第百六十四話 ハイゼン王国の奴隷達
タルトと一緒に地底湖を堪能する事二日。
やっと黒装束の人間に動きがあった。
「ん・・・」
「気付いたか、首輪は解除したぞ?そしてすまんが事情を聞くまでは拘束させてもらっているぞ?」
黒装束の人間が目を覚ますので自分達の状況を説明しておく。
それにしても丸々二日間眠り続けるなんてどれだけ疲れていたのだろうか?
日に何度も呼吸の確認をする程度には心配した。
「くっ!殺せ!」
「・・・強制されていたんじゃないのか?首輪はもう無いんだぞ?」
黒装束の男はとても悔しそうに言う。
本で見たクッコロさんを本当に見る事があるとは思ってもみなかったので思わずにやけてしまう。
「・・・確かに首に隷属の首輪の感触が無いな・・・」
「自殺しないと言うなら拘束を解くぞ?」
「わかった誓う。」
「なら首輪の確認をしろ。そして多分悪いようにはしないから全て話せ。」
男はひとしきり自分の首を触って首輪が無い事を確かめ始める。
「暴れられても問題無いが、自害されては困るので武器は預からせてもらった。」
「問題ありません。我々はハイゼン王国の奴隷です。ルドルフ殿の、貴方を殺せば奴隷から解放されるはずでした。」
男は俺の言葉に慌てた様子も無く居住まいを正して正座して淡淡と答える。
俺に斬られるとでも思っているのだろう。
目は真っ直ぐに俺を見つめ、死を覚悟しているのか決意に満ちた目をしている。
「俺がなぜ狙われる?そしてなぜ俺の場所がわかった?あとお前らの腕でどうやってここまで降りて来たんだ?」
「我々奴隷の間でも有名ですよ?突如として彗星のように現れたエスガルド王国専属の金級冒険者ルドルフ様ですからね?この場所は密偵から貴方がダンジョンに入ったと知らされたので後を追ってきました。ここまで来れたのは我々は身代わりとして育てられた奴隷なので魔力量だけは高いのでここまでなら問題無く・・・あなたが規格外すぎるだけです。」
俺も少々気がせっているのだろう。
思った以上に一気に質問してしまったが、男は淡々と全てに的確に返答してくれる。
最後にとても不快な事を言われた気がするがそれよりも気になる言葉があった。
「(身代わり用の奴隷とはどういう意味だ?)」
さっぱり意味がわからない。
「身代わり用の奴隷とは何だ?」
「これは機密情報なのですが、隷属の首輪が無いので全て話しましょう。我々はここに・・・生贄用の魔法陣がありましてね?自分の全てを差し出すという契約魔法陣です。受け取りの魔法陣を刻んだ兵士や騎士達が怪我を負ったら我々が全て請け負うのです。」
男は服を脱いで肩に刻まれた魔法陣を見せてくる。
身代わりか・・・つまりは戦っている兵士が死ねばこいつらは代わりに死んで兵士はそのまま戦い続けるという事なのだろう。
なんとも度し難いものである。
「ふむ。そういえばハイゼン王国の兵士は領地に帰った途端に一騎当千の兵になると聞いたが・・・」
「その通りです。我々の魔力も差し出しています。そのために我々は産まれてからオーガの生肉だけを食べて生きてきました。」
とても有意義な話しが聞けた。
騎士団員のフォルナ達が知らなかったとなるとかなりの重要な情報だろうと思う。
俺の中で最低なイメージしかないハイゼン王国の印象が更に下がった。
それにしても今までオーガの生肉以外を食べた事が無いらしい。
「では最後の質問だ。この魔法陣は何だ?」
男が持っていた水晶玉を見せながら問う。
「それは・・・我々六人の魔力と生命力を全て使って大爆発を起こす魔法です。」
「は?それで俺を殺せてもお前らも死ぬんじゃないのか?解放されるために来たのだろ?」
「我々が成功すれば国に残った奴隷からランダムに五名解放される手筈になっています。」
男は正座をしたまま淡々と話すがとんでもない話である。
