。


「そうか…ならば、後は頼むぞ、少年。彼女を幸せにしてやってくれ」

最後に優一の耳に聞こえた声は、酷く優しい声だった。


完全に真っ暗闇の世界が崩れ、上から、サクヤが両手を広げ落ちてくる。


両手に持った剣を地面に刺し、優一も両手を広げ、サクヤを受け止めようとして…




「あだぁっ!!」

優一は落ちた。

慌てて優一は目を開ける。

そこはよく見覚えのある部屋、優一の部屋だった。

「…あれっ?」

優一は当たりを見渡してもいつもと変わらない自分の部屋。

あの真っ白な空間ではなく、自分の部屋。

そして、一つの仮定が生まれた。


あれば、全部《夢》だった。

いわゆる、夢オチ。

まあ、夢を見ながら、ベッドから落ちたので、こっちも夢オチだが…


頭をボリボリ掻きながら時計を見る。

現在、午前4時。


「…寝直そう」

優一はため息を吐きながらベッドに潜り込む。



何故だか、ベッドの中に何かが入っている。

抱き枕なんてなかったような気がするだけどなぁ、なんて考えていると、それが動き出し、優一に飛びついた。

その反動で再びベッドの下に落下。

お尻をさすりながら、飛び込んで来たものを見る。


雪のような真っ白の髪と肌、紅い瞳をもち、黒いドレスのような服を纏った、

「これから、ずーっとよろしくね。優一。」

あの《サクヤ》本人だった。


「ええぇぇぇっ!?」

優一の絶叫が優一の家にこだましていた

優一が絶叫したのにも関わらず、優一の両親が目覚めたような様子はみえず、優一はホッと胸をなで下ろした。



その後、優一はとりあえず自分が絶叫する事になった人物を見る。


目の前の人物、サクヤはこれ以上にない笑顔になっている。


「んで、あれは全部本当だったんだ…」

思わず、優一は呟いた。


ほんの少し前までは、夢だったんではないかと思っていたことが本当のことだった。

目の前にいるサクヤはもう精神世界に縛られることは無くなったのだ。

現にサクヤは優一の目の前に居るのだから

「ずっと、ずっと、ずーっと一緒だよ。ゆーいち」

サクヤはそう喜びの声をあげ、優一に飛びつく。


「はいはい、出て来られて良かったね」

と、サクヤを片手で制しながら答える。


そんな時であった。

「一体どうしたの~?」

と、間延びした声と共に、優一の部屋のドアが急に開く。

入ってきた人物と優一は目が合い、しばし沈黙が生まれる。


「その子一体、誰?お兄ちゃん」

若干、声のトーンを下げながら、優一の正面に立つ人物、優一の妹、理沙は言い放った。


「えっと、その…なんていったらいいやら」

優一は動揺しまくりながら、受け答える。

「もう一度、聞くよ。お兄ちゃん。その子はいった…あれ?いない?」

その声を聞き、優一も先ほどサクヤがいた方を見る。

そこには誰もおらず、ベッドだけがあった

「あれっ?おかしいなぁ?」


「きっと、何かの見間違いだって、さて、起きるのにはまだ早いし、もう1回寝直そうよ。」

優一は、そう言いながら、理沙を部屋から押し出し、ドアを閉める。

あれっ?確かに見えたんだけどなぁ、なんて言いながら理沙は自分の部屋に帰っていった。


理沙が自分の部屋に戻るのを確認して、ホッと一息を吐く。


「バレなかった?私としてはバレちゃっても良かったんだけど」

突然聞こえた声に、声をあげながら驚く優一。

それも、そのはず。

先ほどまで姿の見えなかったサクヤが優一の目の前に姿を表したのだから。優一が驚いていることが不思議に思い、サクヤは難しそうな顔をしている。


「えっと、サクヤ。今までどこに居たの?」


優一の質問に、サクヤはハッとした顔になり、

「そうだっね、言うの忘れてたね。」

サクヤは少し恥ずかしそうに頭を掻いた。

「えっとね、優一の精神世界に隠れてたんだよ。優一が精神世界からの呪縛を解いてくれたおかげで優一の精神世界と外の世界、つまりこの世界と行き来が自由になったんだよ」


「あぁ、そう言うこと」

ポンッと手を叩き納得した優一。


だが、その力は万能とはいえず、多少の時間が掛かるらしい。

現に、優一の妹の理沙には一瞬姿を見られてしまった。


その後に直ぐに精神世界に隠れたため、事なきを得た。



だが、出て来て最初の言葉の一部分が優一の頭に引っかかる。

「(バレちゃっても良かったんだけど)」


「でも、何で《バレちゃっても良い》なんて言ったの?」


その言葉を聞き、サクヤは少し頬を赤らめながら、指を弄くり始め、

「挨拶はやっぱりしとかないといけないかなぁって思って」

小さな声でぼそぼそと呟く。


「んじゃ、今日の昼ぐらいに家族にサクヤのこと説明するよ。だから、サクヤも一緒に説明してね」

その言葉を聞きサクヤは笑顔を浮かべ、

「うん、優一の《お嫁さん》にしてもらえるようにがんばるね」

意気揚々にサクヤは応えた。

優一はガンッと頭を壁にぶつける。


「何で、そう言うことになるのかなぁ?」

優一の顔は若干引きつっている。


「だって《ずっと一緒に居る》って言ってくれたじゃない。つまり、け、結婚するってことだ…って優一どうしたの?」

優一は最後までサクヤの言葉を聞かずにベッドに飛び込み、

「僕、眠いから寝るねぇ。オヤスミ」

優一は目を閉じる。


サクヤの猛抗議が続いているが、優一の頭の中には、

(さあ、どう説明しよう…)

という不安の気持ちでいっぱいだった。

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