15話【QとAの境界】
『――それでは、三つほど』
ああ、然り。
これが、今の。
――この世界の神話というわけか。
……随分と乱暴な、[世界再構築神話]だ。
醜悪な人間を全て消し去り、一部の生存者を残しているところを見ると、
あるいは[洪水伝説]の類いでもあるのだろうか。
いや、もう少し単純に考えて、[神門塔の崩壊]や
[悪都に注ぐ天よりの硫黄火]の事例……
すなわち――{増長した人間への神罰}とも考えられるか。
【神々】を自称する割には、
まるで、[統一神格]のような真似をする。
――さて。
それはともかく。
一つ目の質問は、女神の事だ。
『その[神々]に、[女神が居た]という伝承は、残っていないのですか?』
ボクをこの世界に産み落とした女神は――はたして【異郷の神々】なのか?
もし、そうなのであれば、話が早いのだが……。
「すまない、それは分からない。
何せその[カミサマを名乗る何者か]と遭遇した、
という文献は一つもないのだからな……」
『いいえ、ありがとうございます』
ふむ、そこは不明なのか。
ならば仕方ない。いずれ調べることとしよう。
……そうして、次の質問だ。
『では二つ目を。
今、ボクが見ているこの空と、
[虚空]とは違うものなのですか?』
先の神話において、【虚空】は[なにもない空間]
[世界の隙間]だと定義されていた。
今、ボクが乗っているのは、[虚空を渡る船]だ。
周りに見える空は、陽の光があり、揺らめく雲があり、青く輝く美しい空だ。
なにもない空間とは、とても思えない。
虚空とは何か。
――空とは、何か?
「……そうである、とも言える。
だが、そうではないと言うこともできる」
『――[50:50の猫箱]、ということですか?』
「そうだ。この世界の空には、私達が空と呼ぶものと、
虚空と呼ばれるものが同時に存在しているのだ」
『それは、例えば――空間を隔てた先に?』
「そういう様にも言える。
例えば――フルカ?」
例え話にこの艦の機能を語らせるつもりだろう。
ヘルはフルカに話を振る。
「え、はい! このオーチヌスは虚空潜行能力を持っています!
この空の向こう側である【虚空】へと
その身を沈ませる事ができるんですっ!」
『――なるほど。
平行異次元式に隣接した領域に、ある意味での別世界として
【虚空】という空間が存在している……といったところなのでしょうか?』
「正解! その解釈でおおよそ構わない。学者たちに言わせると、綿密には
違うとかなんとか喧しいところだが、まあ気にするほどでもないぞ」
『ありがとうございます。
それでは、最後の質問ですが――』
これは今までとは少し意味が違う。純粋な興味によるものだ。
『――[人間と呼ばれる種族]、それはどういった範囲を示すのですか?』
【人間】の定義。
発掘機械が籍を持てるような世界だ。
何を以て、【人間】と【それ以外】を定義づける?
それはおそらく――ボクの自己同一性に関わる部分だ。
曖昧なままにしておくのは、少し――嫌だ。
ヘルは、ヘレノアールは、はっきりとした言葉で、答える。
「【意志力】……即ち、[明確な意思]を持つもの。
それが人間だ。その全てが、【人間】だ」
――!
……それは、つまり――




