その日 縁は結ばれた
最近のカーラは様々なところで手伝いをしている。梅々コンビと一緒に料理、夏合宿参加者の食事を作っていたかと思えば、カウズ先輩の横でソロバンを弾いていたり。専門的な知識が必要な爆破三兄弟や、イルファ先輩の手伝いは難しいか、と思いきゃ「トイレいく間だけ温度計を見てて!」とか「それを取って」とか。意外と素人でもなんとかなることも多く、ちょこまかと動きまわるにはあついのか、大抵作業服の上着は腰に巻かれ、上半身はタンクトップ一枚。
ちなみにリーナもちょこまかしているが、こちらはきっちりと作業服の前を閉めている。
「スラリスが食べているんです。熱を!」
・・・言われただけでは何がなんだかわからないが、とりあえず、たまにウゴウゴと動く、作業服の中を想像してはいけないのは、なんとなくわかる。
「そで。袖をもう少し出すか、料理していないときはエプロンを外しなさい」
「えーっ?」「なんでですかぁ?」
「それは、エプロンで服が隠れるとまるで上半身・・・に見えるからよ!」
「えっ? えつ? お姉さま、いまなんと? いまなんとおっしゃいました?!」
うん。夏の女性の服装は自由だ・・・。
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「じ、じゃあ。始めるわよ!」
一肌脱いでも大丈夫なように、ではないだろうが、珍しく腰に巻いていた上着をきたカーラが、ぺしり! と黒板を叩いた。
いつもの部屋は常駐のエルフ先生が、何かしらの魔法を使っているらしく涼しい。
聴講生はアルを中心に自分とジョン、ロゼとエドと、なぜか張り切っている、聞く必要がないはずのリーナだ。
「アルの魔力強化作戦ですが、結果から言うと、アルには使い魔を取得してもらいます!」
人前で何かを説明するのは、思ったよりも緊張するものだ。
それを誤魔化すためか語尾をやたらと強調するカーラに、容赦のない質問が飛ぶ。
「せんせー。なンで、使い魔なんですか?」
・・・ジョン、お前。わかって聞いてるだろう。
「それは」
言うことを整理するためか、・・・怒りをこらえるためか、しばし上を向いたカーラが説明にはいる。
「まずは使い魔と主人の間には絆、魔力のラインが結ばれます。これにより使い魔は主人の、主人は使い魔の持つ魔力をも利用可能となります。これはやや不平等な関係、使い魔側からは使用に許可が必要であり、主人側は自由ですが、従魔という呼び方もあるとおりなので仕方ありません」
「なるほど!」
・・・なぜ、こちら側の中では一番詳しいはずのリーナが一番うなずいているのだろうか?
「さらに最大のメリットは、人は魔石を食べられない、内包する魔力を吸収できませんが、魔物である使い魔は可能であります。これによって得られる利点は・・・」
カーラが生徒に質問、という形をとるが、答えが見え見えすぎる。
「えー? 利点は、ですねぇ・・・」
・・・なぜか答えを真剣に考えている従魔科の生徒がいるが。
「使い魔を経由することで、人間も魔石の魔力を使えるようになるんですね?」
「正解!」
誰も手を上げないなら自分が、と。考えていたが、アルが答えた。落ち込んでいたさっきまでとは違い、目が爛々と輝いている。
「でもそうなると、おかしくないですか? 世界がこんな状態です。まじゅ、ちゅし、全員使い魔持ちでも・・・」
途中、噛んじゃったが、ロゼの言いたいことはわかる。
「良い質問です」
「やた!」
カーラ=お姉さまに誉められたロゼがパッと輝いた。
「使い魔を得れば魔力が上がる。これはほとんど生まれつきで決まってしまう魔力量を増やす唯一の方法です。ならばなぜ、全員が使い魔持ちではないのか。それは相性に原因があります」
「例えばうちの家系なら羽のある魔物、鳥と相性がよく、リーナの家は代々同じスライムの分裂体と契約を結びます。だいたいの使い魔持ちはその家の初代が縁あって従魔契約を結んだことにより成立しており、逆にいうと相性がいい魔物と出会うのは、いち家門を創設するほど難しいのです」
「「「・・・」」」
じゃ、ダメじゃん。とは誰も口にしない。
アルがかわいそうすぎて。
「そこで一肌です! 従魔科では減少傾向にある使い魔持ちを増やすべく、人体実験の被験者を求めている人もいるのです!」
「「「おおっ!」」」からの~「「「おお?」」」
・・・途中、聞き捨てならない単語が聞こえた気がしたけど、この際だ。
溺れる者の掴む藁に。
トゲが生えていないことを祈ろう・・・。
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「キミ達が被験体、もとい被験者かね?」
うん。語尾が二文字変わるだけで大分印象が違うものだ。
「いえ! 違います! 被験するのはコイツだけです!」
そしてジョンよ。アルを売るのは早すぎないか?
