第2話 6
カラン、と音を立てて終夜は双剣を手から落とした。
「…なんで、あんたが…」
終夜が見た狐の仮面に隠されていた素顔。それは、今日の朝出会った銀髪の青年だった。
「出来れば私も会いたくなかった」
銀髪の青年はそう言い、終夜を睨みつけた。
「私はあの御方のためなら何でもする。それだけのことをあの御方は私にしてくださった。」
「一体、何を…?」
想像もしてなかった人と再開し、いきなり話し始めた青年に終夜は困惑した。
「私は昔、大事故に巻き込まれて身体の大部分を失った。そんな私を救い、今まで育てて下さったのだ、あの御方は。ならば私はあの御方のために何でもする。例え人を傷つけること、殺すことも構わない。私は何も感じず、ひたすら任務を果たす」
先ほど同じような言葉。
しかし、終夜は怒鳴ることは出来なかった。
「だったらなんで、あんたは涙を流しているんだ?」
何故なら、青年の顔は涙で埋め尽くされていたから。
「私は何も感じない。感情を捨てたのだ。そして私は与えられた任務をこなす。お前と戦い戦闘データを手に入れる」
そこまで言うと、再び頬に涙が流れた。
そして、その流れた涙が地面に落ちた瞬間、青年は高周波ブレードを構え終夜へ向け駆け出した。
「(私は誰かが傷付くのはみたくない)」
終夜の心の中に目の前に迫る青年の言葉を思い出す。
振り下ろされる剣を何とか回避し、終夜は距離を取る。
「あんたは感情をまだ捨ててはいない!!その涙がその証拠だ。あんたはこんなこと望んじゃいないんだ」
「だまれ。私はtype01。あの御方の為だけに生きる。私の望みなど知ったことか」
「もう止めろ!!こんなことしてもあんたが苦しいだけだ」
「それでも構わない。あの御方の役に立てるのであれば」
青年はそういうと再び終夜へ向け駆け出した。青年はあっという間に終夜に接近し、両手の剣を振り下ろす。
轟音と共に舞う砂埃。
「だったら…」
砂埃はすぐに晴れ、青年の一撃を紙一重で避けた終夜が呟く。
「だったら、俺が止めてみせる!!あんたの《心》を救ってみせる!!」
そういうと、終夜は右手に最大限の力を込め、振り下ろされた剣の横方向から拳を打ち出す。
終夜のグローブのプレート部が青年の剣に触れた途端に罅が入る。
圧倒的な力の差。
青年の武器はとても高い力を持っている。
だが、終夜は引かなった。
「例え、この身砕けようとも、俺は…俺はあんたを救い出す!!」
終夜はグローブに罅が入っているのにも関わらず、さらに一歩前に足を踏み出した。
そして、さらに拳を前に打ち出す。
「うおぉぉぉぉぉ!!」
終夜の声と共に、終夜のグローブは粉々に砕け散る。
しかし、砕け散ったのは終夜のグローブだけではなかった。
青年の持っていた2つの剣、その2つ共が剣の中間部分でポッキリ折れていた。
肩で呼吸をする終夜、
武器をなくした青年、
肩で呼吸をしていながらも、武器を失った青年に自分は負けるはずないと終夜は思っていた。
「救う…だと?」
そういうと、青年は右手を握り締め、終夜の顔に打ち出した。
何ともないただの人間の一撃。
そう考えていた終夜は間違っていた。
終夜の顔にのめり込む一撃。
そして吹き飛ばされる終夜の身体。
何度も何度も地面を転げ回り、何とか止まる。
「みろ。この強化骨格と人工筋肉により人間の限界を超えた身体能力を。私はもう人ではない」
終夜はあちこち悲鳴を上げる身体に鞭打ち、青年の顔をみる
「私の名前はtype01。人間を超えたアンドロイドだ」
それは、何処か悲しそうに見えた。
「それに、私の力はこれだけではないぞ」
青年はそういうと、右手を前へ突き出した。
その時、銀色の小さな粒子が青年の右手に集まりだした。
青年の右手に粒子が集まり、集まった粒子が霧散すると、青年の右手には先ほど終夜が折った剣が握られていた。
「ナノマシンだ。目にも見えない小さな粒子が集まり、この高周波ブレードは形成されている。先ほどの銃もナノマシンで作ったものだ。ナノマシンは私の考えた通りのものを作り出してくれる」
