91話【繋がりし地は】
「改めて紹介しよう。
【エデルファイト子爵[ヘルゲロープ]】が第二子――
――我が実兄。
【フェンベルトス・リラ・エデルファイト】だ」
「どうぞよろしく、諸君。
……しかし、妹。
君の乗組員は、美しい者ばかりだね」
「そうでしょう、フェン兄様。
皆、私の愛する者たちです。
――では。
本題に入るとしようか――」
潜空艦指揮室。
卓を囲うように、全員が席に座る。
ヘルとフェンは同じ側の端。
ボクらはその周囲だ。
セタはどこか落ち着かない様子で、指先をしきりに動かしている。
フルカはいつものようにくねくねとしている。
ならボクの面部温度上昇も、大して目立つものではないだろう。
……。
問題はない。
その筈……だ。
「まずは此方が問わせてもらうよ。
一つ。君たちが今、この場所に居るのは何故?
二つ。この浮遊島に突然現れた、山岳地帯と
柱のような影について、何か知っていることは?
三つ。これらは、君たちによるものかな?」
「答える前に一つ。よろしいですか、フェン兄様。
この場所――この浮遊島は、何処の、何なのでしょうか?」
「――ふむ。
【"鉄砂海峡" ラザントゥロウム】だよ。
子爵領との間には大渦がある。
潜空艦で抜けるには半周月程はかかる筈だ」
「ええっ! そんな遠くの浮遊島に!?」
「ラザントゥロウム……!?
あの[鉄錆の浜]
[末広き谷底]
[鍵穴無き宝物殿]
のラザントゥロウムか! となると、やはり――」
――ラザントゥロウム。
それがおそらく、結合した【楔】が[本来あった場所]なのだろう。
それは、つまり。
【仮定:同類】が、居た場所。
――[何らかの目的]を、持って。
場合によっては、あるいは。
女神が何か、関わっているのかも知れない。
――ならば。
調査するべき価値があり、またその必要があるという事だ。
であれば――都合は良い。
彼女は何らかの厄介事に巻き込まれている。
おそらく、現地でしか解決できないような、類いの。
どちらにせよ、この浮遊島に降りることになるだろう。
少なくとも、ヘルはそうする。
ならば――ボクの選択肢など一つしか無い。
共に往き、先へと進むだけだ――
「――アシュターン……なるほど、あの【石柱都市アシュターン】か。
そして、それだけ[距離の広い]浮遊島が[同一座標]にあるということ――
――そうか。なら第三の問いは、もはや敢えて問う必要もないことになるね」
「はい、フェン兄様。
我々が、この二つの浮遊島を、[結合]――【再編】しました。
――【"識"たる楔】の、力を以て」
「――そうか、遂に成し遂げたしたんだね。
【楔】による[世界再編]――その第一実例を」
「行き掛かりの偶然ではありますが、【楔】の真の使い方が判ったことは大きな進歩です」
「しかし、どうやったんだい? ノア。
泥空文書にあった[誘引力生成方]も[芯破再結合方]も成立しなかったじゃないか」
「あれは少し怪しげです。貴重な資料の一つではありますが。
とにかく、本当に重要だったのは【楔】そのものの方で――」
――楔。
そう、楔だ。
二つの楔が一つになることで。
二つの浮遊島が一つになった。
――ならば。
この楔は、浮遊島とは――
――[ ≒ ]
いや、寧ろ――
そうだ、【魔法】のように――
――楔によって虚実空へと留められた【内包世界】
それこそが【浮遊島】なのでは?
そうであるならば、その【内包世界】は――【楔】のものに他ならない。
思えばあの[海の記憶]も、【内包世界】を覗き見た、と。
そう考えるの十分に可能だろう。
[仮説:楔は固有意思を有する?]
妄執、あるいは幻想。そこまでは行かない。精々が空想程度だ。
――少しばかり、気にかけておく必要が……あるか。
「ああ、これで此方の問いは。全て答えを得た。
{アシュターンにいた}君たちは{楔による再編結合を行い}、
{ラザントゥロウムがアシュターンと結合した}
だから君たちは此処にいるし、
此処からアシュターンの石柱が見えるし、
そうしたのは間違いなく君たちだ。ってね。」
「そういうことです、フェン兄様。
――では、此方の問いに参りましょう」
「お手柔らかにね、ノア」
「そういうわけには行きません。
では、まず――」
さて、此方の番だ。
聞きたい事は、山のように、積み上げた塵のように、幾らでもあるのだ。
彼女の話を、聞くとしよう――




