88話【来訪者】
「――〓-〓_〓-〓_〓-〓――ッ!!」
――---- - - - - -
……静止した未確認飛翔体を見やる。
損傷は、おそらく無い。
セタが産み落とした黒生物――軟体生物らしきそれは、十分に緩衝材の役目を果たしたようだ。
『大丈夫ですか、セタ』
甲板に出たボクは、先程セタの視界で見たものと同じものがあることを確認する。
セタの様子は――
「死ぬかと思ったよ……もう死なないのにね。
それで? メガリス。アレは――何なんだい?」
どうやら、問題ないらしい。
軽口まで叩く余裕があるのなら、つまり[被害:甚大に非ず]ということだろう。
『[推定論理展開]。
先程の、信号発信者かと』
「――まあ、そうなるかね。
で、どうすんだい? まずは遭難者の顔でも拝むかい?」
……どのような、人物だろうか。
ボクは僅かに思考し、言葉を返す。
『妥当、かと。
まず姿を見ないことには、対処不能ですので』
「よし、じゃあ――」
セタは黒生物を戻しながら、鳥型機体へと近づく。
宛ら嘴のような形をした開閉口に近づき、手を――
[# ――待て、女機人。 ]
「――あ?」
――音声!
発信源は――やはり、鳥型機体か!
[# 汝、その手で我に触れるなかれ。
主は、{その黒塊は何か}と仰せられておる]
「――アタシの[制御下能力群]だよ。
なにか文句でもあるってのかい?」
[# 否、正当なる警戒行為である。
逃れた先が彼奴らの巣であっては、もはや主を護ることも出来ぬ]
――警戒? 彼奴ら?
追われていたのだから当然――追う者が、いて然るべきだ。
果たして――そうか?
[# 故に、汝らに問う。
汝ら、[錆砂]に呑まれた傀儡どもではあるまいな?]
――サビズナ?
おそらくは固有名詞。呑まれる――? 虚空に呑まれるように?
あるいは別の比喩――ないしは、そのままを表した物理的表現――いや、これは、どちらにせよ――
『――失礼、[名称不明待機]……』
[# 傀儡どもに名乗る名など持ち得ぬ。
故に、未だ分からぬ汝らに明かせる名称は無い]
……まあいい。
それなら、好きに呼ばせてもらうだけのことだ。
『では、黒鳥。
――【錆砂】とは、何なのですか?』
[# ――む?]
沈黙、少しばかりの思考。
{意外だ}という印象。{きょとんとしている}ような反応。
「アタシも、気になるね。
一体なんでそんなに――怯えてんだい?」
[# ]
――絶句。おそらくは[怒り]を抑えようとする類の感情。
となれば、少なくとも――まだ、会話の余地はある。
『錆砂は[危険なもの]なのですか?
[破壊]や[劣化]、[変質]や[混迷]を齎すものですか?
それとも――』
[# よ い .]
――割り込まれ、発せられる音ひとつ。
[否定]ないしは[肯定]の言葉……どちらだ?
[# 主は汝らを判断なされた。
{【錆砂の傀儡】どもではない}
{【明白なる意思を持つ者】だ}
――と]
――? 判断材料たりうる要素など、何処にも――
――いや、あり得る。
重要なのは[錆砂はどんなものか?]だ。
その答えによっては、十分な判断材料になり得る、か。
例えば――腐敗奴隷化病毒や、憑依洗脳霊体群、はたまた中枢支配寄生生物のような――
――【意思を奪う存在】
もし、そうであったとしたら?
[# ――故に、我は非礼を詫びる。
このバーバトゥルス。
汝ら両名に、誠に申し訳なき所業を――..,]
――言葉が、切れる。
{戸惑い}や{躊躇い}が見え隠れする黒鳥。
そして不意に。
黒鳥は開口部を開け。
誰かの声が――聞こえてきた。
「――貴方が謝るのは筋違いです、バーバトゥルス」
やや、女性的な――声。
「この己が命じたことです。
ならば、己が謝するのが筋というもの」
むしろ中性的。そう評すべきだろうか。
どこか、少し――濁りが、混じる。
「申し訳ありません、機婦人方」
足音が近づき、体の一部が姿を現す。
「ご無礼をどうかお許しください。
何分、状況が状況でして」
甲板に降り立ち、その姿が光に晒される。
「よろしければ、どうか――」
長い髪が、風に靡く。
目元から、反射光――おそらくは、視覚補助器具の類いか。
「――我々の話を、聞いて頂けませんか?」
金色の髪をした、女性――? ――は、ボクらの方を向き。
やや小柄な体躯を折り曲げ、礼と思しき動作を取った――




