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殺し合いの独裁者[ディクタチュール]  作者: 加藤裕也
第1章 : 終わりの第一歩(コマンスマン)
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14. 詮索

 それから何時間が経っただろうか。あれから灯りのついている家を次々と訪ねていったが、どこのお宅も返事は同じだった。いつの間にか、目的は情報収集から泊まれる場所探しに変わっていた。


「や、やばいな。もう深夜の2時だ。そろそろ見つけないと」


 心の中で野宿を覚悟する碧斗(あいと)


ー俺は大丈夫だが、女子が野宿はまずいだろ!ー


 そう思った矢先、


「碧斗様、探しました」


 突如背後から聞こえた声に警戒し、後ずさる碧斗。だが、そこにいたのは見慣れたマーストの姿だった。


「ま、マースト!?」


「だ、誰?」


「俺の担当の方だ。水篠(みずしの)さんにもいるよね?」


 小声で聞いてきた沙耶(さや)に碧斗がそう言うと、静かに頷いた。今までは騎士のような格好をしていたのだが、今はスーツ姿だった事もあり、気がつくのに時間がかかってしまった。その様子は随分と新鮮に思える。


「も、もしかして俺らを王城に連れて帰るように言われたのか、?」


「いえ。今の状況は把握しました。どうぞこちらへ」


「「?」」


 2人とも頭の上に?を浮かべたように首を傾げたが、仕方なくついて行く。


「ど、どこに行くんだ?」


「私の家です。行く当てのない様子でしたので」


「家?」


 まあ驚く話でも無い。いくら王様に尽くしているからといって、自宅がないわけがない。王城に来る前に住んでいた家が必ずあるという事だ。


 この世界に家を売る概念や、アパートのようなものがあるかは不明だが、マーストの自宅は王城で働くようになった今でもあるようだ。


「あ、あのっ!私も行っていいのでしょうか、?その、貴方は伊賀橋(いがはし)君の担当さんなのに、」


 沙耶の問いにマーストは微笑んで言う。


「安心してください。これは、国王様の命令で行なっている事ではないので」


「え!?ま、まさか、マースト自身がしてくれてるのか?」


「はい」


 一夜を過ごす場所の無い碧斗達を見兼(みか)ねて、助け舟を出してくれたのだ。それも自分の意思でだ。


「あ、ありがとう」


 言葉にならない感動がこみ上げてくるのを感じた。この世界に来てから、人の色々な感情に触れている。人の(みにく)さや苦しさ、悪い事も多く感じたが、それよりも人の暖かさや優しさにも触れている。それは、人と接しているからだろうか。


ーだからこそ、修也(しゅうや)君にもきっと何か理由があるはずだー


「そろそろです」


 唐突なマーストの言葉にふと我に返る碧斗。


 町外れの草木が生い茂っている道の先、ほんのりと浮かぶ淡い光があった。


「あそこ、か」


 少し緊張気味に言う碧斗に、


「そんなにかしこまらなくて大丈夫ですよ。普通の家なので」とマーストは笑った。


 だが、異世界の普通の家というものを、転生してから随分と経っているのにも関わらず、まだ見たことがない碧斗は、見るもの全てがお洒落で珍しいものに見えた。


 家の見た目は木材建築の、ドーム型。ではないものの、丸い屋根をしている。素材のせいもあり、少し古くさい様にも感じたが、この異世界の雰囲気とマッチしていて、オシャレに見えた。


