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わがまま王女の騎士道物語  作者: もっこす
何でも屋の世界旅行
26/26

小さな騎士と大きな勇気


 アルナの視界に絶望的な状況が映し出される。


(しまっ……!)

体から汗が一気に溢れ出てくる。


(どうしよう……このままじゃトルルが……)

ゴクリと喉が鳴る。


(でも私が出て行ってどうなるの?)

ギュッと根を掴んでいる手に力が入る。


(出て行ったとしても、助けることなんて私にはできない……)

徐々に視線が下がっていく。


(それよりもこうやって身を隠している方がいいわ……)


アルナは魔物が鳥かごに近づいて行っている光景から顔を背けた。


(それに所詮鳥なんだし、別に死んだ……って……)



『トルルは私の大切な家族』



エレナの言葉を思い出し、アルナの心がドクンと波打つ。



(別……に……)



『もし……本当にもし生きることができるのなら、もう一度トルルと一緒に暮らしたいわ』



エレナの悲しい表情。

エレナの涙。

エレナの願い。



ドクンドクンと波打つ自分の心臓の音がアルナの頭の中に響き渡る。


ブルブルとアルナの体が今までにないほど大きく震えだす。


(あれ? なんでこんなにも震えているの?)


魔物が近くにいることによる恐怖心からか。

トルルが襲われている原因を作ってしまったという罪悪感からか。

それとも顔を背けている自分に腹が立っているからか。


(なんで……?)


アルナは再び視線をあげた。


醜い魔物が一歩、また一歩と鳥かごに近づいている。



――その光景は、まるで魔物がモナに一歩ずつ近づいているかのようであった。



 アルナの体がより一層大きくブルリと震えあがった。


そして思考とは関係なしに、アルナは隠れている根の陰から飛び出した。


(あれ……? 私なんで飛び出してるの?)


疑問の言葉を頭に浮かべていたアルナは、気がついた時にはもうすでに鳥かごの前に立っていた。

そして醜い魔物と向かい合った。


魔物はニタァという醜い笑みを浮かべている。


「あ、あはは……」

アルナもヒクヒクと引きつった笑みを浮かべた。


魔物のことを涙を浮かべながら見つめ、震える手で後ろにある鳥かごをつかんだ。


魔物はブヒブヒと鼻息を荒立て、口からよだれをダラダラ垂らしている。


そして手に持っている棍棒を高く振り上げた。


アルナの視線もつられて上がる。


高く振り上がった棍棒は、そのまま一直線にアルナに向かって振り下ろされた。


「ひゃぁ!!」


アルナは鳥かごを抱きかかえながらとっさに横に跳ね、降ってくる棍棒をよけた。


ズドンッという音が棍棒の当たった地面から響き渡る。


アルナの全身にゾクゾクとした感触が襲いかかり、鳥かごを抱く手にギュッと力が入る。


魔物の顔がゆっくりとアルナに向けられる。

そして再び醜い笑顔を浮かべた。


「きゃぁぁああ!」

アルナは無我夢中になって走り出した。


グフグフという汚らしい笑い声が背後から聞こえてくる。

そして再びズドンという音がアルナのすぐ後ろから聞こえてきた。


「いやぁあ!」


アルナは頭の中を真っ白にしながら走り続ける。

そして入り組んでいる木の根に身を潜らせた。


「こ、ここここココなら大丈夫なはずっ!」

あの魔物の巨体ではこの木の根の隙間まで入ってこれるわけがない。

後はフェイかフォーレイが助けに来てくれるのを待てばいいだけ。


心にわずかなゆとりが生まれたアルナは、ホッとため息をし、振り返った。


バギンッ!!


