表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

36/314

34話【浮遊島】

『拠点に、戻るのですか?』

「ああ。お前の機体(からだ)の事もあるし、一度顔を出して置かなければならないからな」


艦内、指揮室。行われているのは、ちょっとした情報調整(ブリーフィング)だ。


……勿論、服は着ている。

この間とは違い、比較的簡素な上下繋(ワンピース)のようなものだ。


どうやら、この空域(・・)はそこまで危険な場所ではないらしい。

そこまで動きやすい服装ではないのだが、それならばと受け入れた形となる。


「……技師(いしゃ)がいるのですか? その――」

浮遊島(ロカル)[断章世界シャーディド・ドメイン旧王国(ロストキングダム)_エデルファイト子爵領(ヴァイカウンティ)]

 ――まあ、単に自国領(うち)でも構わないがな」


『そう、ではその……子爵領に、機人(ボクのようなもの)を専門に診る、技師(いしゃ)が?』

「ああ、頼りになる人だよ。(オーチヌス)も彼女に診て貰っている。

 ――少しばかり変人、というのはまあ、玉に瑕(もんだい)だが」


苦笑するヘル。

彼女、と呼んだ以上、技師(いしゃ)は女性なのだろうか。


「それと――ああ、父上(おとうさま)に、お前のことを紹介しないとな」

『お義父様――エデルファイト子爵様ヴァイカウント・エデルファイトに、お目通りできるのですか?』


貴族。といえば、お偉方だ。

いくら制度とは言え、拾い子のようなボクに会おうとするようなヒトなのだろうか。


ヘルはすこしキョトンとした顔で、答える。


「それは――当然だろう。

 お前も、子爵家(わがや)の一員なのだから」


……ふむ。

なんというか、やはり。


ずいぶんと、大らかな気風――そんなようなもの、なのだろうか。


『そうなのですか……開かれた家風、ということなのですね』

「ふふ、まあ、そんなところだ」


自慢げな顔で少し笑うお嬢様(ヘル)

その姿は、なんというか、可憐だ。


「……? どうした、メガリス」

『いいえ、何でもありません。お姉様(ヘル)に見とれていただけです』


「……見とれ――!?」


いけない、余計な発言をした。

そういうことは思考の内に秘めておいてこその華だろう。


赤面するヘルを見なかったことにして、次の質問を投げかけることにする。


『そんなことより、"旧王国"とは?

 貴族が居る以上、王というものも健在であると思うのですが』


「……あ、ああ。その辺りは少しややこしい事情があってだな」


言葉を切り、思索する表情。

{どのように説明したものか}といったところだろうか。


「結論から言えば、"王というものは、居ない"し、"私の知る限り、それはお伽噺の存在"だ」


……少し、理解が追いつかない。

もう幾許か、情報を追加すべきだ。


『……詳細を』


「詳細、というほどのものでもないがな。

 【大破砕(グランドシャッター)】については、前に話したな?」


『はい。世界が大いなる大地(だいち)から切り離されて、

 散り散りの浮遊島(ロカル)に成り果てた、と。』


「ああ。だが破砕はヒトの引いた国境線(きょうかい)など、少したりとも意に介さなかった。

 王の住む都に至っては、城そのものさえ断ち切られ、バラバラのコナゴナになったという」


「もちろん王は生存を赦されなかった。その血族も幾らか居たらしいが、いつの間にやら全て絶えてしまっていたらしい」

「王は不在、国土はバラバラ。その時点で、かつての王国は旧王国となった」


「そうなればもう、各々の浮遊島(ロカル)で自治をする他ない。

 たまたま浮いたその土地の、領主がいれば領主を、居なければ有力者を、

 それさえ無ければ適当に、人柱(ヒト)を立て、やれるだけの事をやる他なかった。」


当家(うち)偶然(たまたま)、所領の大部分がそのまま浮遊島(ロカル)となった家でな。

 辺境の地方領主が、そのまま浮遊島の主になった――ということらしい」


「そんなわけで、言ってみれば子爵(・・)というのも名ばかりのことだ。

 使えるべき王もなく、諂うべき上役(きぞく)もなく。ただ従う民が居るだけだ」


「まあ、単純に。過去に使われていた名を、

 そのまま流用しているだけ、といったところか。

 爵位、貴族としての意味など、もはや別のものだろうな」


「そう、だから、話のはじめに"むかしむかし"が付く。

 私達にとっては、"お伽噺のようなもの"さ」


ヘルは、一息をつくと、卓に置かれた茶の容器を手に取った。


ふと、部屋の外からノック音。

恐らくは、フルカからの知らせ。何らかの。


「入れ、フルカ」

「はい!」


ゆっくりと開く扉。入室するフルカ。

機嫌は、良さそうだ。今にも歌いだしそうなほどに。


良い知らせ、ということだろうか。


「なにかあったのか?」

「はい、当艦はもう間もなく――」


――{母港へ帰投いたします}――そんなところだろう。


何事もなければ、いいのだが――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