「どうぞ。こちらへ」


「「お、お邪魔します」」


 沙耶と碧斗はドキドキしながらそう言い、靴を脱ごうとする。だが、


「何故靴をお脱ぎに?」


「え?」


 一瞬戸惑ったのち、言葉の意味を理解する。


ーあ、なるほど。この世界では土足なのかー


 考えてみると、王城ではロイヤルホテルの様な内装だっただけに、ベッドの上以外は靴を履いていた。


「あ、まさか、貴方方(あなたがた)の世界では靴を脱ぐ文化がおありで、?」


「ああ。まあ、土足の国もあるけどな。俺たちが住む場所はそうだ」


「なら脱いでも、、あ」


 脱いでも大丈夫と言いかけて


「床は裸足では汚れてしまうので、慣れないかもしれませんが、靴を履いて入室してもらえると、」


と言い直すマースト。


「おう、わかった。まあ癖になってるから、直るまで時間かかりそうだけどな」


 と、笑って返す碧斗だった。


           ☆


「では、本題に入りましょうか」


「ああ。こっちの話は聞いてるのか、?」


「はい、ある程度は。5人目の勇者様が狙われていると聞いています」


 部屋のリビングであろう場所の、真ん中に置かれたテーブルを囲む様に3人で腰掛け、話を始める。


「す、すみません、、私のせいで」


「いえいえ。13人目の勇者様を庇っていると聞いたのですが」


 誰が何番目なのかは知らないが、話の流れから5番目が沙耶、13人目が修也であることが予想出来る。


「か、庇ってる、、のも確かにそうなんですけど、それより、"信じてる"んです。あの人を」


「ああ。俺も人を殺したのは許せないけど、何かあると思うんだ。何か、理由が」


「なるほど。それほどの信頼。きっとその方は、根は良い人なのでしょう」


「そして」と続け、マーストは言う。


「これから、その13人目の勇者様の誤解を解くべく情報収集をするということでしょうか?」


「な、なんでそこまで知ってんだ、流石にそれはキモいぞ」


「な、なんか、怖い」


 碧斗と沙耶はそう言いながら引いた。


「あ、いえ。そこはあくまで私の予想です。碧斗様の事なので、そういう思考に至るかと」


 流石、3週間一緒に過ごしただけある。一つ屋根の下で夜を共にしたのだから。この言葉だけ聞くと正直、変な疑惑が出そうだ。


「凄いな、マースト」


 と碧斗は棒読みで言う。


「で、その手伝いをしてくれるのか?」


「そうしたいのですが、転生者の情報は必要最低限しか提供されておりません。お力になれるかどうか、」


「そういえばそう言ってたな。いや、家を貸してくれてるだけで十分ありがたいし、これ以上何かを求める気はないよ」


 「ですが、」と、呟いてマーストは押し黙る。


 少し悩んだのち、碧斗は口を開く。


「じゃあ、ここを案内してくれないか?」


「よ、よろしいですが、その様な事で良いのですか?」


 マーストと沙耶は首を傾げる。


「ああ。まずは"この世界"の情報を聞き出す必要がある。それには、この世界の事を知らなくちゃな」


「そ、そっか、それなら、少しは情報も、、」


 静かに沙耶が呟く。今回は泊まらせてもらえる家を探すのを優先してしまったが、街を案内してもらえれば少しは情報が手に入るかもしれない。そう考え、情熱的な瞳をマーストに向ける。その様子を見たマーストは少し考え、碧斗に向き直る。