先ほどの銃は威力を限界ギリギリまで引き上げ、創り出されたものだった。
もちろん、弾丸もナノマシンでできているので弾切れも起こらない。
「そして、私の体内にも同様のナノマシンが流れており、強化骨格や人工筋肉の動きを助長している。このようにな」
言葉が終わると同時に青年は終夜に肉薄し、回し蹴りを浴びせる。
終夜は再び身体や頭を打ち付けながら転がっていく。
「分かったか。もう私は人間ではないのだ」
青年は終夜を睨み付けながらそう言うと右耳の後ろに指を当てた。
――私だ。聞こえるか?type01――
青年のナノマシンの力の一つ。
ナノマシン独自の無線だった。
右耳の後ろに指を当てることにより特定の人物と会話が可能。
――なんでしょう?博士――
――データ収集は終わった。後は、そこにいる少年を排除しろ――
――…殺すと言うことですか?――
――そうだ。彼は危険すぎる。下手をすると私の研究の障害にもなるかもしれないからな――
――…了解です――
「人間じゃない?いや、違う。あんたは人間だ」
青年は通信を終え、前を見ると終夜が頭から血を流しながらも、真っ直ぐ青年を見ながら立っていた。
だが、限界が近いのか足はガタガタと震えている。
「あんたには、まだ心が残っている。心がある限りあんたは人間だよ」
「貴様に何が分かる」
青年は吠えると右手に持っている剣を横薙に払う。
鮮血が飛び、終夜の頬に一筋の赤い線が通る。
「分からないな。だが、これだけは分かる。あんたは今、悲しんでいる。悲しみ続けている。なら、俺はあんたのその悲しみの連鎖の終止符を打つ。悲しみの連鎖を救ってみせる」
「戯れ言を。ならば私は、お前を…殺す。あの御方もそれを望んでいるからな」「《あの御方》なんて関係ない。あんたは一体何がしたいんだ?」
振られ続ける剣を避けながら終夜は喋り続ける。
「言っているだろう。私に意志はない。あの御方の願いが全てだ」
「いや、違う。あんたはただ自分の心を押さえ込んでいるだけだ。その証拠があんたの頬に流れる涙だ。…あんたは本当はこんなことしたくなかったんだろ?」
「…違う。私は…あの御方の意志に従う機械、アンドロイドだ。もはや《人間》と呼べる代物ではない」
「いや、先ほども言った通り、あんたは人間だ。それに俺を殺す隙なんていくらでもあった。でもあんたは俺を殺さなかった。いや、殺せなかった。あんたの中にまだ心がある証拠だ」
「何を言っている。私はあのデパートで沢山の人達を殺したのたぞ」
「いや、殺しちゃいないな。せいぜい怪我人が出たぐらいだ」
終夜は少し冷えてきた頭であのデパートでのことを冷静に思い出した。
青年が撃ち出された銃弾は斜め下方向へ撃ち出されており、当たったとしても足にしか当たらない。
足を撃ち抜かれて即死する人間は殆どいない。
さらに、あのデパートの近くには大きな病院もあるため直ぐに治療出来る。
「あんたにはまだ《心》があるんだ」
「「終夜っ!!」」
終夜はこの場にはしないはずの声のした方向を見た。
少し離れた木のしたで肩で息をする結衣と優一の姿があった。
「…なんでお前達がここに?」
「それはこっちのセリフだよ。終夜ひとりで勝手に行っちゃうんだもん」
結衣は頬を膨らませながら終夜に駆け寄る。
「…そうか、ならば私も覚悟をする」
銀髪の青年はゆっくりと語り出した。
「心を捨てる覚悟と…人を殺す覚悟を!!今から、ここにいる人を全て殺す」
青年はそういうと、剣を突き立てながら優一へ向け走り出した。
結衣の近くには終夜がおり、優一は離れた所にいた。
あまりに突然だった為終夜は出遅れた。
友の優一へ刃が迫る。
終夜は誰かが死ぬのは見たくない。
ましてや、大切な友ならなおさら。
終夜は全力で走った。
優一は目の前に迫る刃に驚き目を閉じた。しかし、痛みが来ることはなかった。
「いやぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
結衣の悲鳴が聞こえた。
優一は恐る恐る目を開ける。
目の前には刃の切っ先。
終夜の身体を刃が貫いていた。