すさまじく大きい音と共に、アルナの目の前の大きな木の根がつぶされた。


「えっ」

アルナの思考が止まる。


目の前にあった太さが1mほどの木の根が、魔物のひと振りによって潰されてしまった。


「う、嘘……」


アルナの体が再びガクガクと大きく震えだす。


目の前には恐ろしい魔物がたたずんでいる。


アルナはジリジリと後ろに後ずさった。

しかし背中に木の根がぶつかる。

魔物の行動を縛る予定であった木の根が、今度はアルナのことを縛ってしまった。


「あっ……あっ……」


逃げ場はなく、戦うこともできず。


「あぁ……」


アルナはゆっくり振り上がる棍棒を見つめることしかできなかった。




「ピピピッ」




ゆっくりと棍棒が振り上がる中、鳥かごから聞こえるトルルの鳴き声がアルナの耳にはいりこんだ。


「ト……ルル……」



『依頼を受けたからには仕事を完璧にこなせ』



『アルナなら大丈夫だって。あたしがしっかり逃してあげる』



『……本当に私は生きることができるのかしら?』



『あなたは生き残るのよ! だから一緒に暮らしたいって言うあなたの願いを叶える必要があるわけ!』



まるで走馬灯のようにゆっくりした光景の中、皆の、そして自分の声がアルナの頭の中に響き渡った。




『お前のやりたい事を言ってみろ』




「私……」




私が家を飛び出した日の言葉。

夢を誓った言葉。




「私……!」




絶望に染まっていたアルナの瞳に力強い光が宿っていく。




『「私! 絶対騎士になるわ!」』




そして大きな声で叫び、背中に背負っていた王家の盾を構えた。



ガキィン!!



 すさまじい金属音と共にアルナの全身に衝撃が走る。

あまりの衝撃の強さにアルナは後ろにあった木の根にたたきつけられた。


「ゲホッ……!」


肺から空気を無理やり出されるような感覚に襲われ、地面にドサッと倒れこむ。


「ゲ、ゲホ……ま、魔物は……」

苦しげな表情を浮かべながら、アルナはヨロヨロと立ち上がり前を向いた。



「……あれ?」


魔物の姿が目の前にない。


いや魔物の姿があるにはあるのだが、それは3メートルほど先に存在していた。


遠くにいる魔物は倒れながら、キョロキョロと不思議そうに何も持っていない自分の手を見つめている。



「何が起こったの……?」

アルナは思わずポツリとつぶやいた。


魔物はガバッ立ち上がり、拳を握りしめながらアルナに駆け寄ってきた。


「きゃああ!」

アルナは悲鳴を上げながら再び王家の盾を構える。


ゴンッという鈍い音と衝撃がアルナの体に響き渡った。


そして魔物はドシンと片膝をついた。


「えっ? えっ?」

状況を把握できないアルナは視線を何度も盾と魔物とを行き来させた。


よく見ると魔物の腕からは白い骨が突き出ており、赤い血がダラダラと流れている。


魔物は折れた腕を押えながらバッとアルナから距離をとった。


苦悶の表情を浮かべながらアルナのことをにらみつける。



 アルナは再び体を大きく震わせた。


何故こんなにも体が震えるのか。


魔物に睨まれていることによる恐怖心からか。

よくわからないこの状況を不思議に思っているからか。

それとも自分の頭がおかしくなってしまったからか。


「……違うわ」


アルナは頭をブンブンと振り、雑念を払う。


そして美しい青い瞳を輝かせた。



「私は騎士なのよ! 守るべき存在がそこにあるならば、守りたくてうずうずしてしまうのよ!」



アルナはニッと不敵な表情を浮かべた。


「さぁかかってきなさい。私は絶対にトルルを守りきってみせるわ」

アルナはトルルの前に立ち、片膝をついている魔物のことを鋭く睨んだ。


魔物はビクッと体を震わせ、キョロキョロと視線を泳がせる。


そしてクルッと振りかえり、そのまま尻尾を巻いて逃げだそうとした。



――しかし魔物は逃げることができなかった。



まるで灼熱地獄のように赤い色の髪がそこにあったからである。


「お? なんだもう帰るのか? 手伝ってやるよ」

フェイは憎たらしい笑みを浮かべながらポンッと魔物の肩をたたいた。


そして魔物は瞬く間にゴオッと炎に包まれた。


「ただし、『かえる』といっても『灰に還る』だけどな」


魔物は真っ白な灰になり、風に吹かれて飛んで行った。




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