そもそも確かめようも無いのに人を人として扱わない国が本当に奴隷を解放するのか疑問符しかない。
「ではお前がどうなるかはわからんが、とりあえず飯を食べるか?勿論オーガ肉では無くちゃんと料理するぞ?そういえばお前の名前は何だ?」
「料理を?奴隷の私にですか?そんな事をしてルドルフ様の名誉が傷付きませんか?あと名前はありません。」
どうやらハイゼン王国での奴隷の扱いはかなり酷いようだ。
同じ人間のために料理を作って名誉が傷付くなどと意味がわからないし、名前さえもないと言う。
「何を言っている?お前は人間だろう?なぜ料理を作って名誉を傷付くんだ?」
「奴隷とは人にして人に非ずです。」
「意味がわからん・・・全員の拘束を解くが、変な気を起こすな?」
「変な気ですか?一斉に地底湖に飛び込んで自害ですか?」
焚き火を焚きながら男に忠告をしておく。
襲うなよ?と言う意味で言ったのだが、投身が先に思いつくとは奴隷はどんな教育を受けているかと本気で心配になる。
「そっちか・・・それもするな。そして俺を襲ったりなどと考えるな?」
「ルドルフ様を襲う?ハハ!そんな無意味な事をしてどうするのですか?」
念のために両方とも禁止するが、男は感情が感じられない笑い声を上げながら大変失礼な事を言って来る。
「無意味などでは無いだろう?」
気付いた時には思わず男に返答していた。
料理を作っている無防備な俺に五人で一斉に襲い掛かれば万が一と言う事も十分考えられる。
そうなる前にタルトが助けてくれるだろうとは思うが、可能性がある限りは潰しておかなければならない。
「・・・そうですね。襲ってルドルフ様を怒らせれば我々は殺されるので無意味では無いですね。」
「・・・お前と話してると頭が痛くなる。」
こいつの思考は俺の予想の斜め右上を行っている。
思わず頭痛がして額を押さえてしまうがこれが奴隷と言うものかと認識を改めておく。
とりあえずこいつには他の四人の世話を任せて俺は料理に専念する。
料理と言っても適当にスープと魚の塩焼きという簡単な物だがオーガの生肉しか食べた事の無いこいつらならこれでも喜んでくれるだろう。
「美味しそうな匂い!あっ起きたんですね?」
「お前はさっき昼飯食べたばかりだろう?」
「おやつです!休みの日は好きに甘えろって・・・」
「わかった。出来たら呼ぶから水浴びしてなさい。」
「わーい!」
タルトはベビードラゴンの姿なのに今にも泣きそうなのがわかる表情で言って来るので、タルトの分の塩焼きを追加する。
後ろでは次々と黒装束の集団が目を覚まして先程話した男が現在の状況を説明している。
「(全く絶対に邪魔が来ない場所でゆっくりしようと思っていたのにとんだ災難だ。)」
そんな事を考えながら順番に気が付き、説明を受けて静かに正座をして待つ黒装束の人間と地底湖に腹を出して浮かぶベビードラゴンに見つめられながら料理をする。
「これを食べたらみんなで地上に出て城で事情を説明するぞ?」
「かしこまりました!」
みんなに魚の塩焼きを渡しながら言うと最初に目覚めた男が代表して答え。
他の四人は真剣な表情で頷く。
「塩付けただけなのにこんなに美味しくなるなんて!?」
「「「「「ベビードラゴンが喋った!?」」」」」
「さっきも喋っていたが・・・いいな?機密情報だ。強制はせんが喋らない方がいいと思うぞ?」
タルトが魚の塩焼きを食べて驚いて、黒装束の五人が同時に声を上げる。
練習してもここまで揃わないと思うが余程驚いたのだろう、完全にシンクロしていた。
「柔らかいな・・・」
「こんな物を食べられるとは・・・」
「美味しい・・・」
「処刑される前の食事が希望出来るならこれにします・・・」
「私もそうするわ・・・」
五人は魚の塩焼きを食べると感動して泣きながらかなりとんでもない事を口走っている。
