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記録1

 ルーナはどうして身を投げたのか。

 氷は彼女の私物を漁る。

 部屋には目が醒めたときに居合わせた女がいる。彼女はシサヤという、ルーナの世話係らしい。着替え、食事、そのすべてに手間取るルーナを、嫌な顔も面倒な顔もせずに手伝ってくれた。敵意は感じられず、善意の塊のような女だった。

「これは・・・・・・」

「それは日記帳ですよ、ルーナ様。表紙に付いた仕掛けネジが鍵になっているそうです」

 シサヤが優しく答える。

「これを見れば記憶が戻るかもしれません」

「そうですね。ですが、仕掛けは外せそうですか? 無理に外そうとすると燃えてしまうと言っていましたよ」

「少し、見てみます。すみません、シサヤさん。席を外してもらえますか?」

「わかりました。廊下の掃除をしていますので何かあれば呼んでください」

 シサヤは頭を下げて部屋を出た。


「さて」

 この細工は見たことがある。テサキョウ国の技術だ。前に仕事で訪れた時に苦労した。

 仕事の時に比べれば、日記帳の鍵の細工は簡単だった。

 ルーナは慣れた手つきで鍵を外すと、日記帳を開く。

 そこには日々の細やかな記録が残っていた。

 婚約者だと言った男の言葉は間違いではないらしい。男の名前はロクデム。この国の王子だった。幼い頃から親同士の交流があり、許嫁の関係のようだ。

 ルーナはこの国のとある領地の主の娘で、領地の場所は少し離れた所にあったが、ルーナは多くの時をロクデムのいるこの街で過ごしたようだ。

 日記帳にはルーナの言葉で、ロクデムがいかに素敵な男性かが綴られている。気さくで思いやりがあり、真っ直ぐな男。ルーナの言葉を信じれば、そんな男らしい。

 十六で故郷での学びを終えた彼女は現在、ロクデムの暮らすこの城で、婚約後を見据えて勉学に励んでいる。この国では王族の婚約者はそうする決まりなのだという。

 氷は、要点だけを眺めながら次々とページを捲った。

 日記の後半から、ロクデムの学友であるツリー・メウという女性がよく現れた。

 ルーナはメウとも仲良くなったものの、ロクデムとメウの距離感に戸惑っているようだ。

『ロクデム様とメウが二人で隣町へ出掛けていたみたい。大した用事ではないと言っていたけれど、少し気になってしまう。明日、どこかでロクデム様に聞いてみようと思う』

 このページだけが濡れた跡があり皺になっていた。どうやら、この裏のページ、次の日記を書くときに何か溢してしまったようだ。

 氷はページを捲る。

『すべて自分が悪いのに、心のどこかであの人を恨んでしまうのは、私の心が汚れているから。これを裏切りだと思ってしまうのは私の心が狭いから。それでもこんなに悲しいのは私の心がまだ彼に惹かれているから』

 濡れた跡の正体は、彼女の涙だった。日記はそこで終わっていた。


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