第百九十六話 エスガルド学校卒業パーティ
ルドルフ達がエト山脈を越えている頃のエスガルドでは、一年生達がいつもの城に併設された校舎ではなく、エスガルド学校の本校舎に併設された大講堂に集まっていた。
大講堂の中央には机が並べられ所狭しと料理が並べられ、その周りには千を越える生徒達が集まっている。
「今日は卒業パーティですが、皆さんのお披露目という意味合いも強いです。本校舎の先輩達に笑われないように節度ある行動をお願いします!」
黒を基調としたシックなドレス姿のバルテ先生が一年生に言うが、隣に立っていたアランが茶化すように手を振りながらバルテ先生と一年生達の間に割って入る。
アランは青い髪とは対照的に真っ赤な派手なカクテルドレスで首にはニコがプレゼントしたネックレス、頭には防衛戦の時にゲットしたティアラを身に着け、セシリア女王が見れば「女王のあたしよりも豪華ですね・・・」と漏らしそうな程に輝いている。
「バルテは固い!みんな!?今日はいつもよりもご馳走が出る!腹がパンクするまで食って食って食いまくれ!先輩達の分も食べつくしてやれ!」
「「「「「おぉっ!」」」」」
アランは上品なドレス姿に似つかわしくないガッツポーズで言うと、浮き足立っていた一年生達はいつも通りの様子に戻り、気合を入れ始める。
「アラン先生?そういう指示はあまりよろしくないのではないでしょうか?先輩方に生意気な後輩と思われては可哀想ですよ?それにその服装・・・教官としてはいささか派手すぎではありませんか?」
「あたしは浮き足立ったままで何も出来ずに大人しい奴らだって舐められる方が問題だと思うけどね?こんな時くらいお気に入りのアクセサリー着けさせろっての!」
バルテとアランが口喧嘩を始めるが、一年生とその教官達はいつもの事なので気にした様子も無いのだが、本校舎の教官と生徒達は神銀級のアランが暴れだすんじゃないかと固唾を飲んで見守っている。
「まぁまぁ!バルテよ、今日は来年から本校舎の教官となるアランのお披露目も含めてるんだから硬い事は言うなふぇっふぇっふぇっ!」
バルテ先生とアランは相変わらず仲が良くない。
フィルが間に割って入って事なきを得る。
一年生の校舎では週に一回は催される恒例の行事となっているのだが、それをしらない本校舎の二年生以上の生徒と教官達は安堵の溜息を漏らしている。
「ではまだ全員が集まったとは言えんが・・・今日はパーティーだ!日没の終了まで好きに参加すればええ!疲れたら帰るのも手じゃな?友達と仲を深めるのも先輩後輩の親交を深めるのもええ!みんなで好きに騒いで六年生の門出と一年生の歓迎を賑やかに祝うぞ!ではパーティの開始だ!」
フィルの言葉と共に一斉に生徒達が中央の机に群がり始める。
そんな中静かに壇上に移動する人影が四人。
サミュエルとオーギュストが扮するニコそして使用人のタルトと護衛役のアランだ。
「さて・・・一年生の金クラスの席はどこかな?」
「あそこじゃないか?」
壇上には六卓の机が用意されていて、それぞれに数字が割り振られている。
卒業パーティは基本は立食パーティなのだが、金クラスだけは椅子が用意されている。
タルトが素早く1と書いてある机へと歩いて行き二つの椅子を引く。
サミュエルは勿論の事、オーギュストが本気を出してニコも二年生からは金クラスなのだ。
フィルとアランが相談した結果、ニコはメイドも出来て銀クラスの一人部屋では手狭なのと、今更ニコが金クラスになった所でもう十分目立っているので問題無いだろうと言う判断を下した結果である。
「御主人様、サミュエル様どうぞ。」
「いつもすまないね?」
「タルトありがとう。」
二人が席に着き、タルトはニコの後ろに、そしてアランはサミュエルの後ろに控える。
「さて・・・僕はおそらくパーティ終了まで抜けられないけどニコはどうするんだい?」
「俺が帰ればタルトも一緒だぞ?」
「フフフ。愚問だったね?アラン先生とタルトさんの護衛がなければ今日も城から出られなかったろうしね?ボーナスをお願いしておくよ。」
「楽しみです・・・にしておこう。」
サミュエルの思わぬ言葉に興奮したオーギュストが一瞬素になり、すぐにニコに戻る。
オーギュストとレナエルは高給取りである。
だがレナエルが癇癪を起こす毎に家中の食器や家具を破壊しつくし、それを毎回買い直しているので、二人の財布事情は困窮している。
しかもレナエルがブランド物の食器と家具じゃないと、また癇癪を起こすのでそれが更に拍車をかけて火の車なのだ。
「十分な給料は出ているはずなのになぁ・・・さぁ、御客様だ。しっかりとニコでいて下さいね?」
「わかってる。」
「はい!全員一列に並べ!接触は無し!怪しい動きをしたら逮捕するから!あと自己紹介しても殿下は覚え切れないだろうけど、恨まないように!・・・あたしと握手?それは自由だよ!」
サミュエルがオーギュストの様子をみて不思議に思いながらも、王子との親交を結ぼうと本校舎の先輩達が詰め掛け、アランがキビキビと一列に並ばせている。
中にはアランに出会えた事に感動して泣き出す生徒までいる。
「いつも一緒にいるから忘れちゃうけど、さすがは王子だね?」