まあ、白髪、爆破三兄弟が実験を失敗したときのような髪型の白い髪に、ビン底を切り取って並べたような本来の目が見えない眼鏡をつけた薄汚れた白衣を着た老人。カサカサ、ざわざわ、と。薄暗い空間の中、小動物が動きまわる気配だけする部屋とくれば、そうもなるか。
極めつけには紹介したカーラはもとより、リーナすら「あそこはちょっと・・・」と来なかったのだから、怪しさマックスである。
「ここでは、小動物を中心に」
「数百種類の魔物を収集しておる」
「まあ、下手な弓矢も数撃ちゃ当たる」
「キミに素敵な出会いが訪れる事を」
・・・なんだろう。
凄くまともな、いいことを言っているはずなのに、そう聞こえない。
「神官様をあらかじめ連れてくるとは、準備がええな。・・・例えば、そう、仮に聞いとくが、キミ。精神的な治療は得意かね?」
それを聞いてどうするというのか。
「ちょっ?! 何で椅子に固定?」
「相手が小動物だからな。お互いに不幸な結果にならないように、だよ」
ぼそっ、と。「逃げられては困る」と聞こえたのは気のせいだろうか?
「万が一の時は椅子ごと抱えて逃げるぞ」
それには賛成だがジョンよ。
椅子の足が床に固定されてないか?
「では、実験を始める」
きゅっ、と。
ゴム手袋をはめ、マスクを装着する、従魔科の教授。
・・・その装備はさわっちゃいけないとか、吸い込んじゃまずいとかでは、というか。
あなたホントにここの教員ですよね?
「・・・」
無言でピンセットでつまんだ “虫” は例の。
・・・虫?
「まずは飼育が容易で、数も増やせる物から、順番、順番だよ」
そうなのか。まあ、教授がそう言うならそうなんだろう。
「ちょっ?! この箱なんなんっスか! 逃げないようにって、逃げられないっスよ?! いや本当に!」
立方体の一面に加工がなされた、すっぽりとかぶれば、体との間に隙間ができないようになった箱、装置がアルに装着された。
よくよく見れば正面の一部分に一方通行の穴が開いている。
そこにピンセットの先、つままれたモノが・・・。
「ちょーっ! 試す必要もなくイヤですからって?! 追加ですか? いや、これどうやって回収するのかって思ってたっスけど !!」
それはこちらも疑問だったが、答えは簡単。「しない」でした。
次から次へと。
カサカサピョンピョンと透明な箱の中が賑やかになっていく。
「ロゼはこなくて正解だったな」
「ああ」
最後の最後まで使い魔持ちに憧れていた少女は、最終的にお姉さまと一緒を選んだ。
・・・いまにして思えば懸命な判断だったに違いない。
「ちょっとぁぉぉぉ?! だんだんと足が、足の数が増えているんですけどぉぉぉぉ?!」
「口を閉じんと。入るぞ?」
「ふぐ? ふぐぅぅぅぅ?!」
なんかこう。箱の中で食物連鎖が始まると実験よりも別の儀式のようにも感じる。
「ふぐーーーーっ?!」
願わくば。
悲劇と。
嫌悪に。
見合った成果がもたらされんことを・・・。
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「ひどいんですよー。先輩達。ぜんぜん助けてくれないんっスよー」
技術実験室のすみっこでアルがいじけてしゃがみこんでいる。
「おい、あれ。大丈夫なンか?」
「治療は完璧なはずですが・・・」
もしかしたらもしかしてがある以上、実験を途中で止めることはできなかった。最終的にアルがどうなったかは、彼の名誉のために伏せるが、その後のエドの治療はうまくいった、らしい。
・・・壁に向かってひたすら、ぼそぼそと話呟いている姿からはそう見えないが。
「あー。あの場にお前がいてくれたらなー。食べ放題の無双っスよ」
「おい、とうとう何か産み出したぞ」
「・・・」
こちら側からはアル以外に何も見えない。
イマジナリーフレンド。彼だけに見えるトモダチが現れ始めたのなら良くない傾向だ。
「えっ? なら呼べって? いつも一緒っスか?! それは・・・素敵っスね!」
ぶつぶつ呟いているだけならいい、いや良くないが、カーラから学んだ魔法、契約魔術を発動させ始めたとなるとちょっとまずい。
まあ、対象がいなければ不発なのだが。
「これが、ジブンの使い魔っス!」
とか。壁を紹介されても・・・。
「おい」
「ああ」
止めよう。そして───食欲はないかも知れないが───夕食のおかずが彼の好物なら譲ろう。
そう考えて、ジョンと一歩踏み出しだ瞬間。
ピカッ、と。
夕闇迫る室内に閃光が走った。
まさか・・・。
「壁がゴーレムに?!」
うん。ジョンよ。
それは、もういい・・・。




