第百六十三話 謎の襲撃者とタルトの武器
風邪をひきました。
明日のアップは厳しいかもしれません。
今日遅れたのに申し訳ありませんがよろしくお願いします。
昼食を終え、鮭っぽい魔魚を捌いてスモークサーモンを作っているとベビードラゴンバージョンのタルトが近づいて来る。
「師匠?誰か来ましたよ?結界張っておきますね?」
「ありがとう助かる。」
タルトはすぐにスイーッと地底湖を泳いで見えなくなる。
魔法を発動している素振りは無かったし、タルトとの魔力量が違いすぎて結界も見る事が出来ないので少し不安だがタルトを信じよう。
「(とは言え魔魚に対して気配を消している普通の冒険者の可能性もあるか。)」
俺達は普通に過ごしているので忘れそうになるが、今俺達はいるのは魔魚達が飛び交う中死闘を繰り広げながら進むダンジョン内の地底湖だ。
魔魚に気付かれないために気配を消してこの階層に入ってきた可能性もある。
燻製の出来具合を確かめたりして出来る限り普段通りに楽しみつつ探索魔法で地底湖に入ってきた人間達の行動を監視する。
しばらく俺が釣りを楽しんでいると五人の人間達は音の無く俺を取り囲み始める。
どうやら冒険者では無い様だが俺などにどういう用事があるのかさっぱりだ。
とりあえず気配の消し方は杜撰で魔力量もそこまで多くは無いので対応は容易だろう。
もうすぐ俺に接触してくるだろうと思われるのでもう少し泳がせる。
「(あっちでもこっちでも泳ぐ獲物がいて大忙しだ。)」
「死ねっ!」
「なぜ喋るんだ?」
俺がつまらない事を考えながら竿を引き上げていると後ろから黒装束に身を包んだ人間が駆け寄ってきて短刀を突き立ててくる。
頑張って気配を消しながら俺を取り囲んだと言うのに一人だけが斬りかかってくる・・・しかも声を出しながらだ。
五人で取り囲んでいるのだから全員で一斉に無言で斬りかかった方が絶対に成功率は高いと思うのだが不思議で仕方がない。
男の刀はタルトの結界に弾かれ、そのまま勢い余って盛大に転ぶ。
「な・・・結界だと?」
「とりあえず・・・」
とりあえず周囲にいる四人に向かって魔力弾を打ち込んでから空気拘束を発動し、俺に襲い掛かってきた黒装束の人間の背後に回りこみ首を絞めて気絶させる。
黒装束の男は動かなくなった事を確認して周りの拘束した人間達を確認するが全員問題無く最初の魔力弾で気絶させられていたようで、全員が空気拘束によって壁に縫い付けらたままぐったりとしている。
「あれ?終わりですか?」
「あぁ。問題無いぞ?」
俺が黒装束の人間を一箇所に集めているとタルトが話しかけてくる。
タルトに答えながら黒装束の人間を調べるが全員首に同じ首輪をつけている。
「師匠!この首輪嫌です!」
「ふむ。闇属性の魔道具のようだな。」
俺が黒装束の人間が付けている首輪を調べていると近づいて来たタルトが嫌そうに顔を顰めながら言う。
恐らく闇属性の魔力に嫌悪感を抱いたが表現する言葉が見つからないようだ。
「これは契約魔法を強制する魔道具のようだな。」
「師匠!強制は駄目だってウランが言ってました!」
黒装束の人間が付けている首輪に刻印されている魔法陣を分析する。
湖から出てきたタルトは服を着る事も忘れる程に必死な様子で俺の腕を掴んで揺すってくる。
揺すられて分析に集中できない、そして裸のタルトを見るわけにも行かないので目のやり場に困り更に集中出来ない。
「そうだな?こいつらを解放してやろう、だから服を着てくれ。」
「是非お願いします!」
タルトは黒装束の人間達を見ながら祈るように手を合わせていて俺の言葉の肝心な部分は一切聞こえていないようで、出来れば服を来て欲しいのだがそれは叶わないようだ。
諦めて首輪に刻印されている魔法陣を分析する。
「師匠!わかりましたか?」
「もう少しだ。」
俺が魔法陣の分析をしているとタルトが心配そうに声をかけてくる。
どうやらこの首輪は呪いの魔道具のようなのだ。
呪い魔法の分析は完璧にしないと駄目だ。
解呪に失敗すると中途半端に解いた呪いが襲い掛かって装着者だけでなく俺も死にかねないからだ。
「出来たぞ?」
「しっかりと勉強させて頂きます!」
「アルメ・ティ・ヒティ・クラル!」
魔法陣を描き聖属性の魔力を流しながら解呪の呪文を唱えると首輪が光り始めボロボロと崩れ落ちる。
タルトは俺の一挙手一投足を食い入るように見ているがまずタルトでは聖属性の魔力を作り出せないと思うのでためになっているのかは疑問である。
「成功だな。」
「さすがは師匠です!」
「安心したな?じゃあいい加減服を着ろ!」
「はい!」
タルトがそそくさと畳んである服へと歩いて行くので、一安心して残りの四人の首輪も外して行く。
「師匠!この人達どうしますか?」
「とりあえず起きてから事情を聞かないとな?念のために・・・」
五人を横並びに寝かせて纏めて手足を空気拘束で拘束する。
そして顔を覆っている布を頭巾ごと取って行くと、二十歳前後の男二人に女三人の五人組という事がわかった。
顔を確認してから全員の持ち物を調べるが一人が謎の魔法陣が刻印された魔石を持っていただけで他は武器以外何も持っていなかったので何も情報は得られなかった。
こいつらが起きるまで正体はおあずけのようだ。
「暇ですね・・・ではまた水浴びに行ってきます!」