「エミールは先輩達との交友は広めなくていいのか?」
「ハッハッハッ!そういうのは午後になって落ち着いてからだね?今はみんな食事や仲のいい友達との親交を深める時間だよ?」
「成程。そうなると今の殿下は異常なんだな?」
「そうだね・・・にしてもニコが場の空気を読んで殿下と呼ぶとは驚きだね?」
「・・・俺だって先輩達に睨まれるのは嫌だからな。」
なんとかその場を取り繕ったが、殿下という言葉を発した時にエミールの目が怪しく光ったのをオーギュストは見逃さなかった。
数ヶ月ニコになって、板について来たと自負していたオーギュストは、最も警戒すべき相手の前で大失態を犯してしまったと激しく後悔する。
その後もサミュエルと話をしたいと言う生徒達の列が途切れる事無く卒業パーティは進んで行く。
「さて・・・そろそろ僕は交友を広めに行って来るかな?ニコ君はいつまでいるんだい?」
「俺は今日はアランとの約束でな、一日アランがここにいるならここにいなければならん・・・全く面倒な話だ。」
「ハハハ!アラン先生相手にそんな物言いを出来るのはニコ君だけだよ?じゃあ遅くならないうちに帰る事をすすめるよ?」
「面倒なものを面倒と言っただけだ。それはアランに聞いてくれ。」
アランとの約束というのは、勿論動けないサミュエルの近くにタルトを配置しておくための嘘である。
だがニコとアランの仲がいい事を知っているエミールは疑う事無く壇上から降りて生徒達の中に消えて行く。
「タルト?異常無しか?」
「はい。ニッグ達の報告も問題無く受け取れています。」
「(タルトさんは私のメイド業務をこなしながらの護衛なのにいつの間に報告を受けているのでしょうか?マジックアイテム・・・ではなさそうですし・・・にしても一年前は文字も読めなかった子供が恐ろしい話ですな・・・)」
タルトがニコ達の料理を取りに行った時に、幻影魔法で生徒に紛したニッグ達が報告をするという至って単純な方法なのだが、傍から見ればタルトの隣で生徒達が料理を取っているだけにしか見えない。
長年の経験からマジックアイテムと決め付けてしまったという事も相まってオーギュストはどうやっているのか皆目検討がつかないでいる。
それと同時にそれだけの強者をいつの間にか率いているニコと言う人間に恐怖を覚える。
「はぁ・・・やっと終わったね?」
サミュエルの前に出来ていた生徒達の列が無くなり、サミュエルが一息吐く。
「お疲れ様だな?アランもう終わりなんだろう?」
「うん終わり!あたし達がバタバタしてる間に爺が締めの挨拶をしたしね?」
「じゃあ帰ろうか?今日が終われば長い休みだしニコもお疲れ様?」
三人で話しながら生徒がいなくなり、慌しく片付けをする大人達の横を歩いて大講堂の出口へと向かう。
ちなみにタルトは静かに三人の後ろを付いて歩いている。
「ニコ君?まだいたのかい?」
いつも通りに飄々とした様子のエミールが歩み寄ってくる。
思わずオーギュストが身構えるが、エミールは気にした様子も無く一本の筒を取り出してアランに向ける。
「やっべ!!」
エミールが構えた筒の先に魔法陣が展開し、閃光が飛び出してアランに襲い掛かる。
アランはなんとか反応して魔法障壁を展開するのだが、鉄の筒から放たれた閃光は軽々と魔法障壁を割り、そのままアランの胸を貫く。
アランの胸にはまん丸の穴が空き、その場に力無く倒れる。
エミールは続けざまに立ち尽くしているサミュエルに向けて鉄の筒を向けて閃光を放つ。
「アランの排除だけでは足りないのか・・・」
だが二発目の閃光はタルトが張った魔力障壁によって防がれる。
それを見たエミールが苦虫を噛み潰したような顔で魔法障壁の主であるタルトを睨みつける。
「二人共伏せて下さい!」
「殿下失礼します!」
タルトの言葉に反応してオーギュストがサミュエルの首根っこを掴んで床へと押さえつける。
直後二人がいた場所を高速で何かが飛んで行きエミールへと襲い掛かる。
エミールは飛んで来た何かを咄嗟に持っていた鉄の筒を犠牲にしながらも受け止める。
「斧・・・だと?」
「受けられましたか・・・捕獲は難しいでしょうね。」
「フフフ、邪魔者のルドルフがいない今しか無いと行動を起こしましたが、エスガルド王国には強者がたくさんいますねぇ?」
「時間稼ぎですか?」
タルトは無表情のまま魔王の手斧に魔力を送り回転させて鉄の筒を断ち切る。
そのままエミールを両断するべく操ったのだが、エミールが纏っている結界に弾かれタルトの顔が悔しそうに歪む。
「時間稼ぎだって?僕にとっては刻一刻と不利になるだけだけどねぇ?」
「その通りですね。ではなぜでしょうか?」
「それを言うほど馬鹿だと思うかい?」
「馬鹿なら嬉しいなと思いましたが違いますね。」
静かに始まった戦いだったが、周りで片付けをしていた大人達が異変に気付いて集まりだして、エミールを包囲しつつある。
彼らは本校舎の教官達であり、全員が金級冒険者並の戦闘能力保持者である。
エミールの言う通り時間が経てば経つほどに包囲網は厚くなり、エミールにとって不利な状況になるのだが、とても落ち着いた様子で話している。
タルトはエミールの思考を読むのを諦めて魔王の手斧を手元に引き寄せて斬りかかる。