しかも食べ終わるのが余程嫌なのか全員一口が以上に小さい。
「お替りはあるから好きなだけ食べろ?」
「なっ!?・・・よろしいのですか?」
「このベビードラゴンを見てみろ。お前らがその魔魚一体を食べる間に何体食べてると思ってるんだ?」
俺が思わず言うと五人は驚愕の表情を浮かべるが、俺の隣にいるタルトの目の前にはすでに魚を焼くために刺していた串が五本転がっている。
そして腹一杯になったタルトは腹を出してその場に転がっている。
「全くお前は・・・食いすぎだろ。」
「もっと撫でて撫でて!」
俺が呆れながらパンパンに膨れた腹を撫でるとタルトは気持ちいいようで目を細めながら尻尾を振って催促してくる。
とても愛嬌のある姿に思わずキュンとしてタルトに言われるままに撫で続けてやる。
「こんな美味しい物をありがとうございました。これで謹んで処刑を受け入れる覚悟が出来ました。」
タルトを撫でていると食事を終えた五人が正座のまま深々と頭を下げて言って来る。
おそらく処刑はされないだろうと思うが確証は無いのでどう返答するべきかとても迷う。
迷っていると気持ち良さそうに腹を撫でられていたタルトが口を開く。
「大丈夫なのです!魔族の私がこうして人間と一緒に生活出来ているのです!あなた方人間が普通に生活出来る様にするなど師匠にとっては造作もない事、だから心配するという事は師匠の力を疑う行為で無礼ですよ!」
「なぜそんなに信頼があるのかさっぱりだ・・・」
タルトの自信満々の口上に思わず頭を抱える。
「(タルトはなぜそんなに俺の事を信用しているんだ?)」
魔族とは戦闘能力が全てであり、俺よりも強いタルトからここまで信頼をされる意味がわからない。
「失礼しました!どうぞ我々をよろしくお願いします!」
「「「「よろしくお願いします!」」」」
俺が頭を抱えていると、五人組が頭を下げてくるので更に頭が痛くなる。
今日は武闘会の四日目のはずだ。
そんなに急いで帰らなくても最終日の七日目までに帰ればいいはずなので今日はゆっくりして明日城に行けばいいだろう。
早く帰るよりも今日一日を使って一つ一つ問題を解決していこう。
まずはタルトの俺への信頼の厚さからだ。
「タルト?なぜそんなに俺の事をそんなに信頼しているんだ?」
「師匠は凶悪な魔物を退治して我々を救って下さいました!そして師匠が来てから生きるだけが目標だった我々の生活は格段に楽しいものになりました!そして今も毎日が忙しないですが驚きと楽しみの連続です!」
偶然と偶然が重なった時、それは必然になる。ルルの好きな言葉だ。
いよいよ困っていたウランが偶然に俺の気配を察知し、俺が偶然フィルを連れて行き、偶然フィルがウランに惚れた。
他にも色々な偶然が重なっているのだろうが、ルル曰く偶然が重なり始めると必然に向かってどんどんと積み重なって行くらしい。
ルル理論で行けば今隣にタルトがいるのは必然で、目の前に土下座をする五人組がいるのも必然なのだろう。
「お前ら予定変更だ。出発は明日だから話しは後で聞く。好きに過ごしてろ。」
俺は五人に必要事項だけ言って夕食の準備を始める。
五人は今食べたばかりだから何かを食べる事など考えられないだろうが俺は魚の塩焼きは食べなかったので夕食が食べたい。
「師匠手伝いますか?」
「明日出発だから気の済むまで水浴びしてな?明日からまたこき使うからな?」
「わかりました!」
タルトは大喜びで地底湖に飛び込んで行くのを見送り、五人組は何も言わずに正座をして静かに俺を見ているのが少し気になるが俺はさっさと夕食を作り始める。
面白いと思ったり続きが気になると思った方は評価や感想を頂けると嬉しいです。
もちろん誤字、脱字やお気づきになった矛盾点などの指摘もお待ちしています。