「分かりました。この国の案内をさせてもらいます」


 そう言ってマーストは笑ってみせた。それに応えるべく、碧斗も笑顔を作った。


「ありがとう。お世話になります」


           ☆


「おっ、発見」


 夜の街を彷徨(さまよ)う修也の姿を、屋根の上から覗く1人の影。その言葉と同時に修也に襲いかかる。


 すると、


「はっ」


 修也の微笑(びしょう)と共に、腹に蹴りが入る。


「ごはっ!?」


 蹴りの反動で押し出された男は、壁に打ち付けられる。


 「ごほっ、ごはっ」咳をしている男の前に、修也が立ちはだかる。


「お前は、海山智樹(みやまともき)。能力は"草"だったか」


 目の前には「金色に輝いた天然パーマのイケメン」。海山智樹が座っていた。


 海山智樹(みやまともき)。能力は「草」。


「ごほっ、ふっ、同じ高校なんだからそれくらい覚えとけよ」


「悪いな、雑魚の名前を覚えるほどおつむが良くないんでね」


 苦笑いで言う智樹の言葉に、下卑(げび)た笑みで返す修也。


「てか、こんな街の中央で普通襲うかねぇ?ま、どっちみち俺が勝つけど」


 修也の強気な発言に、更に殺意が湧く。目の前に居るこいつは確実に「殺しを楽しんでいる」と。


「大した自信だな。だが、お前に勝利は訪れない」


「何故そう言い切れる?」


「俺がお前をぶっ殺すからだ!」


 大声でそう叫ぶと同時に智樹の両側から茎が生えて、修也に向かって鋭く伸びていく。


「はは、馬鹿か」


 静かにそう呟くとスルリと茎の間を通り抜け、避ける。


「そうはいかないよっ」


 すると、草の軌道が変わり、修也を追う様に伸びていく。


「なるほど。追尾(サーチ)も出来るのか。面白い」


「自分の状況が分かってないみたいだなぁ!そのまま逃げ続けても体力を消耗するだけだぞ修也!」


 茎を避けている修也は、ふと不気味な笑みを浮かべる。


「分かってねぇのはお前の方だ。智樹くん」


「はっ、そこからお前は俺に手も触れられないのに、どうやって俺を倒すんだ?」


 その笑みを智樹はそのまま修也に返す。すると、茎が突然伸びなくなり、、いや、茎が動かなくなった。


「一体何が起こって、?」


「あーあ、折角全員の前で俺の能力発表してやったのにな」


 その言葉でハッと気がつく。茎は動かないのではなく、凍っているのだと。


「相手が悪かったな。どんなに頑張っても、この冷たさでは植物は育たない。俺が少しでも冷気を送ればお前は何も出来ないって訳だ」


 そう言いながら茎に触れると、しなるように折れて、すぐさま灰のように粉々になった。その様子にようやく自分の置かれた状況に気がついたのか、智樹は力が抜けるのを感じた。


「さあ、処刑の時間だ。俺に歯向かった罰だ」


 そう言うと空中に氷の(かたまり)を作る。そして、智樹の方向を指差すとその塊が勢いよく指差した方向に飛んでいく。


「まずいっ」


 反射的に避けようとしたが、しかし。氷の速度に追いつけずに左腕をへし折られる。


「がぁぁーーっ!!!」


 言葉にならない激痛が智樹を襲う。


 左腕が取れかけており、何本かの筋でしか繋がっていないような状態になっている。


「あーあ。痛めつけない為にわざわざ心臓狙ったのにな」


 左腕がただ「体にくっついている」だけに感じ、腕が使い物にならない事を物語っている。


「くそっ」


 最後にそう呟くと、大きな樹木を修也と智樹の間に隔てる。目の前に突然現れた樹木に一瞬戸惑ったのち、それも凍らせ枯れさせる。


 だが、


「逃げたか」


 木の後ろには智樹の姿はなかった。そう修也は呟くとまた薄暗い夜道を突き進むのだった。


           ☆


「くそがっ、クソがっ!いつもいつもイキリやがって。弱者は黙ってろってか?」


 自分の部屋に帰ってきた智樹は、腕に植物を何重にも巻きつけ、ギプス代りにしながら修也への殺意を口にし、歯軋(はぎし)りするのだった。その時、


「ははっ、雑魚いね、君」


 突然智樹の背後から声が聞こえる。


「誰だ!?」


 その声に驚き、怒鳴る智樹。それに「そんな驚かなくていいのに」と応える。そこに居たのは赤い髪が目立つニヤニヤとした男だった。


「確かお前は、訓練の時1回も能力を使ってなかったっていう、」


 転生されてから1度も能力を使っていない人が2人いるという事は、能力も把握できていない事から話題になっていた。


「おっ、よく知ってるね。そんな君に教えてあげるよ」


 部屋が暗いのもあり、不気味な様子が更に強まる。その様子に躊躇(ちゅうちょ)しながらも智樹は口を開く。


「な、何をだ?」


 その男が笑った拍子に、赤い髪に合った赤黒い双眸(そうぼう)が露わになる。他の人からは感じない独特のオーラに唾を飲む智樹。それに応えるべくその男は静かに言う。


「お前が"勝てる戦い方"をだ」

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