俺がまったりと釣りをしながら五人が起きるのを待っていると、タルトは服を脱ぎ捨てながら地底湖へと飛び込む。
「(一日に何度も服を脱いだり着たりと忙しいやつだ・・・そしてタルトが飛び込むと釣れなくなるな・・・)」
優雅に泳いで離れて行くベビードラゴンを見ながら竿を上げてタルトが脱ぎ散らかした服を畳んでから燻製箱を十倍のマジックバッグから取り出して出来具合を確認する。
「(ゆで卵に、この魚も・・・ソーセージも燻製してみよう。)」
マジックバッグの中にある物を片っ端から燻製してみる。
元が不味い物では無いので、失敗しても食べられないほどに不味くなる事はないだろう。
ちなみに先程の五人組は起きる事無くそのまま眠ったようで寝息を立て始めた。
「師匠そろそろご飯ですか?」
「まだ少し早いな。そうだタルトに身を守る武器を渡しておく。使い方を教えるから服を着てくれるか?」
「わかりました!」
タルトが聞いて来るので時計を確認するが夕食にはまだ少し早い。
そういえばタルト用にと褒美で貰った魔王の手斧を渡してなかったのを思い出した。
服を着たタルトに魔王の手斧を渡す。
「これ宝物庫で振った斧ですね?」
「そうだ。魔力を込めるとここから水が出る。そしてこのワイヤーを持って発動させればヨーヨーみたいになるぞ?」
「試してみます!」
タルトは俺の説明を聞いて近くの俺と同じくらいの高さもある岩に向かって斧を振り上げる。
「やぁ!」
タルトは岩へと斧を振り下ろしながら気合の声を上げると斧から水が吹き出し手斧が恐ろしい速度で加速する。
岩はタルトの腕力と水の推進力が加わった魔王の手斧によっていとも容易く真っ二つに割れる。
魔王の手斧は巨大な岩を叩き割ったと言うのに刃こぼれ一つ無い。
「(本当に魔王が使っていたのか?)」
思わずそんな事を考えてしまうほどの頑丈さである。
「これ私の牙よりも強いんじゃ・・・次は・・・」
タルトが魔王の手斧の威力に驚きながらも斧の柄に内蔵されたワイヤーを引っ張り出して放り投げる。
「師匠?投げてから言うのもあれですけど・・・こんな細い糸で千切れませんか?」
「おそらく余程は切れないはずだ。」
アランの助言を受けて鉄製のワイヤーとクネの糸と交換したので、見た目だけで言えばただの縫い糸で空中を飛び交う巨大な斧を引っ張るのだ。
タルトが心配そうに言って来るが仕方が無い話である。
「結構簡単に操作出来るんですね?」
「魔力がスムーズに流れるだろ?さすがはクネの糸だ。」
タルトは一発目から難なく魔王の手斧を操縦して見せた。
クネの糸は魔力伝導率がとてもいいので、ワイヤーに比べて難易度は格段に下がったとは言え素晴らしいセンスだ。
タルトの周りに二十個程適当に水球を作り出す。
「タルト?俺の魔法を斬ってみてくれ。」
「はい!」
タルトが俺の言葉に反応して右手を振る。
魔王の手斧がカーブを描きながら俺の水球を斬って行く。
「さすがだ。」
「次は少し試してみますよ!?」
タルトがそう言って両手でクネの糸を掴んで集中し始める。
魔王の手斧が不規則な軌道で俺の水球を最短距離で切り裂く。
「タルトの武器決定だな。」
「ありがとうございます!」
俺が言うとタルトは満面の笑みでお辞儀しながら後ろ手に飛んで来た斧をキャッチする。
俺が渡して数分で使いこなしたタルトの様を目の当たりにして心の底から感心する。
「さすがだ。じゃあ夕食を作ろう。」
「お手伝いします!」
タルトと一緒に作りたての燻製をふんだんに使って夕食を作ることにする。
今日のメニューはタルトの要望があれば変更するつもりだが、スモークサーモンのマリネに燻製料理の盛り合わせ、そしていつも通りに野菜スープだ。
「師匠?デザートは・・・無いのですか?」
「今まで作ってなかったから失念していたな。」
料理を作っているとタルトから言われてデザートの事を考えてなかった事に気付く。
「タルト?果物を切って、クリームを作ってくれるか?」
「かしこまりました!」
頭をフル回転して今日のデザートはクレープに決定してタルトに指示を出す。
クレープならばタルトに具を用意してもらっている間に生地を焼けば後の盛付けは任せて、俺はその間に夕食の配膳をする。
正にタイムロスを限りなく減らせて完璧である。
「よしタルト?盛付けは任せていいか?」
「はい!クレープなら本でずっと見てましたから大丈夫です!」
タルトが鼻歌交じりに生地にクリームを塗り、果物を盛り付けてクレープを作り始めるので俺は夕食の配膳を始める。
黒装束の五人組は全く起きる素振りは無いので用意するのは俺とタルトの分だけだ。
「ふむ。スモークサーモンもゆで卵もソーセージも全部大成功だな。」
クレープを作り終えたタルトがやってくるので二人で夕食に舌鼓を打つ。
燻製した物は全て味わいが増して納得の出来で満足して頷く。
「この魚いつも食べていたのですが、ここまで美味しくなるとは感動です!」
「まぁ生で丸かじりじゃあな・・・」
恍惚の表情でスモークサーモンを味わいながらタルトが言って来る。
さすがにドラゴンの時なので丸かじり・・・下手をすれば丸呑みしていた時のに、それよりも不味くなっていてはたまったものでは無い。
二人で楽しく話しながら夕食を食べる。
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